第2話 毒姫
毒姫。この世界には四人の毒姫がいる。
彼女達は毒の知識が豊富で毒を自由に操るので、人々は彼女達のことを畏怖して毒姫と呼ぶ。
私もその中の一人。
『桜乃国の第三王女は毒に愛され、全ての毒を無毒化できる解毒剤を作れる』
そう言われている。
(民も家族も毒姫ってあだ名のように気さくに呼ぶからそんなに希少価値がある呼称には思っていないけどね)
ただ、私にはもう一つ知られていない能力がある。
それは家族しか知らない――
「椿が毒姫として知られているのは、桜乃国の第三王女は毒に愛され、全ての毒を無毒化できる解毒剤を作れるということ。他の奴らは知らない。椿には『もう一つの能力』があることを」
「えぇ。その能力なら少なくても暗殺が毒殺なら死にません。それに、私は毒や薬に関する知識があるから戦えますので適任です。ですが、私はどこに嫁げばよろしいのですか?」
「さっきも言ったが、ノーザンだ」
「いえ、相手ですわ」
私がそう言えば、お父様が眉を顰める。
「ノーザンの若き王に決まっているだろう」
「王ってリヴァイス様ですかっ!?」
裏返った声で執務机に身を乗り出した娘を見て、お父様は固まってしまった。
今まで淡々と話を受け入れていたのに、いきなりテンションが高くなったからびっくりしたんだと思う。
(王族として生まれたから政略結婚は覚悟していたけど、まさか相手がリヴァイス様なら話は別。すごく嬉しい! だって初恋の人だもの!)
縁談相手が初恋の人なんて予想外。
私は今、薬師と植物学者の両方の顔を持っているんだけど、彼は初恋の人であると同時に私が薬師になるきっかけとなった人でもある。
「え、なんで急にテンション高くなっているんだ……びっくりして心臓がひゅんってなったぞ……しかし、久しぶりに見たな。お前がテンション高くなるのを」
「今すぐにでも嫁ぎますわ!」
「い、いいのか? 死ぬ可能性もあるんだぞ!?」
「えぇ、勿論ですわ。実はリヴァイス様は私の初恋の方なんです」
私は熱くなっていく頬に手を添えながら言う。
「椿って人を愛したことがあったのか……」
「え、私のことをなんだと思っていたんですか? 私だって初恋の相手いますよ」
「そうだよな。いつも薬草棟に閉じこもって研究ばかりしていたから人間に興味がないと思っていた。毒が恋人かなと」
「毒が恋人って……」
「いつノーザンの王にあったんだ?」
「幼き頃ですわ。全てが嫌になった私が王宮を出た時のことを覚えていますか?」
私の台詞を聞き、お父様は目を伏せると小さく頷いた。
ぎゅっと手を握りしめ苦しさを押し殺している。
きっとあの頃の事を思い出しているのだろう。
お父様が気にすることなんてないのに。
あれは、私が自分の意思で王宮を出たのだから――
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