第10話 また事件
リヴァイス様が早く戻って来てくれるといいなぁと思っていたけど、取り調べに時間がかかっているのか、なかなか戻って来なかった。
気持ちが良いほど晴れていた空は、すっかり夜を迎えて真っ暗に。
リヴァイス様とは昼前以来お会いしていない。
シュレムが他の騎士に状況を確認しに行ってくれたんだけど、どうやら取調中に何か大きな事件が判明したみたいだ。
だから、時間が掛っているって。
私は夕食を一人で食べて、また部屋に戻ってリヴァイス様を待っている。
今日はもう会えないのかな? と、弱気になっていた。
「結構長いですよね。こんなに時間がかかるとは思ってもみませんでした」
あまりの長さにミリアも眉を下げて困惑した顔を浮かべている。
その隣でシュレムが深刻そうな表情で重い口を開いた。
「きっと陛下のことですから顔を出さないということはないと思います。遅くなっても一度はこちらにいらっしゃるかと……」
「待つしかないわよね」
初日はこんな感じだったけど、これからはお側にいられるからリヴァイス様と過ごせる時間も多いはず!
今までは離れて暮らしていたけど、これからは一緒にいられる。
ゆっくりリヴァイス様と距離を縮めていけばいい。
「あっ、そういえば! 姫様」
「ん?」
ミリアに呼ばれて私は意識と顔を彼女の方へ向けた。
「挙式って半年後って聞きました。ちょうどブルーフラワーの季節ですね」
「ブルーフラワー?」
「この国ではブルーフラワーっていう花が咲く時期なんです。名前の通り青い花なんですよ。ブルーフラワーには幸せな結婚に関する伝説があって、その影響を受け結婚する人が多いんです」
シュレムが説明してくれた。
「伝説?」
私は首を傾げてシュレムを見る。
「はい。とある村娘と王子様が恋に落ちたんですけど、身分差で引き裂かれてしまったんです。でも、王子様は彼女のことを諦めずに周りを説得し、ブルーフラワーで作った花冠を彼女の頭上に乗せプロポーズし、二人はその後末永く幸せに暮らしましたって話です」
「へー、そんな逸話があるのね。素敵」
「俺の幼馴染みもブルーフラワーの時期に挙式予定なんです。同じ村出身のファルって男なんですが、木竜騎士団に所属していて村一番の出世頭です」
「木竜騎士団ですかっ!?」
裏返ったミリアの声に、私はびっくりして目を大きく見開いた。
そんなに驚く騎士団ってことは、もしかして有名な騎士団なのだろうか。
ノーザンに来てまだ日が浅いため、あまり詳しくないからわからない。
「有名なの?」
「もちろんですよ! この国で知らない者はいないってくらい王宮騎士団の中でもエリート騎士団です。しかも、イケメンばかりが多く、女性に大人気なんですよ。ただ、よくない噂もありますけど」
「噂?」
「はい。遊び人もいるって話です。女性の方が真剣交際だったのに、男性の方は違ったらしく、トラブルもあったって聞きました」
「たしかにそんな話を聞くけど、ファルは違います。花嫁になる女性も同じ村だから俺も知っていますが、ファルはずっと昔からその女性一筋です。騎士団に入った時も村に残してきた彼女のために早く出世したいって言っていました。プロポーズのために花言葉を調べていたら詳しくなったって惚気られましたし。会ったらほとんど彼女の話ですよ」
シュレムが苦笑いを浮かべた時だった。
部屋をノックする音が聞こえてきたのは。
(もしかして、リヴァイス様!?)
私は弾む心を抑えながら、「どうぞ」と返事をして中に促せば、扉がゆっくりと開きリヴァイス様の姿が。
彼は申し訳なさそうに眉を下げている。
すぐに足を室内に踏み入れ、真っ直ぐ私の方へ来てくれた。
「すまない、椿。遅くなってしまった」
「いえ、お仕事ですので。ロンペル様は?」
「その件なんだが、ロンペルは桜乃国とノーザン国の間でまた再び戦にしようとしていたんだ。そのために桜乃国との縁談が邪魔だったから、椿を殺そうとしたらしい。ロンペルが所有している屋敷の一つを調べたら、そこで武器の密造を行っていた」
「武器売買で稼ぐつもりだったんですね」
「おそらく」
リヴァイス様が深いため息をつくと、椅子に座った。
お父様の言っていた毒殺の情報はこの件だったのかしら?
それとも他の人?
私の輿入れをよく思っていない人もいるから、別件だった可能性もある。
「陛下。事件のことはひとまず解決のようなので置いておいて、姫様とゆっくりお話をしましょう。姫様、ずっとお一人だったんですよ? 姫様はノーザンに来てまだ初日ですのでいろいろ心細いでしょうし」
「私の事でしたら後にしても大丈夫です。リヴァイス様はまだ夕食を摂ってないのでは?」
「まだだが、椿との時間の方が大事だ。ずっと一人にさせてしまっていたし。ミリア。何か軽食を持って来てくれるか? ここで食べる」
「かしこまりました!」
ミリアが深々と頭を下げた時だった。
部屋をドンドンと強く叩く音が聞こえてきたのは。
あまりにも相手が強く扉を叩いているせいで、重厚な扉が外れそうなくらいだ。
雷のように音もかなり大きく、ミリアにいたっては顔をこわばらせている。
(なにごと? まさか、また私を狙って……?)
そう思ったのは私だけじゃなかったらしい。
リヴァイス様とシュレムは一瞬で警戒モードになり、腰元にある剣へと手をかけた。
「陛下は姫様のことを」
シュレムがそう言いかけると、扉越しに「陛下、桜乃国の姫とおくつろぎのところ申し訳ありません。木竜騎士団副団長のナーゼです」という女性の声が届く。
(一国の副騎士団長がわざわざ来るなんて。しかも、あの様子。絶対にただごとじゃないわ)
声を聞き、シュレムが扉の前に駆け寄ると扉を開けた。
すると、なだれ込むように騎士服に身を包んだ女性が現れたんだけど、彼女は青ざめた顔をしていて何かトラブルがあったんだとすぐにわかる。
「何があった?」
「うちの団員・ファルが何者かに毒を盛られました。つきまして、桜乃国の毒姫様に解毒剤を作っていただきたく参りました」
ファルってたしか、結婚が決まったシュレムの幼馴染みだったはず。
私がシュレムの方を見れば、血の気が引き土色になっている。
それもそうだ。自分と親しい者が毒を盛られたのだから。
「今、どこにいるの?」
「騎士の宿舎の医務室にいます。姫様、お願いします。あいつを助けて下さい。結婚が決まったばかりなんです。先週、あいつの村から婚約者が挨拶に来てくれて……何かあれば婚約者の方に申し訳ないです」
「わかりました。行きます」
私はそう言うと立ち上がった。
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