第8話 偽占い師、気づきました
それにしたって反応が過剰な気がしなくもない。これじゃあ「犯人かも」でなく「サイラス王子が犯人」と決めてかかっているような態度だ。少なくともジョナス王とペネロペ王妃は、サイラス王子が幻惑の梟と通じていることは知らないはずなのに。
ペネロペ王妃がギルドのことを全く考えていないのもそうだが、サイラス王子がまだ王族としてここに居られているのが良い証拠だ。弟が行方不明の最中に幻惑の梟なんてきな臭いギルドと会っていることがバレたら、そもそもサイラス王子はここにいないだろう。やってるやってないに関わらず、「怪しいことをしたから」と、何らかの追及を受けていてもおかしくない。
だからペネロペ王妃の確信めいた態度が不思議だった。まるでサイラス王子はこういうことをやる奴だと頭から決めてかかっているようだ。確かに今幻惑の梟と通じていることが分かったから、私の中で怪しさはかなり上昇しているのだが。
そう考えている最中にもペネロペ王妃を加えた言い争いは加速していく。そんな言葉での殴り合いの中、ジョナス王が深くため息を吐きながら言った。
「とにかく、今回の件。お前は口を挟むな」
「……父上、正気なのですか。こんな怪しい女に依頼するなど」
「正気に決まっているだろう。彼女の占いで息子の居場所が分かるかもしれないんだ」
「だとしても、この女が嘘を言わない保証もないでしょう!」
「くどいぞ、サイラス。どうしてそこまで頑ななんだ」
「…………ヒューゴが見つかったら困るんでしょ。分かってるわよ」
「っ、母上!」
「あなた、聞くだけ無駄よ。この子はヒューゴが邪魔なんだから」
考えれば考える程、この家族は不思議だ。王妃はサイラス王子が犯人だと決めてかかっていて、ジョナス王はペネロペ王妃程ではないが、それでもあまりサイラス王子を気にかけていない様に見える。その上周囲の使用人も、揃って彼を嫌っているときた。
初めは私も「こんな横暴な性格、嫌われるのも当然か」くらいにしか思えなかったが、ここまでくるとちょっと異常に感じてくる。
【お可哀そうな王妃。王子に裏切られるなんて】
【あんな奴、さっさとシモンズ王家から追い出してしまえばいいんだ】
それにサイラス王子はこの城で育っているはずなのに、心の中ですら一人も彼に味方する人間がいないのは最早不自然だった。そこそこ人数がいれば、様々な考えを持つ人間がいて当たり前なのに、この城にはそれがない。皆が揃えられたようにサイラス王子を嫌い、ペネロペ王妃とヒューゴ王子のことを心配している。
本当にサイラス王子が極悪非道な可能性がないわけではない。だがそれなら彼はもっと心の内で悪態をついていてもいいはずである。自身を信じない王妃に文句を言っても、冷たい視線を向ける使用人に暴言を吐いていてもおかしくない。私も占い師と称して色々な人の考えを覗いてきたが、腹黒さを取り繕っている奴ほど心の内の口汚さを隠せないものだ。
それなのに――――
【母上、また少しやつれたな。父上も妙な女を頼るくらいには参っているし、俺がもっとしっかりしないと】
サイラス王子の心から聞こえてくるのは恨みなど微塵も籠っていない感情ばかり。母親の体調と父親の調子への心配に、王家を守っていかなければという責任感。私への評価は相変わらずだったが、それでも周囲への悪態どころか小さな文句ひとつすら聞こえてこない。
やっぱりおかしい。ひょっとしたらこの第一王子は感情を出すのがド下手くそで、酷い誤解を受けているのかもしれないが、それにしてもだ。ここまで生真面目に王家のことを考えているのに、味方がいなさすぎる。まるで示し合わせたかのような考えの一致は、気味が悪くなってくるレベルだ。
やっぱり、この王家では何かが起きている。私がまだ分かっていない、何かが。私がそう思った瞬間だった。
【それに、ヒューゴのことも心配だ。噂の大本を見つけるまでと言ってはいたが、あいつの身に何も起きていなければいいのだが】
【――――だいじょうぶ、だ。俺は言う通りに――――あの人が、国王になる手伝いを】
聞こえたサイラス王子の考えと、それと同時に隠れるように聞こえてきたもう一つ、誰かの考え。
「――――え」
「……なんだ占い女。やっと出て行く気になったか」
内容に思わず声が漏れ、それにすかさず王子が反応する。彼の両親がたしなめるような目を向けるが、その程度でサイラスの王子の言葉の棘が取れることがない。
だが、私はそんなことに気にかけている余裕はなかった。つい今しがた聞こえてきた、もう一つの考えの持ち主、それの視線の先を見ておぼろげに思っていた考えに確信を抱く。なるほど、だからサイラス王子は私を頑なに追い出そうとしていたのか。
「……いいえ、違います」
「っ、では何だと言うのだ。ヒューゴの居場所を見つけたのか?」
「いいえ。第二王子の居場所のことでもありません」
私の言葉にサイラス王子はさらに苛ついたようで、彼は乱暴に靴を床へと打ち付ける。しかし、その仕草が続いたのも、私が次に口を開けるまでのことだった。
「分かったのは、あなたが無実であるという理由です」
「……は?」
「サイラス王子、あなたはヒューゴ王子を誘拐なんてしていないんでしょう?」
聞こえたことが本当なら、国王夫妻も使用人の判断も全くの間違いだ。サイラス王子は誘拐なんてしていない。むしろ、嵌められている。だってとんでもない大嘘つきがこの城にいるのだ。
私は舌で唇を湿らせて、アホ面を晒すサイラス王子を見上げる。これは、上手くいけばこの王家に渦巻く問題を解決しつつ、私の希望も叶えられるかもしれない。そう思いながら私はひりつく胃を撫でた。
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