第1話 占い? できません!

 早い話、私は占いの類ができる訳ではない。


 水晶玉やら怪しげな草の瓶詰やら持ってはいるが、それは全て「らしい雰囲気」のためのアイテムだ。水晶玉は丁寧に磨いているのでピカピカだが、予言とかそういった類のものは全く映らないし、瓶詰に至ってはただのアロマである。寝る前にちょっと嗅ぐといい気持ちで眠れるやつだ。断じて燃やしたら未来が見えるとか、ガマガエルの油と煮込むための材料とかではない。


 では何故私、リベットは「旅の占い師」なんてものをしているのか。答えは簡単。気味が悪がられることなく考えを読む力が使えるから。


 スピリチュアルは偉大だった。考えを読み取って出した「答え」は水晶玉を通すだけで信用に値する「助言」になるのだ。


 というか、占いという形にしないと話にもならない。さっきだって「あんたの家の引き出し、滑りが悪いね」なんて話しかけたらあの婦人との会話は「え、何で知ってんの? 怖」で終わったことだろう。良くて気持悪がられ、最悪の場合は不審人物として拘束されるか。


 つまり、「占い」という形は非常に都合が良かったのだ。不審がられず力が使えて、気味悪がられることなく言葉が受け取ってもらえて、その上稼げる。旅の占い師ということもあってか皆色々話してくれるおかげで情報も手に入りやすい。


 昔は「誰かの考え」が勝手に頭に流れ込んできて苦労したものだったが、今は何とか自分でコントロールできるようになったし、あの頃のように節操なく飛び込んでくる他者の思考に頭を悩ませることも無くなった。


 この力自体は決していいことばかりではなく、辛いことも多くあったが。それでもなんとかうまい付き合い方を見つけた。能力を「占い」という言葉で包み、どうにかやってきたのだ。そう、「占い師」というのは私にとって実に便利な職業だった。


 だがしかし、そう思えるのも今日までの話らしい。


「君が件の旅の占い師、リベット殿か。ふむ、随分と年若いが」

「いえ……その、十六、です」

「十六……いやこの際歳は関係ないな。それに君の占いは実によく当たるそうじゃないか」


 王国都市中央に位置するとんでもなく巨大な城に裏口から突っ込まれたと思いきや、私は男たちに両脇を抱えられ、とんでもなくスピーディに城の通路を移動させられた。


 使用人用の、それでも美しい赤や緑の色石をはめ込んだ通路を通り抜け、先の見えない階段を何度も跳ねるように上り、競争ができそうなほど長い廊下を高速で引きずられ、あれよあれよという間にとんでもなく広い部屋へと放り込まれた。


 そして私は今、何故か国王陛下の自室にいる。道中見てきたものが霞んで見えるほどの色とりどりの色石に、どっしりとしてどれも高価そうな重厚な家具。部屋の壁にはずらりと使用人が並び、目の前には上等な青い生地に金のボタンの上着をラフに羽織った国王本人がいる。


 フランクに話しかけてくる王族に適当な相槌を打ちながら、私はさらに体を縮こまらせる。そうでもしないと緊張と不安で胃がねじ切れそうだった。


 私の目の前に座る四十代半ばほどの国王陛下は、その姿を「私が不満に思っている」と捕らえたのだろう。整えられた眉を下げ、太く低い声で申し訳なさげに言った。


「……手荒な真似をして申し訳ない。だが、事態は一刻を争うのだ。私としても手段は選んでいられなくてね」


 しかしそう言われても私の滝のような冷汗は止まらない。連れてこられて突っ込まれた城の中で、私はこちらを見下ろしてくる国王陛下に曖昧な笑みを浮かべるので精一杯だ。


 冷汗の理由は人さらいまがいのやり方で連れてこられたことでも、王族が放つ威圧感でもない。突如として私を連れてきた国王陛下が「旅の占い師」である私に依頼していることの内容。それが理由だった。


「君の占いの腕を見込んで、頼みがある。……私たち、シモンズ王家の宝の行方を、どうか見つけていただきたい」


 どうしてか私にそんなことを頼む国王陛下、ジョナス・シモンズの前で乾いた笑いを浮かべながら、私は過去の己をなじる。どうして占いも出来ないくせに「占い師」なんて名乗ったんだ。落とし物探しますとか、悩み聞きますとか、そういうのにしとけばよかった。


 身近な失くしものならいざ知らず、王家の宝の行方なんて占い師でもない私に分かるわけがないと言うのに。

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