084 フィリップのミス
ダグマーが怖い顔でずっと笑っているので、フィリップもクリスティーネが殺されると思ってタックル。
ダグマーの急所を刺激して、平常心というか羞恥心まで持って行って椅子に座らせ、自分はその上に乗った。立たせておくと危険と感じたみたいだ。
その体勢のまま、フィリップはダグマーに密着してコソコソ喋っている。
「使ってしまった物は仕方ないでしょ? これから女王様が正してくれるみたいなんだから、あとのことは任せようよ」
「もう信じているのですか……」
「前のじいさんよりマシってだけ。僕に借金しに来た時、倍も取ろうとしてたんだからね」
「確かに……」
「それに、いいこと教えてくれたじゃん。父上は不正が嫌いなんだから、これを伝えたらカールスタードの受付していたヤツを裁ける。必然的に、女王様も認める形になるんじゃない?」
「それはどうかわかりませんが……わかりました。いまは仮で認めることにしておきます。殿下もですよ?」
「わかったわかった~」
なんとかダグマーも落ち着いてくれたけど、フィリップの言い方が軽すぎたので、怒りは2割ほど残っている。それはフィリップもわかっているようだけど、待たせていたクリスティーネのほうに体を向けた。
「それで……他の国にはどう伝えるの? うちが騙されたなんてバラしたら、僕もプンプンだよ~?」
「えっと……ダグマーさんのほうが怒っているのは置いておいて……各国の王に宛てて手紙を送ろうと思います。ただ、証拠付きで送っても、王位を奪った者の声を聞いてくれるかどうか……」
ここも台本通り。でも、クリスティーネは
「そこで帝国の出番ってわけね。いいよ~……ほぎゃっ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
フィリップは台本通りやったけど、ダグマーが許せないとフィリップの丸い物を握ったらしい……なので、フィリップは涙目で説得する。
「な、なんとか……手、離して。喋れないから」
「よけいなことを言うな…………」
「こわっ!? ちょっとは協力しないと、カールスタード王国が消滅するでしょ~。ここはオッパイに免じて……ほぎゃっ!?」
「そんなこと言うから離してくれないんですよ……」
説得は通じかけたけどフィリップがいらんことを言うので、ダグマーは手に力を入れ、クリスティーネも冷めた目で見るのであった……
「とりあえず、カールスタード王国を守るためには急がないといけないから、帝国は新女王を認める。父上には馬鹿な息子が勝手にやったってことで、報告するのはどうかな~?」
フィリップがあの手この手で言いくるめたら、ダグマーもなんとか丸い物を離して頷いてくれた。
「んじゃ、各国の王様には、帝国は賛成して大金までくれたと書いて。僕も一筆書くから取りに来てね……何ヶ国あったっけ?」
「「はぁ~……」」
なんとか話はまとまったけど、フィリップの最後の言葉には、2人ともため息が出てしまう。もう少し詳しく話をしたら、フィリップから立ち上がって「オッパイ触らせて」とセクハラして、ダグマーが足を踏んでから別れの挨拶だ。
「本日は、ご足労いただきありがとうございました」
「オッ……冗談で~す。帰りま~す」
クリスティーネが丁寧に挨拶してるのに、フィリップは挨拶もせずに扉に向かう。またセクハラしようとしたから、ダグマーに殺されると思ったらしい。
そのダグマーは、フィリップを追わずに背筋を正してクリスティーネを見ている。
「
「は、はい」
「女王陛下にあられましては、言葉遣いもそうですが、護衛もつけずに他国の者と近距離で会うのはやめたほうがよろしいかと。私がもしも手練れなら、いま、その命はありませんでしたので」
「ですね……しかし、帝国ほどの大国に誠意を見せるためには、命を懸けるしか手段がありませんでした。私の命ひとつで民が救えるなら安い物です」
「……その覚悟、お見逸れしました。並びに、度々失礼な態度を取ったことをお詫びいたします。では、失礼いたします」
脅しのような言葉にもクリスティーネは凜として返すので、ダグマーも「素晴らしい君主なのでは?」と思い、深々とお辞儀をしてから勝手に部屋から出て行ったフィリップを追うのであった……
「……」
「黙ってると逆に怖いんだけど~?」
帰りの馬車の中では、怒ると思っていたダグマーがだんまりなので、フィリップもどうしていいかわからない。でも、とりあえずいつも通りダグマーの太ももに頭を乗せやがった。
「殿下は……」
「ん?」
ダグマーはフィリップの頭を撫でると、ようやく口を開いた。
「どうしてあそこまで協力しているのですか? 女王陛下の胸が大きいからだけだとは私には思えません」
「ただの勘だよ」
「勘……ですか」
「説明する口を持ち合わせてないから、ダグマーが予想して。僕は死にたくないの。だったら女王様に協力したほうが助かる可能性が高い気がしてね~」
「それは……そうかもしれません」
フィリップの勘に、ダグマーが補足する。クリスティーネは現在仮初めでも君主。そのクリスティーネを守らないと内乱が起こる。そうなっては、フィリップが巻き込まれる可能性大だ。
「ということでしょうか?」
「そんなところかな~? アハハ」
「どこまで本当なのでしょうか……てっきり私は……」
「なになに~?」
「ここから逃げるための兵士を借りるために、譲歩していると思っていました」
「なんでそう思ったの?」
「カールスタード学院に行くことを拒んでいたからです。この事態なら、帰っても当然かと……」
「……あっ!!」
フィリップ、ここへ来て自分のミスに気付く。
「その手があったか~~~!!」
そう。クーデターなんて手伝う必要なんてない。なんならクーデターを起こしたあとは長引かせて、政情不安だからと凱旋すれば、乙女ゲームのスタートに間に合ったのだ。
「えっと……これ、どうしたらいいんだろ?」
「何を悩んでいるか、私にはわかりかねます」
このクーデターの黒幕はフィリップ。まだ政情が不安定だからクリスティーネを1人残して帰ることは心配で、その決断ができないフィリップであったとさ。
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そのお礼というか、ただただ嬉しいので、今日から来週の日曜日まで毎日更新します!!
しかし、なんで70話辺りから急に読まれ始めたのでしょう……w
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