やっぱり「あなた何者ですか?」ってインタビュー中言えないって

茶碗蒸し

「で、あなた何者でしたっけ?」なんてインタビュー中に言えないから の続編

インタビューする相手の下調べしなかったら前回あんな事になったのでそうならないように急遽のインタビューはないように気をつけていたはずなのですが!




「そういえば国が再来年からひとつの企業に1人は置かなきゃいけない専門職作ったの知ってる?」


「え、そうなんですか?」


「もー新聞読まないの?」


「すみません」


「大丈夫よ。ちょうど今日はその第一人者の人が来てくれてるわ。予備知識なく取材に行くのも大事よ」


「え?それ先輩の取材相手じゃ?」


「そうなんだけどね、その先輩は昨日食べすぎた激辛ラーメンのせいでお腹が今もキュルキュルで、ごめんねーお願いねー」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよー」


それだけを言い残すと先輩はキュルキュルお腹を鳴らしつつトイレへと消えていった。


仕方なく仕方なく例のインタビュールームに移動した。あの悪夢のようなインタビューを繰り返さないように先輩には「カキを食べるべからず」と近くを通るたびに背後霊のような距離で諭したつもりだったが・・・・


「なんで激辛いくかなー、先輩食堂のカレーも甘口のくせにーー」


1人インタビュールームで毒つく。


(あ、国がわざわざ作った専門職だし、企業に1人づついるから大丈夫じゃん?前回みたいにやべーのなわけない!)


自分に言い聞かせ気持ちを切り替えた。

もちろん人、人、時々先輩の名前を手に書いてガブガブと食べてやった。


(先輩めーーーー)




ガチャ



「はじめまして、石川です。お願いします」


「石川様、本日はインタビューを受けていただきありがとうございます」


「いえいえ、よろしくお願いします」


「まずはじめにこちらの専門職はまだ皆さん聞きなれないと思いますので略称ではなく正式名称でお願いします」

(きた!賢っ!これで前回みたいな失敗はない!)


「はい。正式名称だとわかりづらいのですがマスターオブハンディ○×△☆♯♭●□▲★※です」


「すみません、やはり正式名称ですと文字数もありますため略称でお願いします」

(横文字はやめて、呪文にしか聞こえない)


ヒアリング力ゼロのため途中でわけが分からなくなり慌てて止めた。


「かしこまりました。オフィスメンタルサポーターになります」


「オフィスメンタルサポーターありがとうございます」

(よし、とりあえずは名称聞けた。メンタルサポーター?カウンセラー的なやつかな?メンタルヘルスケアみたいなやつかな)


「ありがとうございます。こちらの専門職を任命された時いかがでしたか?」


「責任重大だと思いました。全社員を私1人でサポートできるのかと」


「そうですよね、たった1人ですもんね。工夫してる点がありましたら教えてください」


「私1人で全社員をカバーするためにメールや電話等で連絡をこまめにしています」


「なるほど、具体的にはなんと?」


「変化はございませんか?もしサポートが必要でしたら心おきなくご連絡ください」


「あーそのようにするとサポートしてもらう立場からするとありがたいですね」


「ありがとうございます」


「実際にどんな方からサポートを依頼されましたか?」

(あの失敗を活かして、専門職を具体的にわからなくても上手にインタビューできるようになったな)


「先日、仕事でミスをし謝罪をするという人のサポートをしました」


「なるほど、そういった方は誰にも相談できずに苦しんでる事もありますのでサポート必要ですね」


「そうなんですよね、なのでサポートできて嬉しかったです」


「素晴らしいですね」

(よし、このままのらりくらりいくか)


「もっと踏み込んだ質問していいですよ」


「え、なんでですか?」


「先日お電話で踏み込んだ質問バンバンするのでよろしくお願いします!と元気よくおっしゃっていたので」


「ありがとうございます」

(激辛ラーメン先輩ーー余計なことを!)


「では踏み込ませていただきます。お答えしたくなければおっしゃってください。失敗してしまった事や、こうすればよかった等はありますか?」


「そうですね、サポートするタイミングがずれてしまった事がありました。」


「と言いますと?」


「早すぎてサポートのタイミングが合わなかった事や、遅すぎてもう間に合わないという事もやはりありました。」


「なるほどそういった事があるんですね。その場合の対処はいかがするんですか?」


「自力で対処する方もいますし、諦める方もいました。だからこそタイミングを徹底して考えています。家に帰ってからも練習しています」


「ありがとうございます。石川様の強い気持ちが伝わりました。だからこそ石川様にサポートしてもらいたいと皆さん思うんですね。私もぜひ石川様にサポートしてもらいたいものです。一旦休憩しましょうか」

(よし、今回はうまくいきそう)


余裕が出てきたので休憩の間水を飲む事にした。石川様は誰かに電話をしていた。



10分後



「では再開します。よろしくお願いします」


「はい」


「では次は」


コンコン、ガチャ


ドアを開けた音とともに真っ青な顔の後輩が立っていた。


「どうしたの?今インタビュー中だけど」


「すみません。部長が請求書の内容が違うと怒ってまして今すぐ部長室に来いとの事です」


「え?私が出したやつ?」


「はい、急いでください」


「石川様!申し訳ありませんがインタビューを一旦中断させていただいても」


「大丈夫ですよ」


「申し訳ありません。急いで戻ります」

(やばいやばい。あの請求書は許されない)


そう言って部長室に向かって走りだした。


しかしなぜか石川様が並走してくる。


(え?どういう事?)


ツッコミたいのはやまやまだったが一刻も早く謝らないと大変な事になるのでエレベーターに乗った。


「大丈夫ですよ。私がサポートします」


そう笑顔で言うとエレベーターに石川様も乗ってきた。


「申し訳ありませんがお部屋でお待ちいただけますか?」

(サポートいらないから待ってて)


それだけ言うのが精一杯であとは突っ込む時間がもったいないのでそのまま部長室に向かう廊下を走った。


その間も石川様は後ろを追いかけてきた。


「あの」


「大丈夫ですから気にしないでください」


「わかりました」

(わからないよ!なんだよこの人!メンタル石川変すぎるだろ)


あまりの出来事にあだ名をつけてしまった。


「ぺりぺり」


今度は何かを剥いてる音が後ろおそらくメンタル石川から発せられているが振り返る時間がもったいない。


「ぺりぺりぺりぺりぺりぺりぺりぺり」


部長室まで3メートルのところでメンタル石川は騒音のギアを一気にあげた。


「メ、じゃなかった、石川様なんの音でしょうか?」

(どうした?かまってちゃんなのかな?)


あまりの音に立ち止まって振り返り声をかけた。


「こちら綺麗に用意できたので大丈夫ですよ」


メンタル石川は意味不明な事を言って白い丸い野球ボールのようなものを両手でそっと手渡してきた。


「これは?」

(インタビュー中断した事を怒ってる?)


意味不明な事が続き限界寸前で聞いた。


「説明する時間はありません。こちらを顔の前で吸うのです。さぁ吸って」


「え?え?え?え?え?」

(怖い、怖い、怖い)


「いいから早くしないと!さぁ吸って吸って」


「すーすーすーすー」


メンタル石川の勢いに押され仕方なく吸った。


(あれ、この匂いって・・・・)

 

「では回収しますね。早く、早く部長のところへ」


メンタル石川は白い球を光の速さで回収すると嬉しそうに背中を押してきた。


わけもわからずとりあえず急いで部長室に入った。そこには顔から湯気が出るほど怒った部長がいた。


「どう責任を取るつもりだ!請求書だぞ!!」


ものすごい剣幕で空気が揺れるほど声を荒げて部長が言った。


「申し訳ありませんでした。」


頭を下げると自然と涙が出てきた。


「いいから顔をあげなさい!」


部長はまくし立てる声で言った。


「申し訳ありません」


その言葉を誠心誠意伝えるとさらに涙が頬をつたった。


「こちらも言いすぎてすまなかったね」


じーとこちらの顔を見た後突然別人のように穏やかな口調で部長が言った。


「とんでもございません。申し訳ありませんでした。」


ガチャ


ドアが開いた音がした。


「いかがでしたか?部長様」


メンタル石川が満足気に入ってきて聞いた。


「石川様!」

(メンタル石川さすがにそれはまずいよ)


「たしかにそうだね、涙を流されると怒れないね。さすが、君の仕事は素晴らしい」


2人はわきあいあいと楽しそうに会話してる。


「えっとこれは?」

(なにこの不思議な空間?)


「私の仕事を御社の部長にも体験していただきました。元々はエキストラのつもりでしたが」


「え?えーと??」

(体験?エキストラ?)


「あなたが私のサポートをぜひ体験してみたいって言ってくれたから急遽部長様に怒ったふりをしてほしいとさっきお電話したのよ。よかったわ」


「えっと?サポート?なんのでしょうか?」


「もー先ほど渡したはずですよ、玉ねぎを」


「玉ねぎ⁉︎⁉︎⁉︎」


「はい、玉ねぎを渡して完璧にサポートさせていただきました」


「えっと石川様の具体的なサポート方法を先ほどより丁寧にお教えいただけますか」

(聞きたいけど聞きたくない)


前回同様嫌な予感はしたものの聞いてみた。


「はい。謝罪する際はいかに誠意を伝えるかが大事です。涙というのも有効手段です。ところが簡単に泣ける方ばかりではありません」


「そうですね」

(まずい、嫌な予感しかしない)


「ですから私が綺麗に玉ねぎを剥き泣きたいタイミングでお渡しするようにしてます」


「素晴らしいですね」

(意味不明!メンタル石川どうした?)


「ありがとうございます」


「先ほどのサポートのタイミングのずれというとあれですかね」


「もちろん、玉ねぎを剥いて渡すタイミングを間違えると涙は出ませんし、早すぎると謝りに行くまでに涙が出終わってしまうので難しいんです」

 

「やはり、そうですよね。難しいのは想像できます」

(できませーん!なんの難しさだよ)


「ありがとうございます」


「これからもサポート頑張ってください」

(玉ねぎ今くれ、このもやもやを涙腺崩壊で解消したい)


ガックリと落ちそうな首を筋肉だけで持ち上げ笑顔で言った。


「はい、これからも全社員のために頑張ります」


それだけ言うとやり切った顔をしてメンタル石川は颯爽と会社を後にした。


その後、正式名称を先輩に聞くとMaster of handing over beautiful onionsであった事がわかった。


直訳すると "美しい玉ねぎを渡す達人"



「なにその専門職!八百屋か!」



おしまい

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やっぱり「あなた何者ですか?」ってインタビュー中言えないって 茶碗蒸し @tokitamagohan

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