第4話 ボーカル

初めて聞くアイドルという単語で全員こちらを見る。

数日かかったがやっと全員と目があった。


「この間、新しい店でやりたい事はないかと質問した時にこのような意見があがりました。人間を触れず、苦しませて殺したい…という意見です。」


「大変興味深い意見、ありがとうございました。お陰様でこの店の方向性が見つかりました。これから人間を殺せるように頑張っていきましょう。では各自戻って下さい。」


話終わり自室に戻ろうとした時、牙狼(がろ)さんが声を掛けた。


「おい、待てよ。アイドルって何だよ。」


「すみません。説明し忘れていました。」


説明し忘れたのではなく、しなかったのだ。

彼らに興味を少しでも持って欲しかったから。


「アイドルとは歌い、踊り、希望を元気を与える方の事をさすと私は思っています。」


「グルルルル…てめぇ、ふざけてるのか。」


牙狼さんは私の胸ぐらを掴み、獣のように喉を鳴らし威嚇した。

ここで私が怖がれば、彼らは私を下に見て意見を聞こうとしないだろう。

睨みつける赤い瞳を真直ぐ見た。


「ふざけてる?それこそご冗談を。私は真剣です。」


「俺は人間に媚びねぇ。絶対にな…。」


「貴方はそんなに器用な方ではないでしょう。そのままで結構です。」


牙狼さんはそのままの野性味溢れる方が人気が出るだろう。

私の胸ぐらを掴む力が強くなり、少し苦しくなってきた。

そろそろ放してほしいと思っていた時、今度は叶羽さんが私に声を掛けてくれた。


「でもさ、そのアイドル?のやってる事で人間殺せないでしょ。」


「やってもいないのに何故殺せないとわかるんですか?貴方にはもっと広い世界を見て欲しいです。」


「はぁ、お前何様だよ?」


殺す、死ねと言う言葉を発するのは牙狼さんの方が多いが、一番人間を殺す事に執着しているのは叶羽さんの方が強い気がする。

舞蝶さんの言う通り注意が必要な人物だ。

そしてもっとも大きな存在である劉鳳さんはというとこちらを見てただ笑みを浮かべていた。


「勝手にしろとおっしゃいましたよね?本当に勝手にさせて頂きますよ。よろしいですね。」


「あぁ。」


短い返事と共に劉鳳さんは椅子から立ち上がり去って行くと、それが号令かのように次から次へと全員去って行った。


今日は実りのある朝だ。

興味を引いた話題に質疑応答し、私の話を真剣に聞いてくれた。

怒っていたのが何よりもの証拠だ。

だが、劉鳳さんにはもう少し興味を持って貰いたいものですね。


「さてと…早速準備をしていきますか。まずは歌から覚えて頂きましょう。」


直ぐにアイドルのような真似事をして貰うのは無理があるのはわかっていたので、私はある仕掛けをした。

それは屋敷の色んな場所で掃除をしながら同じ歌を何度も何度も歌った。



数日後…。

青空が広がる昼間、美しい歌声が聞こえた。

いや…歌声じゃない?これは鼻歌だ。

声の主はキラキラと輝く金髪を持つ叶羽さんだった。


「ふふふ~ん。………っっ!!なに見てんの。」


「いえ、失礼しました。」


これで歌を頭に覚えさせる事に成功した。

…次にステップアップしてもよさそうですね。

私はニヤケを抑えつつ、その場を立ち去った。

是非ともその歌声を聞きたいという野望を胸に抱いて。


次に私がおこなったのは何日か歌うのを辞める事だった。

そう何度も同じ曲を聞かされれば彼らも飽きてしまうという理由もあるが今度は自ら声に出して歌って欲しい。

そしてまた何日か後かに今度は歌うのではなく、弦楽器を使い演奏した。


「歌声を聞いてみたいとは思いましたが…ここまでくると…。クスッ。」


せいぜい歌ってくれるのは二~三人だと思っていた。

それが屋敷中から色んな声が聞こえ、大合唱状態になっている。

一人一人の声が聞けないのを残念に思いつつ、嬉しくもあった。


「後はダンスですね…。」



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