第9話 部屋
リヴァイス様と別れた後。
私はミリアとシュレムに案内され、王妃の間に案内されていた。
本当にここ一人の部屋? リヴァイス様の部屋が別にあるって本当? ってくらいに広々。
部屋の奥には天蓋付きのベッド、その近くには細かい細工が施されたドレッサーがあるし、窓際にはソファとテーブルが設置。
壁は一面本棚になっていて、古今東西の植物学や薬学の本が収納されていた。
もしかしたら、リヴァイス様が用意してくれたのかもしれない。
元々、仕事場でもある薬草棟で暮らしていたんだけど、そこは本や資料に囲まれていたので寝られればいいかな? ってレベルだった。
なので、部屋のレベルが一気にアップしている。
「広いわね……なんか、広すぎて落ち着かないわ」
私はソファに座りながら、辺りを見回した。
「わかります。私もメイドの部屋は二人部屋ですし、実家では妹達と一緒で四人部屋でしたから。なんか、ある程度狭くないと落ち着かない体になっているんですよね」
ミリアがお茶の準備をしてくれながら、苦笑いを浮かべる。
「あっ、そうだわ。一応自己紹介をしておくわね。私、桜乃国の第三王女・椿っていうの。よろしくね。桜乃国では植物学者と薬師だったの」
私はミリアとシュレムに向かって自己紹介をすれば、シュレムもミリアも姿勢を正して「よろしくお願いします。」と言った。
「では、今度は俺が自己紹介をさせていただきます」
私のそばにいたシュレムが口を開く。
「ふとしたご縁で今回姫様の護衛を陛下に承りました。シュレムと申します。騎士としては今年で五年目になります。陛下の命を受けたからには、姫様のことを誠心誠意お守りいたします。よろしくお願いします」
「よろしくね」
ふとしたご縁というか、たぶんお茶会で突っ込んだからなのかもしれない。
ミリアも一緒だし。
「次は私の番ですね!」
お茶の準備を終えたミリアが笑みを浮かべながら、こちらを向いた。
「ミリアといいます。メイド歴は今年で3年目になりました。姫様が過ごしやすいように精一杯お手伝い出来ればと思います。よろしくお願いします」
ミリアが深々と頭を下げたので、私も「よろしくね」と言う。
「さぁ、どうぞ姫様。お茶の準備ができました」
「ありがとう」
私はお礼を言うと、席に座った。
ティーカップを手に取り、香りを楽しむ。
鼻孔をくすぐる紅茶の深い香りに、凝りまくった肩の力が抜けていきそう。
「あっ、そうそう。ねぇ、二人とも。リヴァイス様が戻るまでリヴァイス様について教えてくれないかしら?」
「陛下についてですか?」
二人は目を大きく見開き首を傾げる。
「えぇ。私、あまり存じ上げなくて……」
「そうですよね。よくわからない相手との婚姻は不安ですよね。陛下は私のような下々のような者達にまでよくして下さいます。前国王陛下達もそうでしたけど」
「俺達に対してもですね。とてもお優しいです。あまり悪く言う者はいないと思います」
「やっぱりそんなに優しいとモテるわよね? 夜会とかどんな感じだった?」
「「……」」
二人が黙ったってことはモテたんだろう。
早く来て良かったって思った。
(そりゃあ、そうよね。リヴァイス様だもの!)
「陛下が大切に思っているのは姫様だけだと思いますよ! 陛下が姫様を選んだっておっしゃっていましたし」
「俺もそう思います。お茶会でも姫様のことを大事に思っているようでした。ですから、毒だとわかっているなら食べたり飲んだりするのを辞めて下さい。陛下じゃなくても心配になりますよ。俺ら、あの場で黙っているのが正解だったのに、つい突っ込んでしまいましたし」
「でも、毒慣れているのよね」
「そのパワーワード言えるのって毒姫様だからですよ。普通の人間は慣れません。本当に効かないんですか」
「効かないの。師匠曰く、毒の神様の加護受けているように、毒が効きにくい体質なんだって。普通なら考えられないって言われたわ」
「加護っていうか、呪いでは?……まぁ、でもすごいですね。毒姫って」
「他の毒姫達には気をつけてね。他の毒姫達は頭のネジが外れている人達だから。出会ったら即逃げなさい」
「噂レベルなら聞いています。囚人使って毒の研究をしたりしている人もいるんですよね?」
「えぇ」
私は静かに頷いた。
毒姫は畏怖されるのはそこだ。
毒に関する知識や能力が優れている上に、他人に対しても平気でその能力や知識を使用するところ。
普通なら躊躇することを彼女達はしない。
「姫様も頭のネジが外れた毒姫四人のうちの一人なんですね」
ミリアの言葉を聞き、私は紅茶を吹き出しそうになった。
どこをどう見たら他の毒姫と同じになるのだろうか。
「ちょっと待って! 私は彼女達と違うわ。普通だもの」
姿を見たら全力で逃げなきゃいけない人達とは違う。
あっちは狂人。私は常人だ。
「いえ、全然普通じゃないです。普通の人は自分の体に毒を入れないですって」
「あれは仕方ないわ。だって、犯人を特定するには一番手っ取り早いもの。私、ロンペル様のリアクションが無ければ、毒殺の犯人をブロンセ公爵様だと思ったくらいだし」
「俺も真っ先に疑いました」
「私もです」
二人は頷くと黙ってしまう。
きっと心の中でブロンセ公爵に謝っているのかもしれない。
私も疑っちゃったし。
「でも、どうしてロンペル様なのかしら? あの中で一番無害そうな人なのに」
「さぁ……今、殿下が調べているのできっと判明するかと。姫様も災難ですね。初日から」
「自分でも思うけど、本当にそう思うわ。どうして初日から? って。リヴァイス様にお伺いしたいことがあるから、早く二人きりになりたいのに」
「陛下に伺いたいことですか?」
「えぇ。私、陛下に子供の頃にお会いしたことがあるの。その事を覚えているかな? って」
「そうなんですか!? もしかして陛下はその頃の姫様に恋をして一途に!?」
「えっ!」
ミリアの言葉に私は頬が赤くなったので、両手でおさえた。
「そうだといいなぁって思う。その……私もあの頃からリヴァイス様をお慕いしていたから……」
「きっと陛下はすぐに戻って来ますよ! 来たら聞いてみましょう」
「そうね」
私は微笑みながら、リヴァイス様が早く戻って来てくれるように願った。
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