014 年齢詐称


 城下町探索を開始して数日。フィリップはベッドに寝転んで自作の地図を見ていた。


「貴族街は、南から東のこの区画だけか。かなり広いけど……てか、帝都、ひろっ!?」


 お城だけでもかなり巨大なのに、その西側には敷地面積が必要な帝都学院が隣接され、北側には神殿まである。そのふたつを合わせた面積が丸々貴族街なのだから、それよりも8倍も面積のある帝都は、馬鹿デカイ町なのだ。


「夜だからわかりづらいけど、西側が一番店っぽいのが多かったな。その他は戸建てというか集合住宅っぽい建物がいっぱい。買い物は西側でするのかな? それとも商店街が各地区に散っているのか……じゃないと不便だよな。てか、広すぎて1人では無理だ! 町に出て誰かから聞こうっと」


 立地を確認したら、フィリップはカツラで変装して夜に抜け出し、お馴染みの帝都学院の中を突っ切る。そうしてやって来たのは、やっぱりゴーストタウン。


「確か向こうのほうに灯りがあったよな。酒場かな~? あ、マントだけ違うのに変えとこっと」


 フィリップは猫耳マントから淡い色のコートに替えると真っ直ぐ歩く。月明かりのなか時々男性と擦れ違うが、酔っているのかフィリップのことは気にも掛けていなかった。


「さあ行くぞ。たのも~」


 とか小声で道場破りみたいなことを言いながら、雑踏が漏れる店の扉を開けたら音は大きくなった。予想通り酒場だ。何人かはフィリップのことを見たが、すぐに仲間との会話に戻っていた。

 ひとまずフィリップは中を確認したら、店員が寄って来る気配もなかったのでカウンターまでズカスガと歩き、背の高い椅子に飛び乗った。いや、成人男性ならちょっと高い椅子だった。


「マスター。いつもの」


 そして常連っぽいことを言ってみた。


「んな上品な店じゃねぇ……お前、子供じゃないか??」


 するとハゲ散らかったオッサンは荒い口調で振り返ったが、フィリップの顔を見て固まった。どこからどう見ても立派な子供だもん。


「よく言われるんだよね~。こう見えてハタチなんだよ」

「20歳だ~~~??」

「声、デッカ。それよりドリンクメニューは何があるの?」

「まだ俺が驚いてるだろうが!!」

「目立ちたくないんだから、大声出さないでくんない??」


 酒場の店主はフィリップの言葉をまったく受け入れてくれないので揉めていたら、あのイベントが発生する。


「なんでこんなところにガキがいるんだ~?」

「ガキはおねんねの時間だぞ~?」

「「「「「ガハハハハハ」」」」」


 ガラの悪い酔っ払いだ。店主の声が聞こえたのでフィリップに絡みに行ったけど、ガラが悪いだけで普通のことを言ってるように聞こえる。こんな時間に子供が酒場にいるほうがおかしいもん。


「あ、ちょうどいいや。こいつらに腕相撲で勝ったらハタチと認めてよ」

「「「「「20歳だと~~~??」」」」」

「マスター、審判よろしく~」


 フィリップは店主に頼み事をすると椅子から飛び下りてテーブル席に移動する。その間にガラの悪い酔っ払いたちは店主から話を聞いて、「絶対ウソついてるやん!」とか言ってた。

 そういうことならばと酔っ払いたちも「追い返したほうがいいよな?」と冷静になって、フィリップと腕相撲することを了承していた。


「悪ガキはいねがぁ~?」

「アハハ。ナマハゲみたい」


 第一試合は、一番体の大きなスキンヘッドの男。生でハゲてるとかではなく、発言がナマハゲっぽいからフィリップは笑っているのだ。

 生ハゲは怖がらそうとしたみたいだけど、不発になっているので顔どころか頭まで真っ赤になった。


「プッ。今度はタコになった。アハハハハ」

「このガキャー! 腕折られるぐらい覚悟しろや!!」


 恥ずかしがっているところをフィリップにバカにされたので、生ハゲは激怒の赤に変わった。


「だからハタチだって言ってんじゃん。はい、タコさん。手を組むよ~?」

「ナメ腐ったガキだな! 折ったら~~~!!」


 フィリップが右手をテーブルに置いて挑発すると、生ハゲはフィリップの手を掴んだ瞬間、スタートの合図も聞かずに押し込んだ。


「……え??」


 しかし、フィリップはピクリとも動かず。そのありえない重さに、生ハゲは岩でも掴んだ感覚に陥っている。


「じゃあ、マスター。合図よろしく~」

「ちょちょちょ、ちょっと待っ……」

「はじめ!!」

「ぐわ~~~!!」


 結果も目に見えた結果。レベル30超えと一般市民では、ドラゴンと人間の子供ほどの力の差があるのだ。

 生ハゲの待ったの声は届かず、テーブルに手をぶつけたあとは体が回転してしまい、床に転がったのであった。



「ね? ハタチでしょ??」


 腕相撲で勝ったぐらいで20歳になるわけがないのだが、場が静まり返っていたのでフィリップは皆を一言でこちらに引き戻した。


「次は俺だ! ママのオッパイ飲みに帰りな!!」

「個人的にはママより娼婦のほうが好きなんだけどな~……あ、これに勝ったら、いい店紹介してよ」

「ガキがなに言ってんだ!? ギャーーー!!」


 今回は合図もなしに、手を組んだ男を片手で投げ捨てるフィリップ。5メートル近く飛んで行ったので、酒場はまた静まり返った。


「こんなところかな? 子供じゃあんなことできないでしょ。僕はハタチ。いいね?」

「「「「「はあ……」」」」」


 呆気にというかお化けでも見てるような一同に確認を取ったフィリップは、カウンターに戻り、店主に飲み物を注文するのであった……


「う~ん……じゃあ、ミルクで」

「「「「「子供じゃねぇか~~~!!」」」」」


 子供の体で酒なんて飲んでしまっては城まで帰れなくなりそうだし、美味しそうなノンアルコール飲料がなかったので飲みやすそうな物を頼んだら、全員から総ツッコミを受けるフィリップであったとさ。

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