第3話 物騒なメモ

私は困っていた。

インタビューで聞いた彼らのやりたい事に関してで…。

物騒な文字の羅列を見ていると隣にいた舞蝶さんが鈴を転がしたように笑う。


「さすがの店主様でもあの子達には手を焼くかしら?」


「えぇ、会う前から嫌われていましたから。あと、彼らの異様なまでの人間嫌いをどうしようかと。」


「そうねぇ。私達のような商売はどうしても人と関わらないといけないものねぇ。今の私達のお店のような感じにしてみたら?夜の方の相手もしなくてもいいし。」


私が買う以前のお店ではここは体を売るような売春目的が強いお店だった。

だが、彼女達の多くはそれを嫌がっていたのでそれを廃止し、彼女達が好きな物を詰め込んだ俗に言うメイドカフェのようなものが出来た。

そしてお洒落の最先端は彼女らになり、そのお洒落は国中に広がるほどになっている。


「もちろんその線も考えました。ですが彼らの場合お客様を殺してしまいそうで。」


「あ~やりかねないわね…。特に叶羽。」


「…注意します。」


さて…本当にどうしたものだろうか。

人間に近づかず、全員殺す…か。

頭を悩ませていると急いで走って来る足音と共に一人の妓女が部屋に入って来た。

息を切らしている桃色の髪が特徴的な女性の手には服が握られていた。


「店主様っ!!この服着てみてっ!!」


「梨愛姫(りあん)さん、廊下は走らないで下さい。それにこれは…男物ですか?」


梨愛姫さんが持って来た青い服は普段は男性が着用する服の形になっているが、女性もの生地で作ったのか柄は花柄なので男性が着用するにはいささか派手すぎるデザインだ。


「そう!今話題になっている小説の仁(じん)様をイメージして作ったのっ!来てくださるでしょう…?」


梨愛姫さんはウルウルと瞳を潤ませて私を見つめる。

私は女性の頼みにめっぽう弱い。


「以前おススメしてくれた恋愛小説ですね。………はぁ~、お願いですからそんな顔で私を見ないで下さい。」


「やった!!」


一旦考えるのを辞め、梨愛姫さんが作った服に着替えるといつの間にかここで働いている妓女全員が集まっていた。

これは梨愛姫さんの仕業だろう。


「もう~、こんな時ぐらいコレ取ってよ。」


そう言うと私がかけていた眼鏡を取られてしまった。

視力は前の体よりは良いのだが、眼鏡が無いと落ち着かない。

私にとっては体の一部と言っても過言ではないのだ。


「この地味で変なお化粧も落としてっと…。髪型は…そのままの方がいいかな。」


梨愛姫さんの手で私はあっという間に化粧を落とされれ、髪型は後ろを団子にしているのだがそこは変えなくていいらしい。

鏡を見ればそこには髪色以外は見慣れた私の顔があった。


「かんせいっ!!はい、本。ここと…それからここ読んで!!」


本には如何にも女性が喜びそうな言葉と、よくわからない言葉が並んでいた。

私を見る彼女達見ると目は期待に満ち溢れている。

その期待に精一杯応えるとしよう。


「世界で一番君を愛そう…。」


「きぁぁぁぁぁぁ!!」


「俺を見ないでくれ。俺の醜い心を…。」


「………ぎぁぁぁあぁああぁぁぁぁ!!」


私が思った以上の反応が返ってきたので、自分自身が少し驚いてしまった。

興奮気味で楽しそうな彼女達はとても可愛らしい。


「じゃあ、ついでにその姿で歌って下さい!」


「仕事があるので…今日はー。」


梨愛姫さんの提案を断ろうとするも、舞蝶さんの言葉で打ち砕かれる。


「あらいいじゃない。私、店主様の歌声好きなのよ。是非お願いしたいわ。」


「………。わかりました。」


やっぱり、私は彼女達の頼み事には弱い。

仕事は一曲歌ってからでもいいか。

今の恰好で女ぽい声で歌うのは違和感がある。

今日はなるべく男ぽく歌ってみる事にしよう。


私が歌い始めると、彼女達はうっとりしたような顔をしていた。

そして最後にウインクをしてみたら、彼女達は発狂した。


「えっ!今の何?!心臓止まったよ?」


「死んでもいいわ。後悔しないっ!」


「もう~、胸がキュンキュンして苦しい~!!」


わい、わいと騒ぐ彼女達をしばらく眺めた後に私も仕事の続きをする。

彼らの物騒な言葉が並んだメモを見て…違和感を覚える。

あんなに物騒な言葉が今はそんなに物騒に感じない。

何と無しにまた彼女達を見て、私は笑った。


「皆さんのお陰で仕事が一つ減りました。ありがとうございます。」


彼女達は私を見て、首を傾げた。

もう一度この仕事をする日が来るなんて夢にも思わなかった。

後日、男遊郭の広間にて…。


「皆さんにはアイドルになって頂きます。」


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