第4話 いざ、ノーザン国へ

 とんとん拍子にノーザンへの輿入れが決まり、私は三ヶ月後にはノーザン国の王都にいた。

 現在、馬車でノーザン城に向かっている。


 自分でも思うけど、縁談が決まってから行動が早かった。

 本当ならば、私がノーザンに居住を移すのは半年後の挙式近くになってから。

 でも、待てない。待てるわけがない。


 一刻も早くリヴァイス様にお会いしたかったので少し早めてもらったのだ。

 ノーザン国もそれを受け入れてくれたので、こうして引っ越すことができた。


(初恋の相手に会えるなんて夢みたいだもの。会える事を諦めていたし)


 私は王宮薬師と王宮植物学者としての二つの仕事を持っているから、いきなり引っ越します! なんてことは出来ない。

 もちろん、ちゃんと仕事の引き継ぎは済ませてある。


 しかし、遠いのはわかっていたけど時間がかかった。

 桜乃国を出国して3週間くらいだろうか?

「ちょっと里帰りしてくる!」って距離ではないのがちょっと寂しいけど、リヴァイス様と一緒にいられるからきっと寂しさも薄らいでいくはず。


 馬車に揺られて窓から王都の景色を眺めているんだけど、ふと師匠のことが胸に過ぎる。

 きっとあの頃と違って、町もすっかり変わったせいかも。


 師匠と泊まった通り沿いにある宿は本屋になっているし、砂利で歩きにくかった道路も綺麗に舗装されている。

 町も人々も活気に溢れていて月日の流れを強く感じた。


「……師匠、元気かな? そのうち、師匠と会えるといいな」

 私はそうぽつりと呟いた。


 独り立ちしてからは、師匠とは手紙のやりとりだけ。

 しかも、師匠は相変わらず諸外国を旅しているから、私からの手紙は出せない。


(師匠との旅は厳しかったけど、楽しかったなぁ。たまに野宿したり、しばらく森で生活したり……きっと王宮にいたらできなかっ体験だった)


 私の根底にあるのは師匠との思い出だ。


 ちょっとだけ感傷的になったので、私は景色を見るのをやめてそっと目を閉じる。

 きっと師匠は私に心配されるまでもなく元気だと思うけど、どうか怪我もなく無事でいて欲しい――






 やがて馬車が停車したので、私はゆっくりと目を開けた。


(着いたみたいね……ということは、念願叶ってリヴァイス様とお会いできるわ!)


 髪の乱れなどをさっと手ぐしで直すと、私は背筋を伸ばして深呼吸をする。

 最後に会ってから十年。これが緊張しないでいられるわけがない。

 初恋の相手と会える喜びも大切だけど、私は桜乃国を代表して来ている。

 だから、国の汚点にならないように対応しなくては。


 馬車をゆっくりと降りれば、そこには軍服姿の精悍な顔立ちをした青年が立っていた。

 その傍には侍女達の姿も。


 私はすぐにわかった。彼がリヴァイス様だって。


(リヴァイス様。大人になられたわ)


 金糸を溶かしたような髪は耳が隠れないくらいの長さで切りそろえられている。

 こちらを見ている澄んだ瞳は、あの頃のまま綺麗な空色だ。

 私を見てふわりと微笑んだのを見て、あの頃と変わらない陛下の面影を感じた。


(身長も高くなっているし、筋肉質になっている! 素敵! 私の事を覚えていますか? って、今すぐ聞きたい!)


 心の声がダダ漏れになるのを押さえ、私はゆっくりと最大級の礼を取った。


「お出迎え感謝いたします、リヴァイス様」

「遠路はるばるよく来てくれた。椿」

 当然と言えば当然だけど、リヴァイス様が動いてしゃべればその一挙一動が私の心を震わせる。

 顔がにやけるのを堪えるので精一杯だ。


「もしかして、侍女も護衛もつけずに一人で来たのか?」

リヴァイス様が辺りを見回しながら尋ねてきたので、私は頷く。


 一人って言っても、桜乃国まではノーザン国から迎えが来てくれたから道中困ることはない。

 そもそも、私は薬師として仕事をしていたから一人で生活をしていたし。


「えぇ、一人です。お父様達がいま侍女などを選んでいる最中です」

「そうか……急だったもんな。こちらで侍女などを付けよう。気に入った者達がいたら教えて欲しい」

「ありがとうございます」

 私は微笑みながらリヴァイス様にお礼を言った。


 まぁ、実のところ、急だったからではない。

 暗殺情報があったから、身動きとれやすい一人で来たのが正解だ。

 私一人なら、いざという時に逃走しやすいし戦いやすいだろうって。


(まぁ、さすがに相手も初日から仕掛けて来ないでしょ。リヴァイス様が私の事を覚えているか聞きたいし、リヴァイス様とゆっくりお話がしたいわ)




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