036 第二皇子の人気


 一通り寮の説明を受けたフィリップは、疲れたからとダグマー以外を自室から追い出した。ひとまずダグマーは備え付けのキッチンでお茶を入れ、バルコニーのテーブル席に座って遠くを見ているフィリップの元へ運んで来た。


「どうぞ」

「ありがと~。あ、ダグマーも一緒にお茶しよ? これは命令だからね」

「はい」


 命令と言われたからにはダグマーも従って席に着いた。


「なんだかとらわれのお姫様になった気分だよ」

「ブフゥゥッ!!」


 ダグマーが一口飲んだところで、頬杖ついて遠くを見ていたフィリップがボケたものだから、紅茶を盛大にぶっ掛けた。


「ゴホッ! ゴホゴホッゴホッ」

「そんなに僕がお姫様に見えるんだ……」


 どうやらダグマーのツボに入ったっぽい。しばらく喋ることもできずに、咳き込みながらフィリップのことをタオルで雑に拭いていた。


「申し訳ありませんでした!」

「いいよ。いつものことだし。それより、僕がお姫様だったとして、ダグマーだったらどうやってここから助け出す?」

「プッ……そうですね……」


 フィリップがプレイの一貫のようなことを言ってから質問すると、ダグマーは軽く吹き出してから立ち上がり、端に移動して下を覗き込んだ。


「登るのはかなり厳しいですね。となると、正攻法の階段から敵を倒しながらとなります。それも手練れが揃っていると辿り着くのは難しいかと」

「だよね~。ちなみに、もしもここまで上手く忍び込めたとして、僕をさらって逃げられる?」

「逃げ場が一ヶ所しかないので、それも難しいですね」

「ここからは下りないんだ」

「ロープが足りません。これだけ高いとなるとかなりの重量になりますので、忍び込む前提でしたので排除しました」

「なるほど。優秀だ」


 フィリップが真面目な顔で褒めるので、ダグマーはこの質問はどういう意図かと考える。


「やはり、護衛がいないのは不安ですか?」

「ううん。どうにか女子部屋に行けないか考えていただけ。バルコニーからは無理か~」

「お、おたわむれを……」

「あ、怒った? 怒っちゃや~よ。アハハハハ」


 心配していたフィリップがよからぬことを考えていたので、尻を蹴るダグマーであったとさ。



「冗談はさておき、ダグマーと接近を禁じられているのは痛いな~……」


 フィリップはお尻をさすりながらこんなことを言うので、ダグマーは強く蹴りすぎたかとも思ったけど、楽しい時間のことだと考え直した。


「時間は限られていますが、お世話をすることは禁じられていないので充分な時間かと」

「アハハ。そんなに僕を蹴りたいんだ~。アハハハハ」


 ダグマーの返しに、フィリップは大笑い。本当は夜遊びができる自由時間ができたから喜んでいるんだけどね。


「そんじゃあ、新居のベッドをちょっと試してからみんなと合流しようか」

「はい……」


 結局はフィリップもダグマーと楽しみたいので、夕食までお互いの趣味を満喫するのであったとさ。



 それから先程より疲れた2人は階段を下りて大食堂に向かっていたが、フィリップは言いたいことがある。


「これ、毎日上り下りするのか……」


 6階問題だ。階段が長すぎて飽き飽きしてる。


「今日はちょっと無理ですが、明日からはおぶって連れて行けますので」

「あ、ごめん。張り切りすぎちゃったね」

「こちらこそ申し訳ありません」

「謝らないでよ~。てか、調子がよかったら本当に行けるの?」

「はい。これでもレベルは高いほうなので問題ありません」

「そっか。しんどくなったら頼むよ」


 レベル30超えのフィリップも余裕なのだが、馬鹿皇子設定なのだからダグマーにおぶられたほうが自然と考えたフィリップ。

 それから2人で階段を下りて2階の大食堂に入ると、大勢の生徒がメイドに世話をされ、楽しそうに食事をしている姿があった。


「「「「「第二皇子殿下。ようこそ! 私は……」」」」」


 その生徒たちは、フィリップの姿が目に入ると食事を止めて我先に走って来た。でも、各々同時に挨拶しているので、フィリップは誰が誰かサッパリわからない。


「なんかよくわからないけど、うちのラーシュってどこにいるの?」

「「「「「こちらでございますぅぅ」」」」」


 わからないことは放置。太鼓持ちっぽい生徒たちは無視して、開いた道を進んだらラーシュが立って頭を下げていた。


「お待ちしておりました」

「そんなのいいって言ってるでしょ。てか、この騒ぎはなに??」

「殿下が入寮したと噂になっていまして……」

「あ、先に座ろう。ダグマー、食事持って来て。ラーシュのメイドもよろしく~」


 立ち話もなんだからとダグマーたちに指示を出したら、フィリップから豪華なテーブル席に着いて続きを聞く。


「てことは、僕にすり寄りたい人が集まっていると……」

「はい。私にも顔繋ぎしてくれと集まって来まして」

「なるほどね~……散れ! いまから食事するの! 近付いたヤツとは一生喋らないからね!!」

「「「「「はは~」」」」」


 理解したフィリップが怒鳴り散らすと、生徒は蜘蛛の子を散らすように。ただし、盗み聞きしようと静かに耳を傾けてるな。


「帝国第二皇子って大人気だね。実家じゃ不人気なのに」

「はあ……そんなに自分を卑下しなくても……」

「ラーシュだって兄上のほうがいいって言ってたじゃ~ん」

「そ、そんなこと一言も言ってません! 私はフィリップ殿下に……ちゅ……ちゅちゅちゅ……」

「もういいから無理しないで。悲しくなっちゃう」


 嘘でも「忠誠」すら言えないラーシュなのだから、こいつとは友達になれないとハッキリわかったフィリップであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る