090 皇帝からの手紙


 クリスティーネのせいで母親のことを何度も思い出してしまったフィリップが泣き続けた結果……


「バブー」

「よちよち。いい子でちゅね~」


 幼児返り。クリスティーネの胸に吸い付いてるよ……


「マッサージもしてほしいバブー」

「もう正気に戻ってますよね?」

「ハブバブ」

「しょうがないでちゅね~」


 てか、赤ちゃんプレイになってるな。クリスティーネもその扉を開けてしまって、なんだかんだ楽しんでしまうのであった……



「フィリップのお母さんのこと、聞いていいですか?」

「また泣いちゃうから、もうダメ」


 充分楽しんだクリスティーネだがイタズラ心が出たようだけど、フィリップにバッサリ切られた。


「てか、クリちゃんもお母さんいないんでしょ? 僕の胸で泣いていいよ~??」

「私のお母さんですか? 生きてますよ」

「へ? クリちゃんは唯一継承権があるとか言ってたから、てっきり……」

「あ~。お母さんはもう子供が産めないとか言って、当主の座を私に譲ったんです」

「そっか。血を残すためには、女性だと年齢制限みたいなのがあるのか……」

「それもあるかもしれませんが、こんなに早く王位を奪い返せるなんて思っていなかったんです。だから早めに引退したんですよ。実はお母さんに女王やってってお願いしたんですけど、断られちゃいまして」

「そりゃ旗頭はクリちゃんなんだから、代わることできないよ~。てことは、お城で暮らしてるんだよね? やっぱりクリちゃんに似た美人なんだろうね~」

「え? フィリップは会ってますよ??」

「そうなの??」


 クリスティーネの指摘にフィリップは考えてみたが、そんな美熟女と会った記憶がないらしい。


「ほら? 初めて会った隠れ家で。いつも私の元へ案内していた人ですよ」

「案内してた人?? あっ! 僕が訪ねたら、いっつも怖い顔していた人!?」

「まぁ怒るのも仕方ないですね。私も軽々しく体を許すなと怒られましたし」

「それなら先に言っておいてよ~~~」


 母親の前で娘に娼婦の真似事をさせていたのだから、フィリップも反省。でも、いまさら会いたくないらしい。


「そういえば……途中からいつも窓からやって来てましたよね?」

「うん。あの人、ちょっと怖くって……」

「フィリップでも怖いモノがあるんですね。フフフ」

「理由を知ったら、もっと怖くなったよ~」

「今日はフィリップの意外な一面がいっぱい知れました。フフ。お母さんとお父さんに会って行きます??」

「無理! 結婚のご挨拶なんてできないし! てか、お父さんも生きてたんだね!?」


 クリスティーネだけでなく、フィリップもクリスティーネの違う一面を知れたけど、できれば知りたくなかったと肩を落として帰って行ったとさ。



 クリスティーネから娼館の入場券を貰ったフィリップは、翌日にはさっそく行きたかったけど、まだ昼型なので行くに行けない。それに授業の確認はもう少し掛かるので、ここ数日はダグマーに毎日のように踏まれていた。

 そんなある日の午後、フィリップが自室で「娼館行っちゃおっかな~?」と考えていたら、ダグマーが皇帝から手紙が届いたと持って来た。


「なになに……父上らしい手紙。フフフ」


 フィリップは軽く目を通すと笑みが漏れた。


「何が書いてあったのですか?」

「ん~? たいしたことじゃないよ。読む?」

「失礼します」


 ダグマーは手紙を受け取ると、すぐに読み終えて口に出す。


「『好きにしろ。ただし、必ず生きて帰って来い』……ですか。陛下の返事だとは推測できますが、殿下はなんと書いたのですか?」

「クーデターが起こるかもしれないから、もしもの時は、生き残るためならなんでもやるから許してねって書いたの」

「なるほど……ということは、殿下がやったことは、陛下の了承が得られたことになり…ま……」

「ん~~~??」


 フィリップの答えにダグマーは言葉が詰まった。


「これって、元国王が訪ねて来た日に出した早馬の返事ですよね……」

「そうだね。馬を飛ばして往復20日以上も掛かるって、どんだけ遠いんだよ」

「そういうことじゃなくてですね……」

「どったの?」

「殿下はどうしてその時点でクーデターが起こると知っていたのですか!?」

「あぁ~……」


 フィリップうっかりミス。遠い昔のことだったので、いらんことを言っちゃった。


「ちなみにダグマーも一緒に出してたよね? 誰になんて書いたの??」

「私は上司宛に、現状を報告して暴動の可能性有りと。調べるから返答を待つようにと書きました」

「そりゃそうだよね。可能性が低いんだから、不確かなことは書けないよね。それが僕とダグマーの違いだよ」

「というと……危険を見越して先に手を打ったということですか」

「そそ。そんな感じ。わずかな可能性でも、僕なら書けるでしょ?」

「確かに……でも、その危険を嗅ぎ取る能力には納得しかねます」

「ひょっとして馬鹿にされてる??」


 ここまで無能っぷりが目立つフィリップなのだから、ダグマーとしては信じられずに口から出てしまった模様。質問にも答えずに何やら考え込んでいるので、フィリップも諦めてしまった。



 その数日後……


「夜の帝王、カールスタード王国に参上! とう!!」


 例の如く仮病で夜型になったフィリップは娼館の紹介状を握り、マントをたなびかせて寮の屋根から飛び下りたのであった……


「ちょっとかっこつけすぎたな……」


 高所からの飛び下りは怖いのに、学習しないフィリップであったとさ。

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