第2話 遭遇


 山となった瓦礫は、そもそも建物の壁だったもの。ひとつひとつが大きく、そしてかなり重い。適当にどかしてしまえば、崩れてしまうかもしれない。それが埋もれてしまった人物の頭部に当たったら危険だ。

 

 リリーは丁寧によく考えて計算しながら、瓦礫をどかす。

 時折、埋もれた人物に声をかければ「大丈夫」という返事があるので、生存だけは確認できていた。


 そうして何とか二人で埋もれた人物を瓦礫から引き出すことに苦戦すること三十分。なんとか無事に成功し現れたのは青年・セロだった。

 ずるずると引きずり出せば、セロは自身の力で起き上がってその場に座る。


「いやぁ、助かったよー。ちょっとミスして、埋もれちゃってさぁ。君らがいてくれてよかった。本当にありがとう」


 頭を搔きながらへらへらと言う彼に、リリーは目を見開いた。


「ん? どうかした? 俺の顔に何かついてる?」

「いえ、そうではなくて……そのぉ……」


 目の前であぐらをかいて座るセロを頭からマジマジと見つめる。

 頭を動かせば、髪についた土ぼこりが落ちる。白のロングコートが薄汚れているが、あらわになっている場所に外傷はない。二人がかりでどうにかどけることができた瓦礫。相当な重さであったし、かなりの負荷がかかったはずなのに、傷ひとつない姿に驚きを隠せない。


 加えて目立つ髪色と、今の空を反映したかのような蒼い瞳がリリーの目を奪う。今までで、仕事や家系柄様々な人に出会ってきたが、このような風貌の人物はかつていなかった。


「見過ぎだ。目が汚染されるぞ」

「ひゃっ」


 黙ったまま見ていたリリーの前に、アイルは立ちふさがった。セロに向け、すぐさまダガーを構える。

 浮いた見た目だけではない。アイルはセロに対して、違和感を感じていた。


「酷いなぁ。俺はそんな力は持ってないよ? 彼女を守る様子からして、君はもしかして彼女の騎士ナイトかい? 立派だねえ」

「うるせぇ。こっちは怪しい奴から守ることが仕事なんだよ。レメラスに居る時点でテメェは怪しさ満点だろうが」

「やだなぁ、俺はちょっとばかしをしていただけだよ。怪しくはないって」


 ほら、と両手を挙げる。セロの腰には剣があるもの、それ以外の武器はなく、武器をとる素振りはない。敵意もなさそうではあるものの、それでもアイルはダガーをしまわず、ジッとセロを睨む。

 セロはアイルから刃を向けられてもひるまず、ただただ変わりなく飄飄と話していく。


「護衛かい? それなら、レメラスここが危ないと思っていたんじゃないのかな? そんな場所に君らはどうして来たのかな?」

「るせぇ、テメェに話す理由は――」

「私達も探しに来たんです。ベイルがどうしてレメラスを滅ぼしたのか、その理由を!」


 食い気味にリリーが割り込み、アイルはすぐさま耳を塞いだ。


「私、歴史の研究をしているんです。レメラスの喪失で終戦となった在変ざいへん戦争せんそう。その戦争で月人つきびとたちが主戦力としていた生体兵器・ベイル。それについては、強かったという記録しか残っていない。どんな兵器だったのかすら記録がないんです。だからそれについて調べています。何か見つけられたら大発見ですよ!」


 ペラペラと話すリリー。またかと呆れるアイルとは正反対に、興味深そうに聞くセロは頷く。


「最後の戦地となったレメラスならベイルについての痕跡があると思ったんです。まあ、今のところ何も発見できていないですけどね……」


 歩き続けた三時間で何も見つけられていない。簡単に新発見することはないとわかっていても、希望が見えない今の状況にリリーは顔をしかめる。


「へえ、君は随分と勉強熱心だね。今の時代にベイルを調べようとする人がいるなんて」

「いえいえ。私なんてお父様たちに比べたら何もできていない役立たずです……」


 くよくよし始める彼女にかける言葉が見つからず、セロは困惑した表情を浮かべる。


「あ、そうだ。助けてもらったお礼といってはなんだけど、ベイルに詳しい人を紹介しようか? 俺の紹介なら、気難しい人だけどきっと話してくれると思うよ」

「ほんとですか! 嬉しい!」


 リリーの目は輝き、ぴょんぴょんと跳ねて、全身で喜びを表す。


「そんなに嬉しいなんて、なんだか俺まで嬉しくなるね」


 どっこいせ、と腰を上げたセロ。前に後ろに身体を倒して、固まった筋肉をほぐしていく。

 立ち上がった背丈は、アイルよりも高い。それが気にくわないようで、アイルは少し離れたところからセロを睨んだ。


「あちゃぁー……彼に何かしたかなぁ。と、とりあえず。詳しい彼がいるのはここから先の都市なんだ。案内するよ」

「ありがとうございます!」

「お礼を言うのはこっちのほうだよ」


 ニコリとほほ笑み、セロは右手を出す。


「改めて。俺はセロ。少しの間だけど、よろしく」

「リリーです。リリー・ベルフォード。彼は私の護衛をしているアイルです」


 セロとリリーが握手を交わす横で、アイルはむっとした顔をセロに向けるのだった。



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