第3話 初恋の人
私は物心ついた頃から、王族でいるのが苦しかった。
なんでも出来る賢い次期国王の兄、大人顔負けの楽器の演奏力を持つ姉、美しい姫として名を馳せた妹。
彼らと違って私には何もない。
だから、自分の傍らで彼らが褒められるたびに体が冷えていった。
まるでお前には何もないんだよって言われているみたいで辛かった。
お父様もお母様も執務に忙しくてあまり会えなかったから、誰にも心を吐露することも甘えることも出来なかった。
自分だけ褒められない環境は、私に簡単に劣等感を植えつけた。
王宮にいるのが辛くて仕方がなかった頃。
私は師匠と呼べる一人の女性に出会うことが出来た。
その人は、西大陸にあるルフ国出身の薬師・マーガレット。
新薬発見のために植物を探すために世界中を旅していた彼女は、桜乃国での滞在の際にお父様に謁見を申し出たんだけど、その時に出会った。
楽しそうに植物の話だったり、諸外国の話をする姿。
そんな師匠に私は強い憧れを持った。
私も自由に諸外国を旅したいって。
今にして思えば、優秀な兄達と比べられる王宮から逃げたかっただけなのかもしれない。
私は色々あり、師匠と共に旅に出ることになった。
この時はまだ薬師にも植物にも興味がなく、師匠と一緒に過ごしてなんとなく薬草について知っている程度だった。
私が薬師になりたいって思ったきっかけは、師匠と旅をして半年くらい経った頃だったかな?
ノーザン国に行った時に、当時王太子殿下だったリヴァイス様に会ったことがきっかけ。
当時リヴァイス様は毒を盛られ、瀕死の重傷を負っていた。
複数の毒を長期間使われたせいで解毒は複雑。
ゆえに、王宮の医師や薬師達が治療を施したけどなかなか回復しなかった。
そのため、師匠がノーザンにいると風の便りに聞いた王宮の者達から「毒殺されかかった殿下を助けて欲しい」って懇願され城へ。
苦しむリヴァイス様を見た時の衝撃は私の人生を変えた。
自分と同じ歳の子供が毒で苦しんでいること。
大人が子供を毒殺しようとしていること。
苦しんでいる人がいるのに自分は何も出来ない無力な人間だということ。
師匠はすぐにリヴァイス様が盛られた毒を分析し、解毒剤を作った。
私が初めて薬師という職業を意識したのはこの頃かもしれない。
体を蝕んでいる毒と戦うリヴァイス様とそれを助けようと奮闘している師匠。
そんな二人を目の前にして何もせずにはいられず、私も師匠のサポートをしたり、リヴァイス様の汗を拭いたりお手伝いをした。
時間はかかったけど、無事解毒にも成功した。
師匠の治療のお陰で少しずつリヴァイス様も回復し、話ができるようになった。
リヴァイス様は私に「ありがとう」って言ってくれたんだけど、そのひと言がとても嬉しかった。
とても強く胸に染みて泣き出してしまうくらいに。
急に泣き出した私をリヴァイス様はただ静かに頭を撫でてくれたんだけど、それが優しくてますます泣いてしまった。
(あの時、私はリヴァイス様に恋をしたんだよね)
私は師匠みたいに彼を助けることは出来ない。
兄達のように頭も良くない。
でも、無価値だと思っていた自分でも誰かの役にたつんだって知ったんだ。
それをリヴァイス様が教えてくれた。
そのときに決心した。
師匠のように毒に苦しむ人々を治療できる薬師になろうって――
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