第5話 二人きりでお茶会だと思ったのに!

 「長旅で疲れただろう。紅茶とリンゴのタルトを用意しているんだ」

「リンゴのタルトですか!? 私、大好きです」

 以前ノーザンに滞在していた頃に食べて以来、リンゴのタルトが好きになった。

 ノーザンのリンゴの品種なのか、はたまた作り方なのか、ノーザン城のリンゴタルトが一番美味しいって思う。


 長旅で疲れた体に甘いものって最適。

 でも、リンゴのタルトも気になるけど、その前に前提として知っておきたいことが一つだけある。


「あの……リヴァイス様と二人きりでしょうか?」

「誰かいた方がいいか?」

「いいえ、リヴァイス様といろいろお話もしてみたいです。積もる話もありますし」

 不安そうに瞳を揺らしたリヴァイス様に私は首を勢いよく左右に振る。


 二人きりになりたくないなんて思うわけがない。

 むしろ、二人きりになりたい。

 リヴァイス様と二人きりでお茶会。初日から嬉しいに決まっている!






 リヴァイス様と二人きりでお茶会だ! って浮き足立つ私だったけど、その心を打ち砕かれる出来事が起こってしまう。


 侍女に案内されてお茶会が行われる部屋に通されたんだけど、私とリヴァイス様は目の前に広がる光景に呆然と立ち尽くしていた。


「「え」」

 二人で消え入りそうな声を上げるのも無理もない。

 だって、部屋には明らかに偉い貴族です! って人達が座っていたんだから……


 二十人くらいだろうか?

 重厚な長方形のテーブルにお父様達くらいの年齢の人達が座り、みんな突き刺すような視線で私のことを見ている。


(これはあれだ。完全に敵地だわ)


 お父様から暗殺の可能性が高いって聞いていたから、私の事をよく思っていない人もいるのは頭の中にあった。

 でも、まさかこんなにいるとは。


 全員大人。なので、普段はある程度態度に出さないようにしている。

 ……はずなんだけど、それを隠す必要のない相手だと思われているんだろう。


 私は気を取り直して、笑みを浮かべて唇を開く。


「はじめまして。私、桜乃国の第三王女・椿と申します。桜乃国では王宮薬師と植物学者をしていました。ふつつか者ですが今日からよろしくお願いします」

初対面の印象大事! と思いながら挨拶したんだけど、なぜか静寂が包んだ。


「……」

 誰一人立つことも話すこともしない。

 完全に無視だ。


「なぜ、椿の事を無視している? そもそも、どうしてここにいるんだ」

 リヴァイス様は貴族達の視線から隠すように私の前に立つと、怒りを含んだ声で言う。

 もしかして、守って下さっているのだろうか。相変わらずお優しい。

 こんな状況だというのに、胸がときめいてしまった。


「陛下」

 私がリヴァイス様の大きな背中を見つめていると、誰かが叫ぶように言った。


(誰かしら……?)


 そっとリヴァイス様の背中から覗くようにテーブルの方を見れば、一人貴族が立ち上がっていた。


 風が吹いても乱れることはないというくらいに灰色の髪を綺麗に撫でつけ、ほんの少しのズレも許さないというようにきっちりと上質な衣服を身に纏っている男性だ。

 歳は四十後半から五十前半くらいだろうか。


 その人は一歩前に出ると口を開いた。


「陛下。私達は反対したはずです」





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