065 聖女降臨


 クリスティーネの決意表明を台無しにしたフィリップは、荒れるクリスティーネにチュッチュチュッチュして機嫌を直してもらっていた。


「そうだ。もうひとつ聞きたいことがあったんだ」


 フィリップに全裸で決意表明をやらされたクリスティーネは、タオルケットを体に巻いて構えた。これ以上、恥を掻きたくないみたいだ。


「クリちゃんの魔法って、光魔法って前に説明したじゃない? もしかしたら違うかもしれないの」

「どういうことですか?」

「実は聖魔法ってのでも、光は出せるんだな~」

「聖、魔法……ですか? それって、聖女様が使う魔法ですよね? 私がそんな魔法、使えるわけがありませんよ~」

「可能性の話だよ。でも、もしも使えたら、クーデターや女王就任も楽になると思わな~い?」

「それはもしも使えたら、民の病気も治せるんですから、人気は高まるのですけどね~」

「まぁ試すだけやってみよう。ね?」


 クリスティーネは「ムリムリ」とあっけらかんに了承して、フィリップが出した布に両手をかざす。


「あの……これって、私のパン……」

「うん。さっき僕が脱がしたの。ここ、濡れてるでしょ? ここに目掛けてね」

「なんでそんなの使うのですか!?」

「いいから言う通りやってよ~」


 そんな物、彼氏であろうと見られたら恥ずかしすぎる。しかしフィリップが「早くやらないと被るよ」とかゴリ押しして、呪文を唱えさせた。


「クリーン! わっ! 光った!!」

「マジか……冗談だったのに……」


 すると、パンティーのシミは綺麗に取れたので、フィリップも驚いてブツブツ言っている。


「やっぱりこの子、続編か何かのヒロインかも……兄貴あたりがこの国にやって来て、クリちゃんと恋に落ち、実は王族と聞かされて復権に協力するとか……だったらダンジョンも何かしらのストーリーに関係しているのかも? てか、この時点で僕が攻略したらどうなるんだ……」


 前世の知識からの考察。そんなことをしていたら、クリスティーネがキョトンとした顔で見ていた。


「ヒロインとか攻略ってなんですか?」

「あ、いや……小説のネタになるかと考えてただけ」

「小説? ハタチさんは、小説家さんなのですか??」

「ううん。将来なろうかと悩んでるだけだよ」

「その力や教養は、違うことに使ったほうが有益だと思うんですけど……王配とか」

「しれっと伴侶にしようとしないでくれない?」

「たはは」


 クリスティーネもフィリップの価値に気付いて口説こうとしたが、すぐにバレて失敗。


「ま、聖魔法の使い手ってのがわかったのは、かなりの強みを手に入れたね」

「ですね! これで皆さんを健康にできます!!」

「明日にでも実験してみよう。その前に、呪文だけ教えておくね」

「はい!」


 ひとまずフィリップは、乙女ゲームに出て来た聖女の魔法を教えるけど、攻撃魔法は一旦保留にするのであった。


「ヒール! キュア! エリアヒール!!」

「まだMP無くならないの~?」


 クリスティーネは思ったよりMPが多いし、調子に乗って魔法を乱発するから……



 魔法を無駄に使っていたクリスティーネに倦怠感けんたいかんが現れたら、ドクターストップ。「これ以上使うと死ぬ」とかフィリップは適当なことを言って止めていた。

 それから興奮するクリスティーネを体で黙らせたというか、もう動けないってぐらい気持ち良くしたら、キスをして別れた。

 帰りはいつものようにオロフ組のアジトに寄ってから。お金を渡して、軽く指示をしたらフィリップは帰路に就くのであった。



 翌日の夜はクリスティーネと手を繋いでオロフ組のアジトへ。そこで合流したトムの案内で、とある立派な建物に向かった。


「うわ~。ここってスラム街ですよね? 綺麗になりましたね~」

「だね。ちなみにここは、僕たちお掃除団のホームだよ」


 クリスティーネがキラキラした目で見ている場所は、フィリップが急いで整備させたお掃除大作戦の拠点。その建物の前には、綺麗になったマフィアが揃って立っている。


「お疲れ~。思ったより早かったね~」

「「「はっ!」」」


 代表のオロフ、トム、ロビンも、この場所に似合った返事をして中に案内してくれた。


「うん。充分使えそうだね」


 1階は、基本的に日雇い労働者の給料を払う場所。服や日常品を格安で売るカウンターも併設されている。

 2階は個室を多く取って、幹部や部下の宿泊場所。少し狭いが、清潔なので誰からの反感はないらしい。

 地下1階には、金庫と牢屋。もしものためのシェルターのような部屋もある。入口は偽装してあるので滅多なことでは見付からないだろう。


「んじゃ、昨日集めるように言っておいた人たちは?」

「こちらです」


 次はロビンの案内で、外の仮設テント。そこに集められた人は、薄汚れたスラム街の住人たちだ。


「クリちゃん。出番だよ~?」

「はい! エリアキュア~~~!!」


 そのテントの中央に立ったクリスティーネが呪文を唱えると、テントの中に柔らかな光が包み込んだ。


「苦しくない……」

「咳が止まった!」

「痒くないぞ~!」

「手が動く……」


 そう。このテントにいた人は、全て病人。フィリップがオロフたちに集めさせ、実験に使ったのだ。


「「「「「ありがたや~~~」」」」」


 そんな聖女様みたいな人が目の前にいるのだから、患者は涙ながらに土下座して拝み倒している。


「アハハ。みんな治ってよかったね」

「はい……ようやく、私も人の役に立てました……」

「泣いてる場合じゃないよ~? これから忙しくなるからね」

「はい!」


 こうしてクリスティーネは、集められた人々を次々と癒し、スラム街の住人から神様の如くあがめられるのであった……

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