第6話 栄養満点おにぎり

そして私達は踊りを毎朝同じ時間に踊るようになった。

音楽を付けるようになった頃になると多くの見物人と一緒になって踊る者もいた。

彼らが持つカリスマ性、魅力がよくわかる光景だ。


その光景を嬉しく思う一方、踊り切り息を切らす彼らを見て困ってもいた。

同じく外野で踊る者達は平然としているのに彼らは疲れきっていた。


「また…ご飯を抜いて来たんですね。」


「そんな事どうでもいいだろっ。」


「そう、そう。それは僕達の勝手でしょ。」


本当に困った子達ですね。

これは少し強めに言った方がいいみたいです。


「いい加減にしなさいっ!いつまで子供のように駄々をこねているつもりですかっ!」


「っ………。」


「いきなりなに…。」


急に怒りだしたので、二人は目を大きく開けて驚いていた。

私は大抵の事では怒らないが、命に関わる事に関しては別だ。


「私が何故貴方達に毎日しつこく三食食べるように言っているかわかりますか?」


「………。」


二人は沈黙する。


「心配だからですよ。心配なんです。」


私は知っている。

過去、仕事の忙しさのあまりご飯を食べなくなり死んだ人がいた事を。


「食べていないだろうと思って作ってきました。はい、どうぞ。」


よく昔作っていたおにぎりを二人に渡す。

料理が出来ない私が唯一作れる栄養満点のおにぎりだ。


「こんなものっ…。」


叶羽さんがおにぎりを投げようとした時だった。


「中々美味そうだ。私が頂こう。」


「劉鳳様っ!!いけません。毒見は私がっ。」


突如現れた劉鳳さんは叶羽さんが投げようとしたおにぎりを取った。

まさかこの人が現れるとは思わなかった。


「そんなに毒見がしたいならどうぞ。もう一つ作ってあるので。」


叶羽さんにもう一度おにぎりを渡すと奪うように取られた。


「召し上がれ。」


私の一言が合図のように三人はおにぎりに齧り付いた。

そして三人とも眉間に皺をよせ、口を動かすのを辞めた。


「ふっ、不味いでしょう。また食べたくなったら、朝ご飯を抜いてから来て下さい。ご馳走しますよ。劉鳳さんも夜ご飯を時々抜いてる時がありますね。しっかり食べて下さい。」


直ぐに吐き出すかと思ったが、三人は不味そうな顔をしたままおにぎりを完食した。

それには私も驚きを隠せずにいた。


「アイドルは体力が必要不可欠です。それにはご飯を食べて筋肉を動かさなければなりません。それに朝食というものは精神が安定する大切なものなんです。だから朝食を抜いてはいけません。」


「はっ、結局ソレかよ。」


「結局俺達を利用したいだけじゃん。」


その出来事から叶羽さんと牙狼さんは朝ご飯を食べてから踊りの練習をするようになった。

どうやら私のおにぎりが相当不味かったらしい。

だが、まだ一人だけ毎晩ご飯を抜く問題児もいた。


「劉鳳さん…、ちゃんと食べて下さい。」


そう言っておにぎりがのった皿をテーブルに置く。

以前はたまに抜く程度だったのが最近は毎晩抜いているという噂を耳にした。


「心配か?」


「心配です。」


「そうか…。」


劉鳳さんは本当に何を考え、思っているのかわからない。

だけど、私が心配だと答えると安心したような顔になっている事に最近気が付いた。

だから私のスケジュール表には帰宅→自己練習→劉鳳さんの様子を確認→就寝となっていた。


そして朝の踊りの最中の事だった。

突然視界が暗くなり、体が鉛のように重くなると意識がなくなった。


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