088 夏休みの終わり


 お掃除団に残るオロフとトムにある程度の知識を入れたら、フィリップは地下にある金庫に移動してお金の確認。当分大丈夫かと思ったけど、銀貨と銅貨をあるだけ足していた。


「まだ金くれるのか?」

「お前たちの就任祝い。この袋いっぱいの銀貨だけなら手を付けていいよ」

「ありがたいけど、遠慮しとく。これから物入りだし」

「だな。給料とかも考えて行かないといけねぇし……いくらぐらいが普通なんだ??」

「さあ??」

「僕も知らないよ。だいぶ前に待ち合わせした酒場って覚えてる? そこのマスターなら、顔が広いから知ってんじゃない?」

「明日にでも聞きに行くか~」


 アイテムボックスを圧迫していた金貨以下のお金を処分して、マッツにも2人を押し付けたら、フィリップはここでおさらば。ちなみにマッツはマフィアに口封じで殺されると思ったらしく、めちゃくちゃ焦ったらしい。

 帰りにはクリスティーネの部屋を訪ねたけど、もう遅いので手紙を書いて窓の隙間から中に入れていた。オロフたちが心配だから、やろうとしていることと読み書きのできる会計士を派遣してくれと書いたみたいだ。


 今日のフィリップは、女性と絡むことなく就寝。早く娼館の入場券をもらえないかと考えたから、なかなか寝付けなかったらしい……



「ねえ? いったいいつになったら紹介状くれるの? もう、明日から新学期だよ??」


 この1週間ほどは、フィリップはいつもの相手としかマッサージしていないので、クリスティーネのベッドの中でオコ。仮の彼女とやることをやっておいて、酷い男だ。


「ちょうど今日、各所に通達は終わったので、渡そうと思っていたところです」

「それならやる前に言ってよね~」

「言おうとしましたよ? なのに、いきなり揉んで来たから……」

「あ、僕が悪かった……のかな? 今日って、いきなり全裸じゃなかった??」

「そうでしたっけ??」


 クリスティーネがとぼけたところで、フィリップも気付いちゃった。


「本当は、もっと早く終わってたでしょ? そして今日は、娼館に行かせないために嵌めたでしょ……」

「ウフフ。やっとハタチさんにひとつ勝ちましたね」

「もう~。楽しみにしてたのに~」

「私だって、ハタチさんが来るのいつも楽しみにしてるんですよ。しばらく会えないのですよね?」

「まぁ……どんな授業があるか確認しなくちゃいけないし。とりあえず、週末には顔を見せるよ」


 クリスティーネはいちおう彼女なので、そこまで言われるとフィリップも鬼になりきれないみたいだ。


「そういえば、他国の反応はどうだったの?」

「まだ近場しか返答がありませんけど、ハタチさんが一筆書いてくれたので、お金の件は不問にして祝辞までくれましたよ」

「へ~……歓迎されたんだ。というより、様子見ってところかな?」

「でしょうね。半数ぐらいの学生は戻って来てないらしいですし」

「あ、ダグマーから食堂に人が少ないとか聞いたかも?」

「ハタチさん、学校に友達とかっています?」


 ダグマーの名前を出したので、ボッチだと疑われるフィリップ。


「い、る、よ……いっぱい。うん。いるいる」

「いないんですね……」


 こんな言い方では、確信させただけだ。


「そうだ! 貴族の動きは??」

「話、逸らしましたね?」

「いないんだから、話したくないの~」

「はぁ~……かわいそ。貴族はですね。私と謁見すると、いつも怯えるんですよね~」

「いま、『かわいそ』って言ったよね?」


 かわいそうなフィリップのツッコミは無視して、クリスティーネは語る。

 どうやら首都にいる貴族を1人ずつ呼び出して、「こちらに付くかお取り潰しにするか」の二択を迫ろうとしたけど、まずは先々代の女王が現れたと尻餅突く貴族が続出したらしい。

 そんな現場なので、ほとんどクリスティーネを女王と認めたとのこと。ただ、クリスティーネの目には半分近くお取り潰しにしたほうがいいと見えたそうだ。


「なんか嫌なこと言われたの?」

「それもありますけど、服装が気になりまして。宝石だらけの人が多かったんですよ」

「なるほど……中町にいる貴族は、国王とつるんで横領しまくりだったんだね」

「そうだと思いますけど、どうやって証拠を掴むか……いいアイデアありません?」

「なんで僕に聞くの? 自分でやりなよ」

「えぇ~。お掃除団には助言してたじゃないですか~。オッパイ揉んでいいですから~」

「仕方ないな~……」


 いつも揉んでいるモノを賄賂に使ったのに、フィリップはイロイロ教えてくれるので、クリスティーネも「そんなんでいいんだ」って顔で聞いてるな……


「まともな貴族を引き入れて探らせるのですか……」

「そそ。ちょっとはいたでしょ? そういうヤツは、成金貴族が嫌いだから協力してくれるはずだよ。いや、もうすでにネタを持ってるかもね」

「確かに手っ取り早そうですね。わかりました。ドーグラスさんに聞いてみます」

「ドーグラス……どっかで聞いたことある人だね。誰だっけ?」

「ハタチさんと戦った人ですよ。近衛騎士長の」

「ああ。あの期待外れの」


 フィリップが手をポンッと打つと、クリスティーネは冷めた目になった。


「それ、本人の前で言わないでくださいね? アレ以来、すっごく落ち込んでますので」

「そりゃ子供に子供のように扱われたら、落ち込むか」

「違います。剣の戦いなのに、殴られて負けたからです。せめて斬られて負けたかったと言ってましたよ。あの必殺技も適当に言っていたと教えてあげたら、さらに……」

「それは~……クリちゃんがトドメを刺したのでは?」


 クリスティーネのクリティカルヒット。ドーグラスがクリスティーネに忠誠を誓ったのは、落ち込んでいるところに塩を刷り込み、怪我を治してくれたから混乱していたから。

 家に帰って家族と会った時に「そういえば前の国王と比べるといい人だったな~」っと、自分の決断は正解だったと思ったんだとか……

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