六十三 対悪魔作戦会議

 ウグルーシュ帝国参謀本部の一室で開かれた会議にて、議長を務めるザミエル中将以下集まった面々は、上がって来た報告書を読んで頭を抱えていた。


 帝国でも精鋭が多く揃った第4軍のまさかの壊滅、及び南方戦線の後退。


 しかも第4軍のほとんどの兵は、かのベルンツァの悪魔と呼称される少女一人によって斬殺されたと言う。


 その数、およそ5万強。


 更には、第4軍随一の猛者であったゴルトー少将をも無傷で討ち取っている。


 もはやその戦功は人間の範疇はんちゅうに収まらず、まさに悪魔と呼ぶべき所業であった。


「……一言で表すなら、あり得ない、だな……」


 書類から目を背け、天上を仰いだザミエルは疲れ切った声音で呟いた。

 できるものならすぐにも現実逃避したい。そのような表情で。


「アレスト少将の報告を虚偽だと思っていた訳ではないが、甘く見積もり過ぎではあったようだ」

「しかも、まさかゴルトー少将までもが破れるとは……彼ならば奴を討ち取ってくれるものと期待していたのだが……」

「まったくです。一騎打ちならば、南方戦線へ向かった軍の中では最強だったのではないでしょうか?」

「その少将ですら、容易く破られたと言うではないか。まるで底が知れんな……」

「そもそも一人で万単位の軍を蹴散らす相手など、どう相手取ればいいものやら……」


 口々に恐れおののく面々にザミエルも同感ではあったが、嘆いているだけでは会議の意味がない。議長として話を進めるべく口を開いた。


「……報告書にて確認しているとは思うが、第4軍の数少ない生き残りにクレベール少佐が含まれている。彼女の証言を元に、グルーフ要塞のガスコール中将から竜騎士の派遣を求められた。次の議題はこの是非を問うものとする」

「グルーフ要塞と言えば、ルバルト平野からすぐ北でしたか。公国軍の次の目標になり得る訳ですな」

「是非など問うまでもないのでは? 小官は悪魔の評価を上方修正し、帝国への明確な脅威だと判断することを提言するものであります」

「賛同する。これ以上奴をのさばらせていては、せっかく奪った領土を全て引っ繰り返されかねん。早急に対処すべきだ」

「同意は致しますが、問題もありますね。どの隊を派遣すればよいか。判断基準が難しい」


 若き情報士官の疑問が飛ぶと、しばらく会議室に静寂が流れた。


「うむ……各方面を攻略中の三騎将は動かせんぞ。特に北の蛮族どもの中には未だ強硬に抵抗を続ける勢力があり、平定にはまだ時間がかかるそうだ」

「北も北で厄介ですからな。本来ならこのような多方面作戦など展開すべきではないのですが……」

「しっ! 口を慎め。陛下のご意向に背くと取られかねんぞ」

「これは失言を……どうか聞かなかったことに」


 エウロア大陸のほぼ中央に位置する帝国は、新皇帝の強行政策の下、現在全方位の国々に侵略の手を伸ばしていた。


 豊富な軍事資源と、植民地化した国家の食糧を徴収することで戦線は成り立っているが、南方戦線を始め、次第に綻びが目立ちつつあるのも事実である。


 しかし意見する者はすぐさま処刑する暴君と化した皇帝の命には誰も逆らえず、参謀本部を始め、帝国軍は終わりの見えない侵略戦争に従事しているのだった。


「……そう言えば、アレスト少将を救助に向かったのはファルメル大尉でしたな」


 ぽつりと呟かれた言葉に、ザミエルは素早く反応した。


「そうか。ある意味では彼女も悪魔と対峙して生還した者の一人。実力の一端も見ているだろう。有効な対策を思い付くかも知れん」

「はい。折よく、ファルメル大尉の所属する分隊の戦況は良好な模様。竜騎士隊が抜けても十分に維持できるでしょう。彼女を軸にして、対悪魔討伐隊を組むのはいかがかと」

「うむ、よかろう。それでは決を採る。今の意見に賛成の者は挙手を」


 ザミエルの言葉に、列席者全員の手が上がる。


「満場一致だな。よろしい、では詳細な作戦について詰めるとしよう」


 一筋の光明が見えたことで、皆の表情に生気が戻り、積極的な意見が交わされ始めた。














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