095 それぞれの確認


 クリスティーネと心の傷の舐め合いをした翌日の夜。フィリップは行き付けの酒場に顔を出した。


「あ、生きてた」

「生きてたじゃねぇよ~」


 今日は、高級娼館で燃え尽きていたマッツの生存確認をしに来たらしい。


「思っていたより元気そうだね。奥さんにバレなかったの?」

「なんとかな。てか、目が覚めたら中町の門のところでドロドロになっていたから、どこで飲んでいたんだとそっちだけ怒られた。俺って、なんでそんなところで寝てたんだ?」

「帰り際に見た時は、気絶してたみたいだったけど……あの店の人に運ばれて捨てられたんじゃない?」


 フィリップの予想は正解。娼婦は4人掛かりでマッツを荷車に乗せて、家がわからないから「ここでいいんじゃない? どうせ貧乏人でしょ」と捨てたんだって。


「捨て……俺は粗大ゴミか!」

「そのおかげで助かったんだから、感謝しなよ」

「天使様、怒ってすみません!!」


 マッツもそれはありそうだとツッコんでしまったが、フィリップに言われてすぐに謝罪するのであったとさ。



 酒場でジュースを飲んで軽く情報を仕入れたら、フィリップは高級娼館に足を運んだ。


「あれ? やってないの??」


 しかし店内は薄暗かったけど、フィリップは扉には鍵が掛かっていなかったから普通に入りやがった。


「ハタチ様、申し訳ありません。今日は休業していますので、お引き取りをお願いします」

「ふ~ん……それって、国絡み?」

「はい……いきなり国営になると言われたので、準備をしている最中でして」

「それ、僕が案を出したの。これで迷惑客は来なくなるよ」

「そうだったのですか??」

「じゃあ、僕も関係者ってことで……何を話してたのかな~?」

「メニュー表などを……あれ? 子供がなんで娼館の運営にこんなに詳しいのかしら??」


 いっちょかみでしゃばりするフィリップのおかげで会議などが早く進むが、子供が詳しすぎるのでドロテーアたちもこれでいいのかとコソコソやるのであった……


「早く終わったし、2人ぐらい買っていい?」

「えっと……それが目的??」


 ドロテーアが言う通り、マッサージが目的で手伝っていたフィリップ。無理を言ってナンバー2とアニタという小柄の女性をVIPルームに呼び出したのであった……



「あれ? ドロテーアさんが来たの??」


 フィリップがベッドに寝転んで待っていると、発注外のドロテーアが入って来たので不思議に思っている。


「アニタは男性恐怖症でして、私が一緒のほうが落ち着くので仕事を代わってもらいました」

「ま、どっちでもいいけどね。とりあえずドロテーアさんはマッサージしてね。んで、アニタさんはこっちに座って」

「はい」

「はい……」


 ドロテーアが服を脱いでフィリップのマッサージを始めると、アニタは恐る恐るベッドに腰掛けた。


「ストールってヤツいたじゃん? あいつ、死んだから、もう怖がる必要ないよ」

「「えっ!?」」

「やっぱり聞いてなかったか。そりゃ驚くよね~」

「はい……こんなことをしながらする話でもありませんし……」

「あ、続けて続けて。アニタさんと話すために2人頼んだんだから」

「はあ……」


 驚きすぎてマッサージの止まったドロテーアを再び動かし、フィリップは続きの話をする。


「ストールは拷問趣味の頭のおかしいヤツだっただけ。もう忘れな。そして僕は女好きの頭のおかしいヤツ。ここに来るのは僕みたいなヤツが多いから、夢を見せてあげて」

「自分で頭がおかしいって……プッ」

「だってそうじゃ~ん。こんなことされながら真面目な話してんだよ? 頭がおかしくないとできないよ~。エロイことはドロテーアさんに任せて、まずはハグから始めてみよう。おいで~」

「フフフ……その前に、子供ですよね?」

「ハタチハタチ。僕はハタチの旅人」

「ツルツルじゃな~い。アハハハハ」

「どこ見て言ってんの?」


 フィリップの優しい言葉でアニタに笑顔が戻る。そしてアニタは笑いながら抱きついたけど、ツルツルと言われたフィリップは微妙な顔で受け止めたのであった……



 それからフィリップは高級娼館に足繁く通い、アニタを指名してトラウマを払拭しようと少しずつ距離を詰めていた。

 そうしていたらアニタもお客を取れるようになったので、フィリップも違う店に行ったり、ナンパした子と遊んだりしていたらすっかり忘れていた。


「ゴメンって~。クリちゃ~ん」


 クリスティーネのことを、だ。10日振りに寝室を訪ねたら、布団を被って出て来なくなったのだ。


「どうしたら許してくれる?」

「結婚……はできないから……完全犯罪の手口……」

「そんな怖いこと女の子に言えないよ~」

「普通の女の子じゃないですぅぅ。女王ですぅぅ」

「もう~。出て来てよ~」


 スネたクリスティーネでも、帝国の属国になることはギリギリ踏み留まり、ストール伯爵を殺した手口を聞き出すまでテコでも動かない。


「しょうがないな~……言ってもいいけど、逮捕しないでね?」

「教えてくれるのですか?」

「クリちゃん逮捕~~~!!」

「騙された~~~!!」


 でも、顔を出した瞬間に、フィリップは布団の隙間に潜り込んで捕獲。モミ倒しているよ……


「嘘つき……もう嫌い!」

「冗談冗談。冗談だよ~?」

「じゃあ、どうやったのですか?」

「僕が水魔法使えるの知ってるよね? 少量の水でも上手くやったら溺れさせられるんだよ」

「てことは……溺死??」

「そそ。そのあと水を抜いたら、証拠はなくなるってね」

「なるほど~……もう? あんっ!」


 やっと答えをもらえたけど、フィリップは手を出すのが早すぎる。しかしクリスティーネも久し振りだったので、喜んで受け入れてしまうのであった。


 事実は、まったくの嘘。フィリップはキレてはいたが、証拠を残したくないから拷問はやらなかった。そのかわり、氷魔法でストール伯爵の肺を片方だけ凍らせて苦しめ、もう片方も凍らせて絶命させた。

 その後はストール伯爵の体をベッドまで運び、熱魔法で体温を上げておいたから凍らせた部分は朝までには解けたので、死因のわからない死体となったのだ。


 ちなみにストール伯爵の妻と娘には助けてくれたことを感謝されたようだけど、「恨んでくれたほうが助かる」と言ってフィリップは立ち去ったらしい……

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