116 別れ話
皇帝から手紙が届いたその夜、ダグマーが部屋から出て行くと、フィリップは急ぎ足でクリスティーネの寝室までやって来て、窓をノックした。
「あれ? いるじゃん」
しばらくノックしても開かなかったので、フィリップはゆっくり窓を開けて中に入ると、暗闇のなか、クリスティーネはベッドの上で体育座りをしていた。
「フィリップ……」
「ひょっとして……ここにもお父さんの手紙、届いたの?」
「はい……」
クリスティーネは涙目でフィリップの顔を見る。
「フィリップ……帰っちゃうの?」
そう。クリスティーネが泣きそうなのは、皇帝がフィリップを呼び戻したから。ダグマーもまだまだ一緒にいると思っていたのに、突然任務終了がやって来てしまったから暗い表情をしていたのだ。
ちなみにフィリップは、乙女ゲームでは途中参加するから呼び戻されると知っていたけど、すっかり忘れていたからちょっとだけ驚いたんだって。
「お父さんの命令だからね。僕は逆らえない」
「そ、そんな……行っちゃヤダ……フィリップがいないと、私……うぅぅ」
泣き出してしまったクリスティーネを、フィリップは優しく抱き締める。
「ゴメンね。僕もクリちゃんと離れるの寂しいよ。でも、僕は皇族だからどうしようもないの」
「せめて卒業まで……まだフィリップがいないと、国がどうなるか……」
「大丈夫。クリちゃんなら上手くやれるよ。自信持って」
「でも、でもでも~~~」
クリスティーネは何かと理由を付けてフィリップを引き留めようとするが、フィリップは全て優しい言葉で断るのであった。
長い時間、ただただ「帰らないで」と「ゴメン」のやり取りを続けていた2人だが、深夜になるとようやくクリスティーネに諦めが出て来た。
「すみません。グスッ。私、面倒くさい女ですよね……」
「ううん。急にさよならなんて言われたら、誰だってそうなっちゃうよ。言いたいこと、全部吐き出して。聞くから」
「うぅぅ……子供のクセに、なんでそんなに余裕があるんですか~~~」
ここからは、ケンカ腰。子供のクセにと
「生きててゴメンなさい……」
「そ、そこまで言ってないですよ!? 私も言い過ぎちゃいました~~~」
いや、死にたくなったらしい。なのでクリスティーネも焦って、上着を脱いでフィリップの顔を胸に押し込むのであったとさ。
「ああ~。スッキリした」
泣いたり怒ったり、言うことを言ったり罵ったり、フィリップとマッサージをしたりされたりしたクリスティーネは、やっと平常心に戻った。たぶんマッサージは関係ないと思われる。
「まぁ帰るまでまだ2ヶ月近くあるから、できるだけ顔を出すようにするね」
「そう……ですね。まだそんなにあったんでした……」
クリスティーネ、泣くのが早すぎた問題発生。全て吐き出したあとでは、どんな顔をして会っていいかと思い、恥ずかしくなってるな。
「フィリップが悪いんですよ! 大人すぎるから!!」
なので逆ギレだ。
「前に言ったでしょ? 色恋沙汰が凄いって。別れ話もやったことあるもん」
「そうですけど、それ、いま言う??」
「あはは。ゴメンゴメン。でも、クリちゃんはまだマシだよ?」
「どこがマシなんですか~」
「カールスタード王国に来る前にね~……」
フィリップは一服盛られて、ほとんど拉致されたかのようにカールスタード王国まで連れて来られたので、夜の街で出会った女性には別れを告げられなかったと寂しそうな顔で聞かせていた。
「そんなことがあったのですか……」
「ね? 酷いでしょ~? みんなも心配してるだろな~」
「それは心配する……あれ?」
「どうしたの??」
「そこに友達や城の人が出て来ないのですけど……」
「友だとかは、ほら? もうカールスタード学院に行くって知ってたから……前日にお別れ会やってくれたんだったかな~??」
「ボッチだったのですね……グスッ」
フィリップの嘘はバレバレ。カールスタード学院どころか帝国にも友達がいないのでは、クリスティーネは今度は哀れみの涙が出てしまうのであったとさ。
それからダグマーとカールスタード王国側で話し合いが行われ、帰る日取りが決まったら、フィリップは各所で別れの挨拶。
唯一の友達である酒場のマッツは、角刈りのクセに大泣き。高級娼館に連れて行ってもらえなくなるからの涙だとフィリップは疑っていた。マッツは「それもある」とか言ってたんだって。
お掃除団のホームにも顔を出したら、オロフとトムも泣いていた。こっちもお金のことかと疑ったら、感謝の言葉だらけ。朝まで感謝するお掃除団に逃がしてもらえなかったそうだ。
太客がいなくなると聞いた娼婦やクラブ嬢は阿鼻叫喚の騒ぎだったんだとか。フィリップは依存されないように振り分けていたみたいだけど、落とすお金が桁違いだったから、結果は同じだったみたいだ。
フィリップがナンパして週一ぐらいで会っていた一般女性は、泣いて引き留めていたらしい。彼女のつもりでいたんだとか。でも、手切れ金を渡したら、大抵の人は喜んでいたらしい。多すぎたもん。
その中には、手切れ金を渡しても涙が止まらない者もいる。
「ハタチ君。いがないで~。毎日舐めさせて食べさせて飲ませて~」
ショタコンど変態のロリだ。週一ぐらいでしか会ってないのに、もっと会えとワガママになってるな。何を舐めて食べて飲んでいたのかは、サッパリわからない。
「僕も寂しいけどゴメンね。あと、他の男の子、さらったり監禁しちゃダメだからね?」
「そ、その手があった……グフッ」
「お姉さん! ロリさんが誘拐犯にならないように見張ってて! お金あげるから!!」
「「「極力がんばるけど……どうなるかな~??」」」
フィリップは犯罪を未然に防ごうとしたけど、策を与えただけ。焦ってカロラたちにお願いしたけど、ロリの犯罪者顔を見てすでに諦めてる。
「ゲヘヘへヘヘヘ」
「ロリさん、犯罪者にならないで~~~!!」
フィリップと関係を持ったがために目覚めてしまったロリがどうなったかは、神のみぞ知る……
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