115 祭りのあと


 オロフたちと喋っていたら時間は過ぎ、客も半分以上減ってマッツも会話に入っていたら、後ろから女性の大声が聞こえる。


「ハハ、ハタチ君から離れて!」

「衛兵呼びますよ!」


 フィリップの元スパイ、カロラとロリを含めた4人のお姉さんだ。オロフたちから前回逃げたから、今回は頑張って戦う構えみたいだ。


「あ、お姉さんたち。お疲れ~」

「お疲れじゃなくて!」

「こいつら、もうマフィアじゃないよ?」

「「「「へ??」」」」

「席開けて。隣どうぞどうぞ」


 フィリップがオロフたちをシッシッと奥に追いやったら、カロラたちは恐る恐るフィリップの両隣に分かれて座った。


「あいつら、スラム街の英雄、お掃除団の幹部だよ」

「「「「そうなの!?」」」」

「ちょっと強面だけど、クーデターでは活躍してたんだから怖がらないであげて」

「なんでそんな人と関わりがあるの?」

「ただの飲み仲間。それより、今日はみんな遅いじゃん。忙しかったの??」


 オロフたちの顔は知られていないがお掃除団はけっこう有名なので、ロリたちの警戒は解けた模様。ただ、フィリップはその中心人物だったから知られたくないので、すぐに話題を変えていた。


「戴冠式の準備とか片付けでね~。もうクタクタよ。でも、女王様のことも祝いたいから、一杯だけ乾杯しようと思って来たのよ」

「そっか。城勤めじゃ遅くなるよね~。マスター。高いの出してあげて。みんな一緒に乾杯しよう!」

「「「「「かんぱ~い!」」」」」


 フィリップがタダ酒を振る舞うと、カロラたちもオロフたちも笑顔で乾杯。城での出来事をさかなに飲んでいる。

 そんな中、ロリだけは違う肴で酒を飲んでる。フィリップのパンツに手を入れて、なんで酔えるんだ……


「そういえば、今日かわいい男の子見たの~」

「なに~? 僕以外に目移りしたの??」

「ウソ! ハタチ君以外、目に映らないよ。だから捨てないで~」

「捨てないから、どんな男の子か教えて」

「私、昼のパーティーで給仕してたんだけどね。貴族の子供さんたち、すっごくかわいかったの~」


 どうやらロリは、カールスタード学院の生徒をロックオンしてエロイ目で見ていたらしい。そのことを悪びれもなく言うので、フィリップ以外引いている。フィリップにはそういうお姉さんがいてくれないと死活問題だもん。


「中でも帝国のフィリップ殿下は別格。クルクルパーマでかわいいの。あんな子に抱かれたいわ~」

「ブフゥゥッ!!」

「きたねっ!?」


 でも、ロリが本当の自分をロックオンしていたのかと驚いて、フィリップはジュースをマッツに吹きかけていた。


「ハタチ君??」

「ゲホッ。ゴホッ。なんでもない。ゴホホ」

「そういえばハタチ君……フィリップ殿下に似てるかも? 金髪のクルクルパーマにする予定とかない??」

「あんなヤツと一緒にされたくないからイヤだよ。アホで引きこもりで女癖悪いんだよ?」

「そうなの。女癖悪いから、私にだってワンチャンあるかも~?」

「ワンチャンどころか……なんでもない。今日はこのあと暇??」

「ヒマヒマ! やっぱりハタチ君が一番好き~~~!!」


 フィリップはマッサージしまくってると口を滑らせそうになったので、ロリを自分に食い付かせて完全に忘れさせる。ロリはどこに食い付いてんだか……


「んじゃ、僕は宿屋にしけこむよ。お姉さんたちはどうする?」

「「「久し振りに行こっかな~??」」」

「みんな~。まったね~」


 こうしてフィリップは4人の女性を侍らせて、酒場を去るのであった……


「「うらやますぃぃ!!」」

「そう? 嫁1人いればいい」


 それを見て血の涙を流すマッツとオロフ。嫁大好きトムであった。



 戴冠式も終わり、カールスタード王国の首都もいつもの日常に戻ると、フィリップもいつもの夜遊びに戻っていた。

 フィリップの誕生日は各所でこじんまり祝ってもらい、年末年始は各所に顔を出して派手に遊び、3学期が始まるちょっと前にフィリップはダンジョンの中で悩んでいた。


「いい加減、レベルアップしてもいいと思うんだけど……」


 何度もケルベロスとファフニールを倒しているのに、レベルがぜんぜん上がらないからだ。


「99がカンストってことかな?」


 いや、ついにフィリップはやり遂げたのだ。


「思ったより早かったな~……これで兄貴と戦う時も余裕だけど、楽しみがひとつ減っちゃったよ。せいぜいレアアイテム集めぐらいか。それもな~……」


 フィリップの楽しみはレベル上げ。次にアイテム集めだが、ファフニールソードは初回特典だったらしく、あれ以降出ていない。

 その後はアーティファクトクラスの武器防具などが出て来るが、最近は持ってる物しか出て来なくなっていたから、こちらも打ち止めじゃないかと思っている。


「お金も腐るほど手に入れちゃったし、ダンジョンは卒業かな? たまに息抜きで遊びに来るか~」


 こうしてフィリップのダンジョン生活は、終わりを告げたのであった……



 やることがひとつ減ったフィリップは、精力的に夜の街に繰り出していたある日、ダグマーが神妙な顔でフィリップの部屋に入って来た。


「殿下。皇帝陛下から手紙が届いております」

「父上? てか、ダグマーはどうしたの? なんかあった??」

「いえ、私は……私にも陛下からの命令が下りましたので、まずは手紙を読んでください」

「手紙絡みってことか……」


 フィリップは皇帝の手紙に目を通すと、軽く頷いた。


「なるほどね~……」

「思ったより喜ばないのですね……」

「嬉しいよ。嬉しいけど、いまはダグマーだよ。父上には僕のほうから頼んであげるから、元気出して。ね?」

「はい……」


 この日は元気のないダグマーを励まし、制限時間ギリギリまで一緒に過ごすフィリップであった……

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