第4話: 大介「オーダーメイド、たっか……!!(値札)」
──ギャル1号、すなわち茶髪の方の名は、
ギャル2号である
──改めて、ギャル2号、すなわち黒髪の方の名は、
共に整ってはいるが、似ていない。理由は二卵性らしく、双子ではあるけれども、一卵性のようにそっくりではない……とか。
とまあ、そんな感じで自己紹介をされてから二週間後……いつの間にか、彼女はギャル姉妹と一緒に行動するようになっていた。
どうしてそうなったのか……それはひとえに、ギャル姉妹のコミュ力が原因である。
より正確に言うならば、姉の方の茶子だ。
茶子はギャル系の見た目にそぐわぬ凄まじいコミュ強であり、無意識に距離を空けてしまう彼女のプライベートスペースを瞬時に詰めて来た。
また、妹の黒子は空気だったのかと言われたら、そうでもない。
まるで、寄せては引く波のようだ。
押せ押せと詰めて来た茶子に面食らって距離を置けば、黒子が仲裁に入って強張った心を落ち着かせ。
一定の距離を保ったままの黒子に目を向ければ、そんな興味の隙を突く形でグイグイっと入り込んでくる。
これには、さすがの彼女も抵抗出来なかった。
周りの目なんぞ知ったこっちゃねえと言わんばかりにファッションを貫く度胸は、伊達ではないわけか。
そのうえ、無神経というわけでもない。
これまで彼女が応対してきた色々と面倒臭いやつにありがちな距離の詰め方は一つも無く、むしろ、そういった部分に彼女が気付くぐらいには慎重であった。
なんと言えば良いのか、二人ともが、触れてほしくないデリケートな部分を察する能力に長けているのだろう。
おかげで、3週間も経つ頃には彼女の方から二人の姿を探すようになり……気付けば、3人で行動するのが当たり前の感覚になっていて。
正直、中学生時代に色々あって、もうボッチもやむなしと思っていた彼女にとって……束の間になる可能性が高いとはいえ、心優しい相手がクラスに居て良かったと思ったのであった。
──まあ、それはそれとして、だ。
学校生活の出だしで挫けることなくスタート出来たのは万々歳だが、彼女には……そもそもの野望が有る事を忘れてはいないだろうか?
『アタイ、ビッグな女になる』
それは、幼い頃の彼女が立てた誓いである。
ビッグな女とは何を差す事なのかはまだ彼女も決めていないが、とにかくビッグな女になろうと彼女は努力を続けていた。
その努力とは、単純に勉強やら何やらをするわけではない。
無い袖は振れないよろしく、いくら能力が高かろうが、軍資金が無ければその力を十二分に発揮することなど出来はしない。
それに、何も将来を見据えたモノだけが理由ではない。
これは女になってから身に染みていることなのだが、女の身体というのはとにかく美しさを保ち高めようと思ったら際限なく金が掛かる。
保湿剤を始めとした化粧品全般もそうだし、下着類もそうだし、各種サプリメントもそう。
特に、彼女の場合は成長著しいπを健やかな形のまま保持しようとすると、その都度、下着以外にも色々と買い直す必要が出て来るわけだ。
これがまあ、金が掛かる。
彼女のπが一般的な範囲に収まるサイズであったならば苦労はないが、残念なことに、彼女のπは特大サイズ……素人目にも、納められるサイズではない。
そのうえ、大きさだけでなく造形そのものも極上であり、非の打ち所が一つもない。
自分の身体ゆえに凄さを正確に測れない彼女だが、それでも、『あれ、君ってば……もしかして、デカいだけじゃなくて形が超綺麗じゃね?』と思わず二度見するぐらいだ。
それを保とうとするのは当然の考えだろうし、実際、手を抜いて形が崩れたりするのは勿体無いと思っているからこそ、彼女はそういった意味でも資金調達に動いているわけである。
なにせ、気功術によるアシストがあるとはいえ、万能では……いや、まあ、腕を落とされても即座に繋げられるぐらいには……とにかく、万能ではないのだ。
ゆえに、彼女は……姿を変える魔法と、転移魔法に目覚めたその時から、それを利用して様々な方法で資金の調達に動いていた。
場所を選ばず、時を選ばず、手段を選ばず。
契約通りに支払われたならそのままに、踏み倒されそうになったら全能力を駆使して骨の髄まで搾り取る勢いで資産を搾り取り。
彼女の価値基準においてセーフと言える範囲は全て行い……秘密裏に用意した隠し金庫やら魔法的な隠れ家に溜め込んでいた。
けれども、それは今は昔のこと。
実入りはデカいが、リスクもデカい。基本的に、その法則は前世と同じ。
気功的なアレと魔法的なアレと超能力的なアレによって、99.999999%ぐらいの割合でワンサイドゲームをやれているが、絶対ではない。
限りなく0に近いとはいえ、それでも家族に危害が行くかもしれないリスクを何時までも選ぶかと問われたら、そんなわけもない。
彼女の目標は『ビッグな女になる!』ではあるが、だからといって、その為に色々と捨て去ってでも……というわけではないのだ。
あくまでも、幸せになった結果を経てのビッグな女なのだ。
過程と結論が入れ替わってしまうような初歩的なミスを犯す前に、一定まで金銭を貯めた時点でスパッとそういった部分から手を引いた彼女は、実に冷静な女であった。
「ふっふっふ……アタイぐらいにもなれば、これぐらいは朝飯前よ……!!!」
けれども、資金調達から一切合財手を引いたのかといえば、そんなわけもない。
無いと生命に直結するレベルで困るが、下手に露見さえしなければ精神的にも肉体的にも安全と幸福を確保出来る……それが、『マネー』なのだ!
ゆえに、高校1年の春、何時ものように転移魔法と変身魔法にて完全に別人へと成り果てた彼女は、だ。
来るゴールデンウイークを前にして、去年ぐらいから、こっそりと家族にも内緒にしてとある場所に通っていた。
いったい何処へ……答えはまあ、そこまでアンダーグラウンドではない。
『──7番! 1着は7番のポンポコイッキ! 見事なごぼう抜きを見せ付け、春風のように颯爽と馬群を突き抜けた!!』
場内の室内テレビより伝えられた、レース結果を前にして。
「Foo~~!!! きんもちいいぃぃぃ!!!」
彼女は……喜ぶ者、項垂れる者、入り混じる阿鼻叫喚の中で、こっそりとガッツポーズを取っていた。
……そう、聡い人ならもう気付いただろうが、彼女が居る場所は、だ。
現代の鉄火場……すなわち、お国が許した賭け事の一つである、競馬場に居て、ガッチリと競馬を遊んでいた。
そう、そうなのだ。
実は去年ぐらいから、彼女は資金調達の類を全て競馬一本に絞り、それによって得た資金をプールし続けていた。
どうして、競馬なのか……それは単純に、動物が関わるレースの方が結果を読み易いからである。
と、いうのも、だ。
これは気功術の応用なのだが、馬に限らず生物というのは大なり小なり気の流れ……血流のように澱みなく体内を循環しているものである。
そして、その流れがスムーズであればあるほど、基本的には調子が良いというのを、彼女はこれまでの経験則にて学んでいた。
実際、レースが始まる前のパドック(馬のお披露目会場みたいなところ)の時点で、彼女にしか分からない違いが現われていた。
たとえば、先ほどポンポコイッキに競り負けた馬……パドックでは元気に歩いていたが、微妙に気脈の動きが悪く、最後の最後で息切れするだろうなあと思っていたら、案の定。
対して、ポンポコイッキの方は好調だった。
一見する限りでは、ちょっと気が高ぶってしまったのか落ち着きのない様子ではあったが、気脈の流れはスムーズであり、これは最後まで力を尽くせる状態だぞと思えた。
もちろん、レースに絶対はない。
気の流れ的には不調でも、騎手の腕や時の運、馬自身が底力を発揮してしまい、馬券を外してしまうことは何回もある。
(ふっふっふ……〆て、12万4410円の儲けナリ……いやあ、今回も儲けさせてもらいましたぜ……うっひっひっひ)
それでも、総合的にみれば常に黒字を期待出来る競馬は、彼女にとってはうま味タップリな稼ぎ所であり……負けたとしても、それもまた競馬よのと余裕を保てられる場所でもあった。
ちなみに……競馬で得たこの資金だが、一部は両親に渡している。
魔法的なアレで『安心安全かつ健全な方法で稼いでいますよ』っと信じ込ませてはいるが、それだけでは何かの拍子に外れる場合がある。
なので、金銭を渡すことで、『詳細は分からないけど、健全な方法で得たお金が入ってくるわけだし、社会勉強の一環として見逃しましょう』と、アシストするわけだ。
意外な話だが、どんな生き物も自らに利益が与えられているうちは、多少の不自然に対して寛容になる傾向があるわけで……まあ、そういうことなのであった。
……。
……。
…………で、だ。
そうして軍資金を手に入れた翌日、彼女は……ノックと同時に扉を開けると、ビクッと肩を震わせた弟の大介へと声を掛けた。
「大介、出かけるぞ!」
「姉さん! 頼むから俺が返事をする前に開けるのは止めてくれよ!」
当然ながら、大介はちょっと怒った。
そりゃあ、いくら家族とはいえ、プライベートな空間に許可なくいきなり入って来られたら誰だって嫌だろう。
「ははは、すまん! 昼飯も奢るし交通費も全部出すから、入った事は許せ!」
けれども、弟の事を可愛がっている彼女にとっては、そんな怒りも弟からのスキンシップに変換される。
ある意味盲目的というか、ブラコンというべきか、ただのバカというべきか……判断に迷うところだが、とにかく怒られても全く堪えてなかった。
「……はあ、それで、日曜の朝からなに……買い物? なんで俺を?」
「そりゃあ、荷物持ちして欲しいから。色々と持って動き回るのダルイじゃん」
「郵送してもらえばいいだろ」
「嫌だよ、郵送代が掛かるじゃん。それに、明日から必要になるから、今日中に買いに行かないとダメなの」
「ええ……俺だって暇じゃないんだけど?」
「お願い、1人で買いに行くのなんか嫌なの……ね、お昼だけじゃなく、オヤツも買ってあげるから」
「いや、オヤツは……はあ、分かったよ。荷物持ちはするけど、何件も思い付きでハシゴするのは止めてくれよな」
「あ、それは大丈夫、もう買う物だいたい決まっているから」
「本当かよ……」
そして、それは弟も分かっていたので、それ以上は強く言えなかった。
だって、何だかんだ言いつつも大介にとって姉の麻弥は『優しくて小さい頃はよく面倒を見てくれたお姉ちゃん』であるからだ。
それに、姉が……姉が居る同級生やら友人やらから愚痴を聞かされることがあるからこそ知っているが、己の姉がいわゆるSSR的な存在であるのも理由の一つである。
伝え聞く、他の家の姉たち(つまり、友人たちの姉)のように、理不尽な命令はもちろん、理不尽に責任を姉(麻弥)から押し付けられたりもしない。
邪険に扱って来ることはないし、小学生の頃に同級生との喧嘩が大事になった時には、怒鳴り込んできた相手の親に誰よりも食ってかかったのも記憶に新しい。
なので、多少なり無神経な対応をされても、まあまあと苦笑して受け流せるぐらいには……が、しかし。
「──そういえば、何を買いに行くの? 荷物持ちってことは、けっこう色々買うわけでしょ?」
一旦別れ、着替え等の準備を済ませた後。
麻弥と大介は、並んで家を出た。行き先はもう、聞いている。だが、色々買うという大雑把な目的しか聞いていなかったことに大介は気付く。
というのも、これから向かうのは、電車を使う必要がある、都心の方にある大型複合施設だ。
様々なテナントが入っており、その中には専門店も多い。大介も何度か行った事はあるが……正直、用も無ければ行く場所ではない。
だって、近場にも様々なモノを取り扱っている店は幾つかある。言い換えれば、わざわざそっちに向かうということは……ここらでは手に入らないモノを買うというわけで。
「明日から必要になるってことは、学校で使うの? それとも、ゴールデンウイークに合わせるやつ?」
「明日からずっと使うやつだ。本命は取り寄せてあるからすぐだけど、他のはこの目で品定めしたいのだよ」
「うげぇ……まさか、服を買うとかじゃないよね? あんまり時間が掛かるようなら、適当な場所で時間潰すよ」
「ん~、そこまで掛からんから大丈夫、せいぜい店員にサイズ合わせで見てもらうぐらいだから」
「ふ~ん、ジーンズとか買うの?」
特に思うところもなく、大介は率直に買い物内容を姉に尋ねたわけなのだが。
「いや、下着。ちょっとこれまで使っていたスポブラがぼろっちくなってきていたから、オーダーメイドで取り寄せたんだ。ついでに普段用の色々良さそうなやつがあったら買っておこうと思って」
まさか、下着の買い出しだとは……さすがの弟でも、想像すらしていなかった。
「あの、姉さん? オレ、男なんだけど?」
今さら引き返すわけにもいかず、とはいえ、一言ぐらいは言っておかねば……そんな気持ちで投げかけた言葉であったのだ。
「……? 知っているけど?」
悲しいことに、姉である麻弥には全く通じず、不思議そうに首を傾げられるだけで終わった。
そう、悲しいことに、彼女自身もまた気付いていなかった。
いくら男だった前世の記憶があるとはいえ、そもそも、女でも生理の程度に違いがあるように、男だって違いはある。
そう、悲しいことに、男だった前世の記憶があるからこそ、彼女は余計に気付けなかったのだ。
前世では、多感な時期でも比較的淡泊な性質だったからこその弊害……風が吹いただけでも反応してしまうような時期がある男子がいることに。
(本当に、姉さんには悪気が無いことは分かっているんだけど……分かってはいるんだけど……けどねぇ、姉さん……!!!)
独り、内心にて、表現し難い気恥ずかしさを堪えている思春期の男子が傍に居る事に……彼女は、全く気付けていなかった。
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