第4話

 とはいえ、油断すれば死ぬのでその辺は真剣に。


 とりあえず魔モノに一直線に向かっていく。特に構えは取らず、散歩するような足取りで。

 なめている訳ではないが、臆するほどでもない。それなら時間をかける必要は無し。早々に葬って女性は誰かに保護してもらって、俺はさっさとぶらぶらさせてもらう。


 にたにたした目は嘲るのをやめ、下向きの半円状になった。ジト目というやつだ。向こうもやる気のようで、両の刃の切っ先を俺に向けて放ってきた。


「………」


 俺の両肩辺りを狙ってきた。歩調そのままに刀を振るう。歩調そのままに刃二本まとめて薙ぎ払う。そして構わず歩き続ける。

 魔モノのジト目が少しばかり揺らいだ。格下だと思っていた人間なんぞに己の武器が難なく防がれたからだろう。


 しかし実際驚くのも無理はない。俺と同じ大きさの塊が、片腕で振るっただけの刀で弾かれたのだ。物理的にありえない話だ。

 俺が怪力だとかそんな訳はなく、仕掛けはもちろん八咫烏にある。


 この刀が持つ能力は質量の増加。振るう速度によって質量が変わり、相手に大打撃を与えるというもの。どこまで変化するのかは完全には把握していないが、普通に扱う分には百キロは軽く出せる。

 そして持ち手である俺には変化した質量は架からず、烏の元々の重量である三キロ程しか体には伝わらない。

 つまり単純な話、百キロの物体を三キロの感覚で振り回せるという事だ。相手からしたらとんでもない衝撃力であるのは間違いないだろう。


 バタついた刃を整えてまた攻めてきた。片方は俺の胸を貫こうとし、もう片方は足を切り払いにきた。

 足を狙ってきた刃に対向して烏を振るう。その過程と同時に体勢を真横に沈ませる。回避と防御の同時進行。胸を狙ったモノは通り過ぎ、足を狙ったモノは火花を散らして弾かれる。


 やはり大したことない。対応もちゃんと出来てる。

 お祖母ちゃんのスパルタが役に立っている。辛かったけど、実際こうやって実戦になってみればとてもありがたい。

 もう相手は近い。一気に飛び込んで一太刀を――


『っ、真護うしろだ!』


 一瞬、躊躇ったが振り向く。敵から目を背けるのは自殺行為なのだが、コイツの切羽詰まった声が気になった。

 見れば、胸を貫こうとした刃は俺ではなく、始めから女性を狙っていたらしく。一直線に彼女に向かっていた。


 しくじった……。何かを守りながらの戦闘は初めてであり、また俺自身、女性を守って戦っているという気持ちが無かった。そこまで気が回らず、いつものように相手を倒すことのみを考えていた。

 急ぎ八咫烏を振りかぶり投げつける。回転する刀はなんとか、女性に刃が届く前に打ち払う事ができた。


 ――これが魔モノの筋書きだろう。俺が武器を手放して素手だけになることが。


 振り向く。魔モノは間髪いれずに刃を喉目掛けて突き立ててきた。目がまたニタニタとした気持ち悪いものとなっている。

 八咫烏を離れた所から引き戻す事はできず、体の中に内包するには手で触れるか俺が気絶するしかない。もう一本を使ってもいいが、今の状況では何をしでかすかわからない。――なので徒手空拳に切り替える。


 後ろに下がりながら頭を横にずらす。横幅もある刃に首を絶たれぬよう、拳で打ち上げた。魔モノは目を開いて驚く。


『相変わらず、ひょろひょろのくせに意外と力があるなお前は』


「お祖母ちゃん、スパルタだから……」


 主に身体操作と素手での訓練が大部分だった。幼稚園の頃から続けていると、自然と他の同年代よりは肉体が仕上がってくるものだ。


 さておき、目に向かって走る。

 奴のやり口はわかった。また女性を狙う前に片を付ける。


 魔モノは慌てて刃で対処しようとするがもう遅い。すでに触れられる所まで来た。この距離ならばもう一つの奥具のデメリットもない。

 右手が光りだす。武器の形になるのと合わせて、魔モノを断つように切りつけた。そしてすぐに奥具をしまう。


 目は文字通り一刀両断。苦しんでいるのか怒っているのか、わなわなと震えて俺を睨んでいる。

 やがて諦めたみたいに目は閉じて、刃と同時に、灰が風で飛ばされるかのようにゆっくりと消えていく。

 完全に姿形が無くなると場の空気は元に戻った。現実的なカビ臭さは健在だが、精神的な嫌な感じはしなくなった。


『やれやれ、何とか終わったか。もう少し周りに気を向けれるようにならんとな』


「……ご忠告ありがとう」


 何もしてないくせに偉そうに。でも二度ほど助けられたので何も言えず……。


































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