013 変装
「う~~~ん……時間が足りない……」
順調にダンジョンでレベル上げをしていたフィリップであったが、壁にぶつかっていた。
「窓から飛び下りるでしょ。見回りに気を付けて外壁まで行くでしょ。外壁を素早く登って飛び下りるでしょ。ダンジョンまでスケートで急いで行くでしょ。4階までは飛ばして行けるけど、そこから時間が掛かるから、戻る時間を考えたら6階の半ばまでしか進めないんだよな~」
そう。フィリップの持ち時間は、皆が寝静まって明るくなる前まで。ダンジョン内に滞在できる6時間程度では、最下層まで辿り着けないのだ。
ちなみにこの世界には時計が存在しているのだが、そのことを忘れていたフィリップは、また武器庫に忍び込んで懐中時計を盗んでいた。
「レベルを上げたらなんとかなりそうなんだけど、30超えた辺りから上がりにくいんだよな~。下の階でレベリングしたら上がりやすいとは思うけど、そこに行く時間がな~……ジレンマ!」
そもそもこのダンジョンは地下10階プラス2階まであり、地下に行くほど広くなっている。乙女ゲームでも攻略には3日を要し、キャンプで「ワッキャウフフ」な展開が起こるイベントだ。
帰還アイテムのような物はあるにはあるのだが、正規ルートの門番に渡されるから、裏ルートで忍び込んでいるフィリップでは手に入れられないのだ。
「あ、そうか……帰還アイテムを学校に忍び込んで盗めばいいのか……どこにあるんだろ? 門番の宿舎とかあるのかな??」
この日からフィリップは帰還アイテム探しをしてみたが、暗くなってからでは門番らしき人も部屋も見付けられなかったので、無駄な努力をしたと項垂れるのであった。
帰還アイテム探しが上手くいかないなら、次なる一手。自室にてエイラとなんだかんだやったフィリップは、ベッドを出ようとしたエイラに抱き付いて止めた。
「まだなさいますか?」
「あ、うん。いや、ちょっとした相談……カツラって手に入らないかな?」
「カツラですか……どのような用途で使うのでしょうか?」
「城内を歩く用。僕が歩くとみんなコソコソ言うじゃない? 変装していたらどうなるか試したいみたいな?」
エイラの質問に無難な噓で返したフィリップは、布団の中の右手はガッツポーズ。これからのことを思うとあまり勘繰られたくないみたいだ。
「そういうことでしたら……服も用立てたほうがよろしいかと」
「あ、そんな感じでよろしく。できたら秘密裏にしてもらいたいな~」
「極力努力してみます」
「ありがと~~~う」
「あ……」
エイラから許可が出たので、フィリップは胸に顔を埋めて感謝。いや、最初に言われたマッサージの続きがしたくなったらしく、幸せな気分のまま眠りに就くのであった……
数日後、エイラが黒髪のカツラが用意できたと持って来たので、フィリップは
「ふぁ~……いい感じじゃない? わからないよね??」
「ですね。こちらも着てみますか?」
「うん!」
ついでに服を着せてもらったら、フィリップはエイラと共に部屋を出た。
「おっ……挨拶もして来ないしコソコソ話もしない。中級貴族の子供ぐらいに見られているのかな? いい仕事してくれたね~」
「もったいないお言葉です」
「そんなことないよ。エイラはいつもいい仕事してるよ。出来損ないの僕なんかに優しくしてくれて、いつもありがとね」
「も、もったいないお言葉です……」
「あ、ちょっと照れた? アハハハ」
この日は城内を散歩して、エイラとたわいもない話をするフィリップであった……
それから数日、フィリップは謎の微熱が続き、昼間は寝込むこととなった。
「さあ……夜遊びの時間だ!」
もちろん仮病。熱魔法で病人を演じ、夜型にしただけで体は健康だ。
そのフィリップはというと、ダンジョンで手に入れてアイテムボックスに保管していた一般市民が着ていそうな服に着替えてカツラを被り、窓から飛び下りた。
巡回兵を確認しながら向かった先は、お城の南側。門番や城壁の上の兵士にバレないように乗り越えたら町に出た。
「ガーン……誰もいないし活気もない。そりゃそうか」
初めての城下町は、ゴーストタウン状態。夜中なのだから、こんな時間に出歩くのは酔っ払いか衛兵ぐらいしかいないのでは当たり前なのだ。
ちょっとガッカリしたフィリップであったが、中世ヨーロッパ風の大きな屋敷の数々は珍しいので興味津々で歩き出した。しかし、歩けども歩けども立派な石造りの家ばかりなので、フィリップも不思議に思っている。
「デカイ家ばっか……それにここって綺麗すぎる。ひょっとして貴族街ってヤツか? 乙女ゲームには出て来なかったけど、よくよく考えたらあるよな。それなら先に下見だけしておけばよかったよ~」
せっかく変装アイテムを手に入れたのに、役立たず。フィリップはいまさら下見を始め、お城の近くから順に毎日走り回るのであったとさ。
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