114 クリスティーネの戴冠式
カールスタード学院の2学期が終わると、クリスティーネの戴冠式が行われる。
他国からの出席者は急に決まったこともあり、近隣諸国のお偉いさんが……ゼロ。カールスタード学院の生徒が大多数。
カールスタード王国の貴族が集まるということは謀反の可能性があるから、親は子供たちを売ったらしい……このこともあって、ラーシュもお留守番だ。
カールスタード王国の領主や貴族の当主は全員参加と打診したが、約3割は欠席。まだクリスティーネを認めていないから、仮病を使ったみたいだ。
フィリップも仮病で休みたかったが、いつも仮病を使っているのでクリスティーネには通じず。なので、パートナーのように扱われないことを条件に、ドレスアップしたダグマーと一緒に出席していた。
ダグマーがこんな格好をしているのは、不本意ながら。メイド姿ではフィリップが
戴冠式の内容は、お城では立食パーティーと王位に就く式典。子供が多く出席しているので、どちらも短時間の形だけだ。
いちおう帝国第二皇子であるフィリップが祝辞を読むというミッションがあったから、ダグマーとラーシュがルビ付きのスピーチ原稿を書いて渡していたけど、フィリップはいざ壇上に上がったところで落としたとか言ってた。
そのせいで、ダグマーは立ちくらみを起こしていた。
本当は、こんな社交辞令の定型文を読みたくなかっただけ。フィリップは自分で夜中に頑張って書いて覚えたスピーチ原稿を暗記で喋り、出席者からは珍しく拍手が起こっていた。
ただし、カールスタード王国の貴族は冷や汗モノ。
「帝国の皇帝が認めた女王を家臣が認めず、あまつさえ欠席するなど言語道断。ここが帝国だったら打ち首獄門だ。女王にも、そうするように進言する。あとで名前を教えてくれ」
とか言っていたからだ。
そう。フィリップはクリスティーネの手助けするためにここに立っているから、社交辞令のスピーチ原稿は握り潰したのだ。
後日、この話を人伝に聞いた欠席していた貴族がこぞって押し寄せたので、クリスティーネが快く許したら、支持率が上がったんだとか……
14時過ぎぐらいまでにこれらのプログラムをこなしたら、クリスティーネはパレードに出発。馬車の上から手を振り、中町や外町の住人から大歓声を受ける。
他国の出席者は、ここまで。お祭りを楽しみたい人は、中町の広場に向かっていた。
フィリップは興味がないので「ナンパしたい」とダグマーに言ったら、寮に監禁。そもそもスピーチ原稿を無くしたことの説教は忘れてなかった模様。
しかし、内容じたいはそこまで悪くなかったので、ダグマーも褒めていた。だが、寮に残っていたラーシュは「うっそだ~」と信じないので、フィリップは怒っていた。
自室に戻ると、ドレスアップしたダグマーとのお楽しみ。ダグマーをベタ褒めして、ついでにダンス。ダグマーも一生の思い出になったと、フィリップを踏んでいた。見た目はアレだけど、彼女気分を味わえて楽しかったらしい……
夜にはカールスタード王国の身内だけでパーティーが開かれているが、マッサージを終えたダグマーが出て行ったら、フィリップは夜の街に消えるのであった……
「「「「「クリスティーネ女王様、バンザ~イ!」」」」」
「「「「「わはははは」」」」」
「「「「「あはははは」」」」」
夜の街はまだ眠らずに人が溢れ、そこかしこで笑い声やクリスティーネを称えるお祭り騒ぎとなっていた。
「「「「「女王様にかんぱ~い!」」」」」
その雑踏を抜けてフィリップがやって来た場所は、マッツの酒場。ここも酔っ払いは騒がしいので、グイグイ押してなんとかカウンター席に飛び乗った。
「繁盛してるね~」
「おお。ハタチさん。女王様、様々だ。ちょっと待ってくれ。これ、ジュースな」
マッツは忙しいのにフィリップの飲み物だけは先に出して、他の注文の対応をしている。その残されたフィリップは、後ろ向きに座り直して騒ぐ人を見ながらチビチビやっていた。
「おう! 大将!!」
「やっぱりいた」
そこにオロフとトムが酒瓶を片手にやって来て挟むように座った。
「ご機嫌だね~」
「そりゃ、こんなにめでてぇ日はないだろうが」
「俺たちがこの手で手に入れた平和」
「その立役者が、こんな場末の酒場で何してんのって感じだね~」
「わはは。違えねぇ」
「ハタチさんに、そっくりそのまま返す。こんなところにいていいの?」
「僕は部外者だから、いいのいいの」
「「一番の立役者で彼氏だろ?」」
フィリップの部外者発言は不発。オロフとトムは、フィリップとクリスティーネがイチャイチャしていたところを見ていたので、彼氏を否定しても信じてくれない。
「もう別れたんだから、放っておいてよ~」
「フラれたのか?」
「ポイされた」
「僕からフッたの! あと、僕とクリちゃんの関係、仲間に秘密にするように言っておいて。喋ったら……殺す」
「「はいっ!!」」
2人がフラれたと決め付けるので、フィリップはシンプルに脅し。これで口は塞げたけど2人は恐縮しっぱなしになったので、フィリップはお酒を奢って楽しい話を振るのであった……
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