第230話 迫る決闘の時…… 完

「それはそうとガキ共は置いてきたんだな」


 次代の最高神と閻魔女王の有力候補がいない事に気付く黒崎。


 そんな黒崎の質問にユリウスとイステリアが答える。



「ああ。 一応あの子等達もまだ子供だが、どちらも未来の天界を背負って立つ立場…… 後学の為に連れてこようかとも思ったんだが……」


「ええ。 いくら才に溢れていようともまだ子供…… 心身ともにまだまだ未発達のまま……」


「それでも二人の闘いを目で追えないなりにも、肌で何かを感じてくれる事だってあるでしょう」


「しかしこの二人の本気の霊圧、そして殺気含めた気配には如何に障壁を展開していたとても、この場にあの子達を連れてくるのは今のレティちゃん達以上に危ないと判断させてもらったわ」


「ああ。 それにこれ程の戦いを見せて自分達の将来に変なプレッシャーをかけさせたくないしね」


「だから二人の事はエレインに任せてきたというわけさ」


「なるほどね」


「ちなみに父上も今回は遠慮してもらった。 こないだの僕等の結婚式の後に少し体調を崩されてね…… 母上に無理矢理抑え込まれて今日は一日ベッドでゆっくりしているとの事だ」


「! って、大丈夫なのか!?」


「まだ具合い悪そう?」


「いや、少しは良くなったと思うが、後数日はベッドの上だろうね」


「そっか……」


「魂魄の燃焼…… ゼクスと闘り合った時って聞いたが……」


「みたいだね…… 僕もリーズも大戦後に聞かされた――」


「たまにあるんだよ。 こうして体調を崩すのが……」


「そうだったのか……」


「…… ま、後でわらわも見舞い位にはいってやるかの……」


「! ええ。 ぜひ! そうしてあげて下さい」


「なんなら泊まっていっていただいても大丈夫ですよ♪ 父上もなんだかんだで喜ぶと思うし♪ まあ毛程も態度には出さなさそうですが♪」


「いいじゃん! 泊まっていきなよ♪ 伯母様♪」


「泊まらん! って、別にそこまで心配しておらんわ!」


「やれやれ…… 素直じゃないんだから♪ どっちも♪」


「はは。 まあ、それはそれとして父上も生粋の武人だからねぇ…… その世界の境地と言っても過言ではない勝負を見れないのは凄く悔しがってたよ」


「きっとミリアさんも心配なんすよ……」


「ああ。 だからこそ、ちゃんと大人しくベッドの上で寝てくれているのだろうね…… まあ娘の事だし、父上には後で僕から結果を伝えておくよ」


「ああ、そうしてやってくれ」



 こうして一通り状況を確認、理解した黒崎とリーズレット。



 そして――



「さて…… 雑談はこれ位にしてそろそろ始めるとするか」


 ティーカップを置き、立ち上がるアルセルシア。


「そうだね。 それじゃあ修二以外は全員! 向こうへ下がって全力級の障壁を展開! 危なそうだったらすぐに『ゲート』で退避する事! いいね!」


 リーズレットの指示に従い、ユリウス達は少し離れた崖の上へと転移術で移動し、強固な障壁を崖全体を覆う形で展開するのであった!






 そして崖の上から見守る面々――



 そんな中、雫が最初に口を開く。



「どちらが勝つと思う? おばあちゃん――」


「さてのう…… 正直わからん。 ただ、それでもアルセルシア様は間違いなく最強に位置する御方…… かつての大戦でアルテミス様をも超えて、そこから更に研鑽を積んだとも聞くし……」


「逆に妾はリーズの本気はおろか、戦ってるところすらあまり見た事がないから何とも言えんのよなぁ……」


「アタシは総長を押すぜ! ここまで来たら神すらも超えてほしいしな!」


「それに実戦での…… 真剣勝負でのガチの本気の総長が! それもベストな状態で誰かに負ける姿なんて全く想像できないしな!」


「あんたはどうだい? 副長…… いや、室長殿?」


「私もほぼ同意見ですね。 それにかつての私の直属の上官として、また学生時代のライバルだった者として、そしてなによりも旧友としても! 是非とも神をも超える大義を成し遂げてもらいたいですね」


「という事で私もリーズさんに一票♪」


「恭弥先輩とサアラの姐御の予想は?」


「ん~ 総長も最近まで更に己を鍛え直してたみてーだしな。 正直俺も、総長が負ける姿なんて想像すらできねえし、元部下としては勝ってほしいってのが本音だけどな」


「私も貴方達とほぼ同意見だわ。 ただ実力伯仲なのは間違いない…… それもその中でも限りなく! 拮抗している筈…… ここまできてしまうと、もはや勝敗を決めるのはただの時の運になってしまうかもね」


「それもそうかもしれないけど…… でもここまで極めてしまってると結局はそうなるのかしら? 武術家としては納得いかないけど……」


「じゃあそういう貴方は? 雫?」


「確かにリーズレットさんの強さは底が知れないわ。 実力が拮抗しているのも間違いない――」


「だけどそれでも私は僅かにアルセルシア様が有利かと思ってるわ」


「かつての天界最高の騎士であるアルテミス様を一騎打ちの末に破ったあの強さはもはや神の領域すら当時の時点で超えているでしょう…… あれから百五十年の研鑽を考えると如何にリーズレットさんでも厳しいかもしれないわね」


「お二人はどうお考えですか?」


 ここでユリウスとイステリアにも予想をうかがう雫。


 その問いに、まず先にユリウスが自身の考えを述べる。



「そうだね…… 互いに極神流一刀術を極め、さらにその先の領域にそれぞれが独自の形で足を踏み入れている二人だ」


「その領域でより多く歩を進めているのが当然有利なのだろうが、僕の見立てだとあの二人はそれを考慮に入れても単純な剣腕は互角……」


「そうとなれば雌雄を決するに大きく決め手となる部分は互いに『心』の部分だろう」


「武の世界においては心・技・体! これらが合わさって初めて『その者自身の真価』が発揮できるというもの――」


「逆に言い換えれば…… これは決してただの精神論ではなくて実際に本当にそうなのだが――」


「多少相手より技量が劣っていたとしても! それを補えるだけの強き心力、揺るぎない信念と魂の力があれば、その技は通常のそれよりも遥かに冴えわたり! 力を増す! 時に実力差を引っくり返す事だってあり得る!」


「妹はあの大戦の後、剣術も更に磨きをかけたみたいだがそれ以上に! 自身や周りですら気付かなかった、ほんの僅かにあった己の心の弱さ…… 甘さを拭い去る為に自身を徹底的に鍛えたと聞く」


「妹がどこまで成長できたのかはわからないが、ここは兄として、努力次第で人は時には神すら超えられるんだというところを見せてもらいたい…… いや! 信じてみたい…… かな」



「ユリウスの言う通りです。 強き心力は時に常識外れの力をもたらす事があります。 ただ、心を強く磨いたのは姉様も同じ――」


「リーズちゃんが荒れて姉様がお灸をすえた時に言っていたのですが、精神的に絶不調で剣が乱れているにも関わらず、それでも彼女の強さは姉様が驚きを隠せない程だったと聞きました」


「それは彼女がそれだけ多くのものを積み重ねてきた証拠でもあると……」


「それからというもの姉様も更に己を鍛え、いつかこういう日が来るだろうと! そしてその時も! 自分が完膚なきまでに叩きのめすと! そう意気込んで鍛え続けてきました!」


「技は勿論、心も己の在り方も磨き続けたのは姉様も同じ…… ならばユリウスと同様の意見でかつ、私は姉様の勝利を信じますわ!」



 強き心力――



 確かにそれはただの精神論ではない――



 その事は、数えきれない程の修羅場を潜ってきた猛者達である彼等全員にとっては至極当然の事であった――



 だからこそ単純明快なのかもしれない――



 ここまで実力が拮抗している者同士なら!



 後はどちらが! 



 より強く! 



 勝利への渇望が強いか!



 結局はそうなってしまうのかもしれない……



「そういや下界の傭兵時代にも、そんな心の折れねえ奴等ってのはたまにいたが、そういう奴等はガチで手強かったもんなあ……」



「ま、なんにせよ――」
















































「括目してみよ! って感じだな――」



 一方その頃――



 互いに距離をとって最後に集中力を高めていく二人――



 その二人に挟まれ、中心、そしてそこから後方へと下がっていく黒崎。


 三人の点が三角形の様な形へと結びつく。



 そして――



「二人共! そろそろいいか!?」


「ああ!」

「うん!」



「それではこれより解決屋 黒崎修二が二人の決闘の見届け人を務めさせていただく!」



「両者! 向かい合って! 前へ!」



 互いに歩を進め、距離を詰めるアルセルシア、そしてリーズレット……



「今回は不甲斐ない姿をみせてくれるなよ。 リーズレット――」


「ふふ、勿論♪ これでも反省してるんだからさ♪ 師匠先生こそ――」



 剣を抜き、そして互いに構えるリーズレット…… そしてアルセルシア!



「お互い相手が相手…… 相手の身体を気遣う余裕は当然ないし、それ以前にこれは真剣勝負…… だから――」



























































「うっかり殺しちゃっても…… お互い恨みっこなしって事で…… いいよね♪!?」


「ふっ! 当然だろ!」


 互いに表情が戦闘狂へと姿を変え! そして強大な霊圧を練り始める!




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!



 二人の霊圧に煽られ! 天が! 地が! 大きく揺れ始める!!!!!



「オイオイ…… こいつは!」

「二人共…… なんて霊圧なの!」


「くっ! 二人共まだ向かい合ってるだけだってのに!」

「ええ。 わかっていたつもりでしたが、両者共に…… 尋常じゃないですね!」



「文字通り…… 桁が違うわね!」

「ふむ。 これは思ってた以上の一戦…… いや! 逸戦になりそうじゃの――」

「姉様…… リーズちゃん……」

「いよいよ始まるか…… 武の頂点を極めた者同士の究極の闘いが!」






「極神流一刀術 皆伝 剣神 リーズレット・アルゼウム! 参る!」


「極神流一刀術 開祖 女神 アルセルシア! 参る!」




「―― はじめ!!!」



 その言葉と同時に!!!


 互いに飛び掛かる両者!!!



 最強の師弟対決!!! 遂に開幕!!!




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