083 面白い話
「えっと……私が正統後継者と言っても信じられないと思いますので、まずはそちらから説明しますね」
実を言うと、台本には「正統後継者と言われても信じられない」となっていたのだが、フィリップは台本通りやらないので、クリスティーネは強引に戻そうとしている。
その内容は、先々代女王が王配に殺されたことから始まり、家に伝わる王家の所有物や地下迷宮の地図といった証拠品の提出。最後に、クリスティーネは斜め後ろにある姿絵に掛かっていた布を剥ぎ取った。
「うわ~。そっくり。これは間違いなく王家の血筋だね」
「「……」」
するとフィリップが簡単に認めるので、クリスティーネは呆れたような顔になった。これも台本では、否定することになっていたみたい。
ダグマーはというと、フィリップの態度に怒りを覚えて睨んでる。そして、このままではいけないと口を開いた。
「従者の私如きが質問してよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
「
「はい。ここに来るまでに、歴代の君主の絵が飾っていたのですが、抜けている場所があったことに気付きましたか? そこに飾られていた絵が、こちらになります」
「サイズ的には合っていますが、盗まれたと聞き及んでおります。その時に、入れ替えることは可能かと」
ダグマーは頼りないフィリップの代わりに怪しんでいるのだ。
「確かに私の手の者が盗みましたが、それは城内を混乱させるためです。そして、私が現れた時には、皆さんお化けでも見るような顔をしていましたよ。ダグマーさんと言いましたか……ダグマーさんにも、その時の顔を見せたかったです」
だがしかし、そのセリフはフィリップが言う予定だったので、発言者以外は台本通り。クリスティーネが自信満々にニッコリ微笑んでそんなことを言うので、ダグマーも嘘か本当かわからなくなってしまった。
「ほら? こんなに美人でオッパイ大きい人が嘘なんて言わないって~。ちょっと触っていい?」
「「いいわけないでしょ!!」」
そこにフィリップが援護射撃したけど、同時ツッコミ。クリスティーネもいい加減、腹が立って来たみたいだ。
「んん! まぁ殿下は信じてくれたようですから、先を続けますね」
またクリスティーネは強引に台本に戻して、隣にあるワゴンに乗っていた資料をテーブルの上に広げた。
「少々面倒なことになっていまして……これらは、我が国の財務状況が載っている帳簿です。この部分に目を通してください」
「なになに~? ……数字ばっか。ダグマーよろしく~」
「「……」」
ここはフィリップが読むことになっていたので、クリスティーネは「またか」と呆れ顔。ダグマーも呆れていたが、フィリップがふざけているので自分がしっかりしないといけないと帳簿を手に持った。
「これは殿下の生活費を帝国が支出して、カールスタード学院に渡ったお金の流れですね」
「はい。おかしいですよね?」
「確かに……3分の1ほどしか渡っていません。残りはどちらに?」
「国庫に保管されています。あとから足すのかと思って過去の帳簿も調べたのですが、足した形跡はどこにもありませんでした」
「つまり、前国王が着服していたと……」
国ぐるみで横領をしていたと聞かされたダグマーは、鋭い目でクリスティーネを見た。
「それどころではありません。その前の国王から、全ての国に対して着服が始まっています。知っているなら教えてほしいのですけど、これらは我が国に対しての報酬なのでしょうか?」
「いえ……私は知る立場ではありませんので」
「ですよね。仮定で話をしますが、私の予想では2割から3割が妥当だと考えています。それが10倍以上も取っているとなると、これは前国王たちによる犯罪行為と言っても過言ではないかと」
犯罪と聞いて、ダグマーもどう返していいか考え込んでいるが、クリスティーネはさらに付け足す。
「正直、こんなことを我が国だけでやれるとも思いません。もしかすると、各国の担当者が見返りを貰って便宜を図っているのではないかと疑っています」
「それは……責任逃れでは?」
「そう取られても仕方がありませんが、私は前国王たちの罪をオープンにしただけです。お調べになられたほうがよろしいかと」
なんとか反論しても、クリスティーネは親切心でこの話をしているのだからダグマーも黙ってしまった。
「んで……何を困っているの?」
そこで、フィリップがようやく話に入って来た。
「先程述べた通り、各国から奪ったお金をどうしたらいいかと思いまして」
「返す当てはあるの?」
「ありません。前国王たちは浪費家でしたので、いまある現金も各国から奪った留学費用しか残っていませんので、取り上げられると国が立ち居かない事態となってしまいます」
「なるほどね~……」
フィリップは考える仕草はしたが、すぐに答えを出す。
「じゃあ、あげるよ」
「「はい??」」
またしても台本外の発言だったので、ダグマーだけじゃなくクリスティーネまで声が裏返っちゃった。
「新女王様の就任祝い。受け取って。あと、オッパイ触らせて」
「嬉しいお言葉ですけど……ダグマーさんが怒っていますけど? 大丈夫ですか??」
「だい……大丈夫じゃないかも??」
勝手に国のお金を渡すのだから、ダグマーも顔が真っ赤。クリスティーネもフィリップも怖くなって、背筋に冷たいモノを感じてる。
「で、殿下……お
「お、落ち着こう? あと、ダグマーって、めったに笑わないじゃない??」
「私が落ち着くほど面白いことを言ってくれたら笑えます……」
「深呼吸! まずは深呼吸して!!」
ダグマーは太ももを触っているから、ナイフが出て来そうな嫌な予感。こうなってはフィリップも面白いことを言わなくては!
「てかさ~……こんなに長年騙されてたなんて、口が裂けても言えないじゃん? 他の国はどうか知らないけど、帝国の赤っ恥だよ? それなら女王様の口を塞いだほうが早くない??」
「フッ……フフッ、フフフフフフ……」
「で……殿下!? ダグマーさん、私を見て笑ってますよ!? 止めてくださ~~~い!!」
フィリップの一発逆転のギャグは、成功。しかしダグマーが笑いながら殺気を放つので、クリスティーネも焦って助けを求めるのであったとさ。
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