117 数え歌


 フィリップが各所で別れの挨拶をすることで関係のある人や夜の街に衝撃が走ったけど、フィリップが帰るのはまだ先だから普通に現れるので、「あの涙はなんだったんだろう?」と首を傾げる人が続出。

 そのフィリップは、レベル上げは終わっているので、極力関係のある人と会うようにしている。特に犯罪に走りそうなロリを優先して……


 それと、帰りの準備。馬車の乗り心地が悪いから、いいクッションを手に入れようとお掃除団に発注していたけど、しょぼい物しか持って来ないので違う手を考える。

 何かいい物はないかと考えて、ダンジョンの一階にいるスライムを外に出して倒してみたら、そのままスライムの体は残っていたので使うことに。

 ただ、スライムを誰かに見せてしまうと勘繰られそうなので、頑丈な皮の袋を四角く加工してもらった物を用意してもらい、自分でスライムを入れて縫っていた。


 自分が寝転べるだけの数のスライムクッションがやっと完成したところで、ダグマーが同席することを思い出して、フィリップは「無駄な努力をした」と心底落ち込んだらしい。



 中間試験はもう関係ないとか思っていたフィリップだったから仮病を使おうとしたけど、たまには行かないとダグマーが勘繰りそうなので、とりあえずしばらく出席。

 すると、毎日のようにカラフル王子がラーシュの元へやって来て、勉強を教えてもらっていた。


「ずいぶん仲良くなったもんだね~」

「まぁ出会いはアレでしたけど、他国の王子ですから無碍むげにはできませんよ。それになかなか素直ないい子たちですよ」

「ふ~ん……いい先輩ができてよかったね」

「「「「はいっ!」」」」

「いや、これは殿下がやることだったのでは……」


 王族どうしの関わりを持てることがこの学校の強みなのだから、ラーシュの意見は至極真っ当。しかしフィリップは耳を貸さずにバルタサールたちと喋っている。


「僕、しばらくしたらここを去るから、ラーシュのこと頼んだね」

「はい。僕たちに任せてください。それと、噂を真に受けた件、本当に申し訳ありませんでした」

「もういいって言ってるでしょ。ま、その調子なら、僕みたいなことになる人は現れないかな? くれぐれも、貴族の噂をそのまま信じちゃダメだからね」

「「「「はいっ!」」」」


 この件はラーシュからも叱られたらしく、カラフル王子は従順。めったに学校に来ないのにフィリップの噂が増えるのだから、カラフル王子も恐ろしく感じたらしい。


「ついでにお願いなんだけど、ここの女王様のこと気に掛けてくれない? もしも助けを求めて来たら、ブンテレンジャーに出動してほしいの」

「女王様ですか??」

「まだ即位して浅いから、何かと大変でしょ? それにオッパイ大きかったでしょ~?」

「「「「はい……」」」」

「ラーシュもね」

「胸は関係ないですよね?」


 顔が赤くなっているカラフル王子にはオッパイは通じたけど、ブンテレンジャーのリーダーであるラーシュには通じず。そりゃそうか。


「帝国が関わってるんだから、頼むよ」

「殿下の後始末も家臣の仕事ってことですか」

「そそ。そんな感じ~」

「いまのは嫌味ですよ? ラーシュ君ってのやらないのですか??」

「ラーシュ君……僕、寝るね。おやすみ~」

「殿下も勉強してくださ~~~い!!」


 フィリップがいつものノリをやらないし中間試験対策までしないので、ラーシュはツッコミで忙しいのであった。



 中間試験を30点代で終えて鼻高々だったフィリップは、ダグマーとラーシュから鼻を折られたら、また仮病で夜の生活に戻る。

 もう間もなく帰ることになるので、夜の街よりクリスティーネを優先して毎日のように通っている。そのあと、夜の街に出てるけど……


「最近、本ばかり読んでますね」

「ん~? クリちゃんも毎日だと大変だと思ってね~」

「確かにそうですけど……でも、一回は必ずしてますけど……」


 フィリップの言葉に納得しかけたクリスティーネは、やっぱり納得できない顔をしてる。


「神話の本って、そんなに面白いのですか?」

「ぜんぜん。ほとんど書いてること一緒だし」

「じゃあ、なんでそんなに真剣に読んでるのですか?」

「ちょっとした調べ物だよ。でも、結局見付からなかったな~……」


 クリスティーネに集めてもらっていた山積みの神話の本は、今までで2周ほど流し読みしたフィリップ。残り時間も迫っているので、諦め顔で本をパタンと閉じた。


「何を探していたのですか?」

「う~ん……ま、いっか。気になる表現というか、変わった点? 要は、僕も何を見付けたらいいかわからないまま調べ物してたんだよね~」

「なんですかそれ。それでよく分厚い本なんて読めましたね」

「まぁ飛ばし飛ばしだったからね」

「それで~……気になる点はひとつもなかったのですか?」

「あったにはあったけど、それも2冊にしか出て来ないから、関係あるかどうか……」


 フィリップの探し物が気になり出したクリスティーネは、文章を見せてもらっていた。


「歌……ですか」

「そそ。どこかに導くとなってるけど、どんな歌かも誰が知っているかも書いてないんだよね~」

「歌……」


 クリスティーネは少し考えてから歌い出す。


「1は左手、2は右手、3は左手4も左手。5に6は右手~♪」


 その歌は、手も付けて踊るような歌なので、フィリップはクリスティーネの胸ばかり見て楽しんでいた。


「そこに探し物があるだろう~♪」


 クリスティーネは歌い終えると、フィリップを見たら拍手していた。


「いいねいいね。ポヨンポヨンって凄かったよ~」

「どこ見てるんですか? 歌、聞いてました??」


 もちろん胸。でも、歌はちゃんと聞いていたらしい。


「変わった歌だったね。誰が作ったの?」

「誰が作ったかわかりませんが、この国の者なら誰でも歌えると思います。親から子というか、数を数える時や探し物をする時につい口ずさんでしまいますし。子供たちなんかは、歌いながら踊ったりしてるんですよ」

「へ~……土着の歌、か……クリちゃん、それナイス」


 フィリップはベッドから飛び下りると、クリスティーネに歌わせて自分はクルクル回る。


「あははは。プランプランしてかわいい~」

「どこ見てるんだよ~」


 似た者カップルである。フィリップは裸なのを思い出してある部分を隠したら、クリスティーネは残念そうな顔をした。


「そのプランプランのどこがナイスなのですか?」

「プランプランは関係なくて、方向を表してるのかと思ったんだけどね~……」

「方向ですか。ということは、最後に向いていた方向に、探し物が見付かるということですか?」

「歩いてみた感じ、最後は必ず元に位置に戻る感じだったから違うか~。いや……あるかも??」

「ある??」

「服着て! いまから宝探しに行こう!!」


 突然、フィリップは楽しそうにクリスティーネに服を着せて寝室から出るのであった。

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