第8話 頼むから、今後は絶対にやめてくれ……

「おい、ロンペル。どうした!?」

 リヴァイス様が立ち上がりかけたので、私は手で制した。


「私、一口目で紅茶の味がおかしいことに気づきました。ですので、誰が犯人か探すために紅茶を全部飲み干したんです。ほとんどの貴族がなんて下品なという表情をしているのに、ロンペル様は違いました。ほんのわずかばかりですが口角が上がっていましたわ。それさえなければ、私は貴方が犯人だって気づかなかったでしょう」

 みんな、頭が追いついていないらしく、ただ呆然とロンペル様を見つめているだけ。

 ただ一人。壁際で体を大きく震わせているメイド以外は。


 顔が真っ青通り越して土色で今にも倒れそうだ。

 主犯はロンペル様でお茶に毒を入れたのは、あのメイドだろう。


 リヴァイス様も気づいたらしく、「そのメイドを拘束しろ」と騎士達に命令を出した。


「お願い! ロンペル様みたいに殺さないで! 私、家族を人質に取られて逆らえなかったの!」

「安心して。ただの眠り薬よ。窓開けた時に室内に流したの。空気の流れを読んでいるから、他の人には害はないわ」

 メイドが安堵の表情を浮かべて涙を流した。

 彼女は両腕を掴まれ大人しく騎士達に連れて行かれていく。


 それを見届けながら、私はお父様になんて報告しようって考えていた。

 まさか、初日で毒殺されかけました。

 ……なんて報告しようものなら、お父様卒倒しそうだし。


「貴様! なんて真似をしてくれたんだ。我が国に対する冒涜だ!」

「ん?」

 突然聞こえた怒号を聞き、私はそちらに顔を向けた。

 すると、眠り薬によって眠っているロンペル様の傍で怒鳴り散らしているブロンセ公爵の姿がある。

 彼は床に倒れて夢の世界にいるロンペル様を踏もうと足を上げているのを周りの貴族や騎士達によって止められていた。


(意外だわ。あの人が怒るなんて)


「椿」

 リヴァイス様に名前を呼ばれて振り返れば、体を大きな何かに包まれてしまう。

 体全体に感じるぬくもりがリヴァイス様のものだってわかった時、私は顔から火が出そうになった。

 ぎゅっと抱きしめられ、全身から汗が噴き出しそうになる。


「リ、リヴァイス様っ!?」

「頼むから、今後は絶対にやめてくれ……」

 祈るようなリヴァイス様の言葉に胸が締め付けられる。

 毒なんてたいしたことないんだけど、リヴァイス様にこんなに心配かけるなら辞めよう。


「以後、気をつけます。本当に申し訳ありません」

「頼むよ。やっと会えたんだから」

「やっと……? そういえば、リヴァイス様。私のことを指名して縁談を桜乃国に申し出て下さったんですよね。もしかして、私のことを覚えて――」

 私が尋ねかければ、私の声に重なるように「陛下。そろそろ取り調べを……」と騎士が声をかけてきた。

 そのため、私はリヴァイス様に聞くことは出来なかった。


「わかった」

 リヴァイス様はゆっくり私から体を離すと、「シュレム。それからミリア」と名を呼ぶと、二人の男女がやって来た。

 お茶会の時の赤毛の三つ編みのメイドと灰色の短髪の騎士だ。

 二人はリヴァイス様の傍に来ると、最大級の礼をとる。


「俺が戻るまで椿のことを頼む。彼女を王妃の間に」

「かしこまりました」

「椿、すまない。これから取り調べに行ってくる。必ず椿を狙った理由を突き止め、君が不安なく過ごせるように取り計らうから」

「お待ちしております」

 私がリヴァイス様に微笑めば、彼は騎士達と共に部屋を出た。




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