089 本当の名前
カールスタード学院、新学期……
早々にフィリップは寝坊。昨夜クリスティーネとマッサージしていたのでなかなか目を開けられなかったので、ダグマーに股間を蹴られてなんとか目を覚まし、久し振りに制服に袖を通した。
そして股間をさすりながら5階にまで下りると、護衛でクラスメートのラーシュと合流する。
「殿下……出席するんですか?」
「せめて朝の挨拶からやってくれない?」
「あっ! 初日は起きて来ないと思っていましたから!!」
「ラーシュ君。まだ『おはよう』と聞いてないよ~?」
心の声が漏れまくりのラーシュを
朝食を済ませたら大名行列のように学校へ入り、先生からもフィリップは二度見されたけど、授業が始まった。
「殿下……寝ないのですか?」
「ラーシュ君。僕だって真面目に受ける時はあるよ?」
「へ~。珍しいこともあるんですね」
「ラーシュ君。誰のおかげで、普通に授業を受けられるか考えてみよっか?」
「……新女王様??」
「もうそれでいいよ。寝る」
腹心のはずのラーシュからナメられっぱなしなので、真面目に授業を受けようと思っていたフィリップも、ヘソを曲げて机に突っ伏すのであったとさ。
フィリップは寝るとか言いながら授業を聞き、たまに教科書と照らし合わせていたら週末となったので、予定通り夜にはクリスティーネの部屋を訪ねた。
「飛んで来た!?」
「ア……アハハ」
フィリップが風魔法に乗ってバルコニーに着地したら、クリスティーネにバレちゃった。日時を伝えていたから、クリスティーネは気になっていたフィリップの侵入方法を今日こそ突き止めてやろうと待ち構えていたらしい。
「いまのどうやったのですか?」
「僕、ジャンプ力が凄いの~」
「6階なんて無理ですよ~。教えてくださいよ~」
「う~ん……やっぱ秘密~」
「ええぇぇ~」
でも、全てはわからないみたい。なのでフィリップは全ては語らずに、勝手に部屋に入って服を脱ぎ、ベッドに飛び込んだ。
「どうやっているのかわかりませんけど、ハタチさんには城壁とか高さとかは関係ないのですね……」
「まだ来ないの~? 早くしようよ~」
「これ、ハタチさんがその気になったら、大陸中の国王暗殺なんて、簡単にやってのけるんじゃないの??」
「何ブツブツ言ってるの~? 4日も我慢したんだよ~??」
「その力、夜這いにしか使わないつもりなのかしら? もったいない……」
「オッパイ、オッパイ」
「はいはい。いま行きますから、大陸制覇とか考えないでくださいね~」
「なんのこと??」
クリスティーネとしてはフィリップが異常すぎて危険視していたが、「女のことしか考えない馬鹿だから大丈夫か」と、全裸になってベッドに飛び込んだのであった……
2人でマッサージを終えたら、休憩タイム。いつも通りクリスティーネはフィリップの腕枕に収まって喋っていた。
「どうやって飛んでるのですか?」
「まだ言ってるよ……」
「だって、気になるんですも~ん」
「姫を救出するなら、壁なんてひとっ飛びだよ」
「またそうやって茶化す~」
「ちなみに寮の僕の部屋も、ここと同じ6階なの。でも、誰も助け出してくれないんだよ~?」
「プッ! ハタチさんが姫……見えるぅぅ」
上手く笑いを取れたようだけど、自分が姫に見られるのは納得いかないフィリップ。しかし、侵入方法の話は逸らせたので、6階の苦労話で盛り上がる。
クリスティーネも長い階段にはうんざりしているらしく、フィリップにも不評だったので、そのうちどちらも改装するそうだ。
「ちゃんと学校行ってました?」
侵入方法を完全に忘れたクリスティーネは、自分から話題を変えたのでフィリップはほくそ笑みながら答える。
「行ってたよ。でも、授業は簡単すぎてぜんぜん面白くないんだよね~」
「その頭があるのに、なんでこんなに馬鹿皇子を演じているのか不思議です」
「言ったでしょ? 兄貴のこと好きだから邪魔したくないんだよ」
「あ、口に出てた……」
「なに~? そんなに僕のこと知りたいの??」
「そうですね……不思議で仕方ないですもん」
クリスティーネは本音を隠さないので、フィリップも笑う。
「フッフッフッ……」
「何がおかしいのですか?」
「ミステリアスな男に女は引かれるモノなんだよ!」
「答えになってませんけど……」
「うそ~ん。そういうモノじゃないの~??」
「人によるんじゃないですか? 私たちは契約した恋人ですし」
「なんてこった!? てっきりメロメロだと思ってた~~~」
フィリップ、かっこつけたのに大外ししたからガックシ。子供で女癖が悪いんだから、惚れるわけがないだろ。
「メロメロとは違いますけど、私はフィリップのこと好きですよ。お互い立場がなければ、いますぐ結婚したいぐらいです。あ、フィリップが結婚できる年齢まで待たないといけませんか」
「……フィリップ??」
「たまには本当の名前を呼びたくなりまして……ダメですか?」
「うん……いいね。僕、初めてベッドの上で名前を呼ばれた。いや、お母さん以来……」
「お母さん? どうしたのですか? 涙が……」
クリスティーネの告白に似た言葉に、フィリップは涙。愛情を込めて名前を呼ばれたからには母親の顔を思い出してしまい、フィリップはクリスティーネの胸に顔を埋め、子供らしく泣きじゃくってしまうのであった……
それからどれぐらい時間が過ぎただろう……
「グズッ……ゴメン。みっともないとこ見せた……」
ようやくフィリップの気持ちが落ち着いた。
「いえ……フィリップはお母さんと何かあったのですか?」
「3年前にね……亡くなった、の……グズッ。ダメだ。思い出したら泣けてくる。うぅぅ」
「そうだったのですか……お母さんのこと、大好きだったのですね。まだ子供なんですから我慢しなくていいですよ」
「うぅ~。優しくしないで~。ううぅぅ~」
「よしよし。いいこいいこ」
最近は思い出すことのなかった母親を思い出し、フィリップは泣き続ける。クリスティーネはそれを汲んで……というか、こんなフィリップが愛おしくなり、ちょくちょくいいこと言って泣かせ続けるのであった……
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