第9話 巨人の階段にて
三人は北へ向かう
暫く続くファセル地方は、町の北の方のかなりの部分が穀倉地帯となっている
数日かけてその広大な麦畑を抜けて、少しずつ麦畑が畑や放牧地へ変化する頃には、地形も平地から丘陵地、そして山地へと変わっていく
その山地も少し独特な形をしていた
山として斜面が続いた後、しばらく平らな土地が続き、また斜面が続いた後に平地が続くのである
そのためこのファセル山地は、巨人の階段と呼ばれている
そして、そのファセル山地を越えると、割れ山までは広大な樹海が広がっている
三人も、目立ちやすい平地から山地へ変わって行くにつれて、イースからの攻撃の可能性を感じ始めていた
夜
巨人の階段を何度となく上り下りを繰り返し、山頂の周辺の岩山がゴツゴツとした山地の岩陰から、ラシェルが、遥か彼方を見つめていた
「どうだい?」
「明日でしょうね。ちょうど、両方から挟まれるタイミングというのも、狙っているというか、偶然なのか」
ラシェルは、起きてきたジルに答えた
少し前からゴブリンとオークの群れが、明確にこちらに向かってきているのが旅のシロカラスで確認できていた
ラシェルが使える技のエルフの遠目で明日には襲われる距離にいるのが分かった
「流石に両方は大仕事になるねぇ。コチラから出ていって先に叩こうか」
「その方が良いでしょうね。ただ、私は戦いは苦手なんですけどねぇ」
ラシェルの苦笑いに、ジルは、ラシェルの胸に拳をポンと当てた
「期待しているよ」
「じゃ、私は休ませてもらいますよ。ジルさん、あとはお願いします」
ラシェルは、ジルの言葉には答えずにそう言うと、岩により掛かるようにして横になってしまった
ジルは、空を見上げる
まだまだ厚みのある三日月とかなり細くなった三日月の二つの月が、近くに浮かんでいた
ジルは、背の低いドワーフの短い手を伸ばす
夜明けまではまだ時間があった
朝、三人はいつも以上の速さで北へ向かった
ラシェルの情報から、ゴブリンやオークから挟み撃ちされない為に先に攻撃を仕掛けようという計画だ
ゴブリンとオークが連携してくるとは思えなかったが、続けて戦い続けるようなことは避けたかった
まっすぐ北に向かって先にゴブリンを叩こうと強く主張したのは、ラシェルだった
ただ、その理由を聞かれた時にラシェルはキチンと答えなかった
「ただ、気になることがあって」
という返事で言葉を濁すだけだった
そして昼過ぎには巨人の階段をいくつか下り、やや大きな岩がいくつもまとまって顔を出している手頃な広さを持つ山の中腹あたりででゴブリンの一群を待ち構えた
アーク達の方はゴブリンからは見つかっているのかは不明だが、かなり近い
下の様子を伺えば、ゴブリンによって短剣を持っていたり、棍棒を持っていたりという違いもアークの目でも分かるほどだ
「アーク、どう思う?」
「すぐに上がって来るだろうし、手頃な広さだろうからここで待とう。オークの方は大丈夫ならね」
アークは、二人からオークも近くまで来ていると聞いていたので、それぐらいのことは答えた
「ゴブリンの動きに感づいたみたいで、どうやら様子をうかがっているみたいですね。動きが悪い。ありがたいことにすぐにぶつかることはないでしょう」
「なら、ここで待とう」
ジルは、アークの返事に納得すると、ラシェルに顔を向けた
「で、ラシェル。今のうちに聞いておきたいけど、あんたは何が出来るんだい?この際、隠し事なしでいこうよ」
「手厳しいですね。では正直に言います。空気の呪文を少々」
ラシェルは、覚悟して白状しますといった雰囲気で言ってみせたが、それが冗談だというのは二人にも分かった
「そりゃ良いじゃないか。流石に司教さんは、気を使ってくれてる」
「司教様の名前を出されるとプレッシャーになるから言わないでくださいよ。気休めぐらいはやりますけどね」
ジルは、そんな言葉を気にする様子もなく、背負っていた荷物をその場に下ろすと、斜面の様子をうかがいに行った
アークも、同じようにその場に荷物を下ろすと、ラシェルの肩をポンと叩いて笑った
「期待しているよ」
アークは、出会ったその日にワイバーンの息から助けてもらって以後、ラシェルに親しみを感じていた
「尽力しますよ」
ラシェルは、笑ってみせた
「来るよ!」
ゴブリンの様子をうかがっていたジルから、鋭い声が届いた
同時に斜面を駆け上がり飛び上がってきたゴブリンを竜の牙で一閃、斬り裂いていた
飛び上がったゴブリンは、そのまま落下する
「アークさん、合図をしたら伏せてください」
ジルの様子を見たラシェルは、アークにそう言うと、杖を地面に突いた
ラシェルの頭より上にある杖のコブの部分が、穏やかな光を放つ
否、コブの中にある何かが光を発しているのだ
ラシェルは、静かに呪文の詠唱を始めた
それを見たアークは、ボロボロのマントも取ってその場に置き、すぐにラシェルに背中を向けて新しい剣を抜いた
新たに鍛えられた銀色の剣は、ジルとの練習で何度も激しく刃をぶつけているはずなのに刃こぼれ一つなく、美しく光り輝いていた
「俺に力を貸してくれ。新しい剣よ」
アークは、剣に目をやってひことつぶやくと、走り始めた
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