第11話 オーク襲来
「アーク、ちょっとこっちへ来な」
ジルは、アークを呼ぶと身構えた
「どうしたんだ、ジル」
「抜きな、少しもんでやるよ。さっきは、後手を踏んでいたからねぇ」
「もうすぐオークが来る。今からなのか?」
ジルは、返事をしなかった
アークは、ジルが本気なのを悟って、剣を抜いた
しかし、アークの中でなぜ今なのか?という疑問は消えない
「もうすぐオークが来る。だから本気で来な」
ジルは、アークの疑問を消すように言った
アークは斬りかかるが、ジルは、居合のような技を使わずに刀を抜いて、楽々とアークの剣を受け止めた
「どうした?この程度の剣しか振れないかい?」
アークはジルを蹴り倒そうと足を出そうとしたが、ジルはそれを見越していたのか、アークの片足を先に蹴り込んでいた
アークは、無様に仰向けに倒れ込んだ
ジルは、仰向けに倒れたアークから悠然と歩いて距離を取り、刀を構えた
「もう終わりかい?」
アークは、立ち上がると剣を構え直した
「まだだ」
「そうだよ。その調子だ」
ジルのその言葉を合図にしてアークは、剣を振った
ジルは、そのまま剣を受け流し、アークを自身の左側へとやった
そしてそのまま、クルリと身を翻してアークの方へと体を向ける
まるでダンスでも踊っているかのような軽やかな動きだった
目の前からジルが消え、自分の剣が軽く受け流されたのが分かったアークは、すぐに振り返って剣を構え直した
「まだだ」
そう言うと、アークは剣を右に引いた
「やめな、今それは通じない」
ジルは冷めたように冷静にそう言ったが、アークはそのまま斬りかかる
ジルは、それを刀で受けて弾き返した
アークが体勢を崩して二、三歩後ろへと下がる
ジルは、刀を横に構えてアークの懐へと踏み込む
アークは、左手の篭手の部分で構えた
ジルは、それを気にすることなく柄の先でアークの左腕を突いた
アークは、その痛みに声を上げながら後ろに倒れ込んだ
確かに装甲に覆われた部分のど真ん中に当たったはずなのに、直接腕を突かれたような痛みが走った
アークは疑問を感じていたが、そんな思いを無視するようにジルは違うことを言った
「だから言ったろ。あれは、殺意を持たない相手には反応しないのさ。私の練習ぐらいじゃ、動かないよ。それに、そんなモノに頼るようじゃ駄目だよ。私が教えたようにまずは基本に忠実にやることだ」
ジルは、刀を鞘に戻した
「もう良いでしょう。ジルさん」
ラシェルが、二人に近づいてきた
オウスンとパイロンも、ラシェルの後についてくる
ラシェルは、アークに手を差し出して、座り込んでいたアークを立たせた
「アークさん、ジルさんは心配しているのです。少し浮かれているように見えます」
アークは、面には出さなかったが、素直に自身を恥じた
ファセルでは武器を失ったが、自身が一生かかっても稼げないであろう価値のある武器と防具を与えられ、さらに新しく人間の仲間を迎えられた
そういった部分で浮かれていているのをジルは呆れているのであろう
アークは、ラシェルの手を放すとそのままジルと距離をとり、剣を構え直した
「なら、尚更だ」
その姿にジルは笑みを浮かべながらも真剣な口調で言った
「いいよ、そうでなきゃ」
ジルは、竜の牙を抜いた
それに合わせるようにアークは斬りかかる
そのヤケにも見える力任せの剣の振りにジルは、冷静に言う
「肩に力が入っているよ。その剣は、その辺のものとは違うって言ったろ。叩き斬るものじゃない」
何度か剣を振っていたアークだが、いったん動きを止めると息を一つして改めてジルに斬り掛かった
その動きは、あきらかにさっきのものと違った
動きがコンパクトになりながらも、剣先まで緊張感がある鋭い動きに見えた
「そうだ。脇を締めて剣を生かして斬るんだ」
アークは、この剣の使い方をまだ理解できていなかった
初めてファセルでこの剣を握ったときにあまりの軽さに驚いたのだが、それを鍛え直したものを受け取ったとき、さらに軽くなっていたのである
アークは、ジルの言う剣を生かしてというのが未だに理解できていないと思う
「迷うな。迷っては剣が乱れる。軽重を意識するんじゃない。剣そのものを感じるんだ」
ジルに心を見透かされたように感じたが、ここでは逆に心を鎮められた
「私が教えたように振るんだよ。まずは基本だ」
アークは、何も言わずに何度か剣を振っていたが、ジルに楽々と止められた
そして、距離を取ると息をついて剣をおろした
ジルは、刀をしまった
多少なりともジルは納得したようだ
アークは、ジルの方へと歩き出した
「済まなかった」
一言だけ言った
改めて見るジルは、背の高さもアークの肩ほどもなく、とても小さく見えた
「分かってくれれば良いのさ」
ジルは、アークの腹部へ拳ポンと当てた
「頼むよ」
ジルは、そのまま横をすり抜けてラシェル達三人に声をかけた
「もうすぐオークが来る。行くよ」
アークは、ジルが拳を当てた部分を撫でた
全く力が入っておらず、痛みはなかったが、とても重く感じたのだった
「で、オークはどこから来るのか分かるのかい?」
アークは、ラシェルの方を見た
ラシェルは、北の少し離れた山を指さした
「あの山陰、本来ならばそろそろ出てきても良いはずですが、まだ来ていない」
「ここは見通しが良い。警戒して夜まで待っているのか?」
アークがそう言ってすぐだった
ラシェルが指差したすぐ近くの北東の山陰から、ゾロゾロと黒い影のような存在が出てきた
「心配いらなかったみたいだね」
ジルは軽口を叩いたが、その表情は明らかに硬くなった
バラバラと現れたゴブリンに対して、オーク達は、二列に並んで整然とこちらへと向かってくる
しかし、後ろの方は少し違った
オークよりも遥かに背が高くて大きな姿がいくつかノソノソと現れてきた
「なんだ、あれは」
「トリーヒだね。オークがあんなものを使役するなんて」
ジルは吐き捨てるように言った
トリーヒとは、皮膚はゴツゴツとして岩の様にも見える灰色の体をした大きな魔物である
鎧を身につけることもなければ、武器も手にしていない
背は高いが脚は極端に太くて短く、背中を丸めて猫背ように歩いているが、人間の大人と変わらないオークが子供に見えるほど大きい
しかも、手が長くて拳が異常に大きく、両手の拳を地面につけながら歩く
その姿は、手が重くて地面についているようにも見える
そのような姿でありながら、一歩一歩が大きいので、小走りで進むオーク達に遅れることはない
ただ、三体のトリーヒは、オーク達と違ってバラバラと歩いていた
「さぁ、どうする?」
黙って腕を組んでいたジルが、それだけ言った
「俺とジルが前に出よう。オウスンは、討ち漏らしたのを頼む。パイロンは援護してくれ。ラシェルは、溜めてさっきのデカいのを頼む」
アークは、ジルの言葉に反応してテキパキと指示を出す
しかし、最後のところでジルは、ラシェルにチラと目をやった
ラシェルは、ジルの視線に気付くと一息ついて口を開いた
「いや、申し訳ない。魔法力をかなり使ってしまい、アレはしばらく使えないのですよ」
「そうか、それは残念だな」
アークは、ラシェルの間をおいての回答に疑問を感じたが、そう応えるだけでそれ以上は何も言わなかった
「その代わりではありませんが、私が前に出ましょう。そして、ジルさんが使う炎を取っておきましょう」
「出来るのかい?」
アークは、驚いたが、それを抑えるように探るように言った
「流石にアークさんにはかないませんよ。しかし、オークぐらいならば、なんとかなるでしょう」
「パイロン、オウスン、頼むよ」
アークはそう言うと、二人に顔を向けた
「はい、力の限り」
バイロンはそう言い、オウスンは黙って頷いた
そうしている間にも、オーク達は近づいている
アーク達は、一斉に近づく敵に顔を向けた
「さぁ、行こうか」
ジルは、声を上げた
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