035 寮の紹介


 ホーコンたち帝国兵を手を振って見送ったフィリップは、ラーシュたちに周りを固められてお城型の寮の中へと入った。


「ようこそ、カールスタード学院へ。私がこの寮を監督しているペータル・グランバリです」


 広いエントランスで待ち構えていたのは、カール髭を鼻の下に生やした胡散臭い男。フィリップたちを見た瞬間、仰々しく頭を下げた。


「私はファーンクヴィスト公爵家のラーシュだ。そしてこちらに御座す……殿下。隠れてないでこちらに……」


 ペータルの相手にラーシュが前に出たが、フィリップは男に興味がないので知らんぷり。でも、ダグマーに背中を押されて前に出された。


「帝国第二皇子、フィリップ・ロズブローク殿下であらせられる」

「はは~」


 ラーシュが紹介するだけで、ペータルはまた仰々しく頭を下げる。けど、フィリップは「自分で自己紹介しなくていいならいらなくない?」とか思っている。

 フィリップが一言も発していないのに寮の説明になったので「やっぱりいらなくない?」と思いながら立派な階段を登り、2階へと連れて来られた。


「こちらが大食堂となります。時間制で朝昼晩の食事が提供されますが、殿下やラーシュ様でしたら、シェフに言ってくれたらいつでもご用意させていただきますので、なんなりとお申し付けください」


 本来ならば2時間前後の食事の時間らしいが、国や位によってはVIP対応となるらしい。それからも談話室や窓から見える学校や建物の説明を受けたら、上の階に移動する。


「ここからは学生の個室となります。本来ならば、護衛の方は立ち入り禁止です。本日のみの警備の確認ですのでご了承してください」


 3階からは、生徒の個人スペース。各階段には警備の兵士が常駐しているので、安全が保たれているらしい。

 ちなみに護衛やメイドの宿舎はこの寮の1階だから、その時点で不審者は大量の護衛に止められるので、警備兵はそこまで人員は多くないみたいだ。


 3階の説明を受けるなか、フィリップが初めて口を開く。


「ところで女子も同じフロアなの??」


 その質問に、ラーシュたちは「悪いクセが出たな」と構え、ダグマーはフィリップの足を踏んだ。全員、女子生徒にちょっかい掛けると思ったらしい。


「殿下の仰る通りですが、この建物は真ん中に壁がありまして、2階からの階段でしか行き来できない作りとなっております」

「ふ~ん……壁だけ? ドアはないの??」

「ありません。間違いが起こらないように作られています」

「ふ~ん……火事とかになったら、避難とか大変そうなんだけどな~……」

「確かに! その考えに至らなかった私の落ち度でございます。さすがは第二皇子殿下でございますぅぅ」

「やだな~。おだてても何も出ないよ? ドアとか付けたら鍵はちょうだいね~」

「「「「「やっぱり……」」」」」


 ちょっと賢いことを言ってしまったフィリップがごまかすと、ペータルも含めて「女子生徒のところに行こうとしてたんだ」と確信したのであったとさ。



 3階から5階に移動しながら、ここもペータルの説明。上に行くほどフロアが狭くなり、部屋は逆に広くなるとのこと。

 4階は貴族の中で位が高い者が使い、5階は王族のフロア。ただし、国の力関係も加わるので、帝国の公爵家であるラーシュは5階を使うことになる。

 最上階の6階は、完全に帝国の皇族用。一番上ということもあり分譲マンションの一室ぐらいの広さで、ワンフロア丸々使えるから安全は守られているらしい……


「これ、よく家具を運び込めたな……」


 エレベーターもないこんな部屋に閉じ込めるなんて、「考えたヤツは帝国に恨みがあるのではないか」と小声でブツブツ言ってるフィリップであったとさ。



「まぁお風呂もトイレもキッチンあるから、暮らしやすいかな? ダグマーって料理できるの~??」


 ペータルは息切れしているので、ダグマーに話を振ったのに割り込んで来た。


「メイドが滞在できる時間は決まっているのでご容赦してください」

「え~! 夜もダメなの!?」

「はい。夜はお風呂とお着替えができる時間しか滞在できない決まりとなっています。これは当学院の方針でして……」


 どうやらカールスタード学院とは、各国の貴族間の繋がりを作ることが目的でもあるから、護衛やメイドがいると親密な話ができないので時間制限を設けているとのこと。

 これらのことは国のトップ間で了承しているので、学生どうしならば多少の揉め事は容認しているらしい。


 メイド等のいない時間帯でも、生徒は自由に寮内を歩くことができるから、学校で仲良くなった者とより親密になれるんだとか。

 ただし、上階への移動は御法度。どうしても移動したい場合は、上階の者に許可証を書いてもらうか同伴でしか通れないそうだ。つまりフィリップは、下階に下りない限り、永遠のボッチだ。


「てことは、ラーシュも来れないんだ……プププ」

「はい? 当然、許可証はいただけるんですよね?」

「考えておくよ。プププ」

「は、早くしてくださいよ? 頼みますからね?」

「プププ。どうしよっかな~?」

「私は殿下の護衛なんですから~~~」


 男はノーサンキュー。ラーシュがなんと言おうと、フィリップはからかい続けるのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る