第228話 最強への挑戦!

 『最強』に挑戦する意思を示したリーズレットに驚きを隠せない黒崎。


「本気か? リーズ……」


「勿論大マジだよ♪ そろそろ師匠先生も約束の場所に来る頃だし♪」


「いやいや! 今更決闘って! 何の為にそんな事すんだよ!? つかお前等級の奴が二人してぶつかり合ったら周囲の被害が半端ねえだろ!」


「それについても抜かりないよ。 結構前からイステリア様に頼んで専用の空間をかなり頑丈めにつくって用意しておいてもらったから♪」


「それにこれは今言った通り、以前から約束してた事――」


「僕も、そして師匠も根っからの武人…… 純粋に…… 何よりも強くなりたい…… 強い者と闘いたい――」


「ましてや! そこに『最強』がいるというのなら! 挑戦したいと思うのが僕という者だからね!」


 武人ならではの矜持ってやつか――


 確かに大戦前にあの要塞でチラッとそんな話はしてたが、まさか本気だったとは……



 大戦前のグランゼウス要塞の会議後――


 黒崎が霧島からPSリングの使い方をレクチャーされた後、実演を交えながら実戦形式で対決し、それを見て昂ってしまったリーズレットがアルセルシアと話した一連の会話――



 *     *     *



「どうだい? 師匠せんせい。 久々に手合わせを願いたいんですけど……」


「そろそろ師匠せんせいに本気で挑戦し、超えるだけの力と資格を得たと思っているんだけど……」


「ふっ。 お前は本当に頼もしい位に元気だな」


「だが、昨日からの徹夜作業含め、ここ数日の情報収集等の激務で寝不足のお前とやりあっても面白くなさそうだ」


「それに私もお前も『一度火がついたら抑えがきかなくなるタイプ』だ…… 決戦前に必要な戦力を二つも使い物にならなくするわけにもいかんだろ」


「諸々片付いて、暇ができたら、その挑戦受けてやるよ」


「本当♪ 絶対だよ!」



 *     *     *



 あれはてっきりリーズはレオンと、アルセルシアはアルテミスという危険な相手とり合う事になるだろうから互いに勝って生きて帰ってこようなっていうリーズなりの激励だったのかと思ってたが……


 いや、実際それもあったんだろうがまさか本気でアルセルシアに挑むつもりだったとはな……


 まあでもリーズの性格を考えたら寧ろ当然といえたのか……


 とはいえこの組み合わせ…… 最悪過ぎんだろ!


 この化け物二人の立ち合いなんざ命がいくつあったって足りやしねえ!


「つか俺なんかがお前等の立ち合いするのもおかしな話だろ! 普通この場合だったらユリウスかイステリアに頼むのが筋だろう!」


「君の復活がもっとかかりそうだったらそうしていたけど、中々良いタイミングで復活してくれたからね♪」


「このての立ち合い人はできる限り中立に位置する立ち位置の者にお願いするのがベストだ♪」


「兄上は僕の血縁者だしイステリア様は師匠の妹――」


「勿論二人共その辺は情を挟まず見届けてくれるのは間違いないけど基本的に立ち会い人ってのはそういうものだからね」


「まあ他にいないってんならこの二人のどちらかにお願いするしかないけど…… いや…… あるいはもう一人……か」


「? もう一人?」


「女神殿の指導を受けてかつ一族の者であって――」


「にもかかわらず『諸事情』によりそれを名乗っていない者とかは、ある意味では中立だからね♪」


「! そいつは……」


 黒崎の頭に一人の女性の姿が浮かんでくる。



「やっぱり『そういう事』だったのか…… いつから知ってたんだ?」


「う〜ん、いつだったかな…… 大戦後の復興がある程度ついてそこから更に暫くして…… 確か二十年位前? だったかな?」


「因みに彼女は父上の姉…… 僕や兄上にとっては伯母に位置する方みたいだよ♪」


「! そうだったのか……」


「その様子だとやっぱり修二もその可能性は疑ってたんだね」


「まあな。 血縁者じゃねえかって事位は疑ってた。 もしくはそうでなくても極めて一族の深い関係者とかな――」


「そもそもレティが編み出したとされる魔術の類はお前等閻魔一族の能力や炎の力にかなり酷似している部分があったからな」


「中には術のその効果まで似た様なのがあるし、力そのものの気配もどことなく近いものがあった――」


「多分レティの魔術は元々あいつが使ってた閻魔の力を何らかのコンセプトのもと、別のベクトルへと改良し、修行次第で特別な血筋じゃなくても扱える様にしたやつなんじゃねえか?」


「流石だね。 そうみたいだよ♪ 後から聞いた話だと開戦時、例のキースって奴が閻魔の城とグランゼウス要塞に同時に主砲を発射した時、城にいた父上が自身と母上、要塞にいた恭弥とサアラには前室長の雫さんが似た様な強化術をかけて跳ね返したっていうしね♪」


「そんな事かましてたのかよ! 揃いも揃って化け物揃いだな!」


「ふふ、ホントに頼りになるよね~♪」


「それに魔術を抜きにしても極神流の武術は基本的には閻魔の一族にしか伝承されないし」


「まあ君やエレインさんみたいにいくつかの型とか、その基本部分とかをかみくだいて護身用に教える例外もあるっちゃあるけど、基本的に全ての流れを押さえて皆伝にまで修める者は閻魔の一族しかいないからね」


「彼女の使う戦闘術の一つ―― あの薙刀術は明らかに極神流薙刀術を完全に極めたものをベースに自身の魔術を織り交ぜて改良、更に進化させたものの類だ」


「ここまで条件が揃ってるんだから疑うなっていう方が無理だよね♪」


「確かにな…… けどなんか込みいった事情がありそうだったし、随分と昔にそれとなくレティに探りを入れた事があったんだが、上手く躱されてな――」


「あんまり触れてほしくなさそうだったからそこから先は無理に立ち入ったりもしなかったけどな」


「僕も兄上も興味があったけど彼女にも父上にも母上にも聞いたけど適当に躱されたよ」


「母上はともかく、父上と叔母様は随分昔に仲違いしてたみたいなんだよね」


「ただ…… 大戦時に二人が接触したらしくて、そこで少しはわだかまりはとれたみたいなんだけど――」


「それに加えて彼女も…… 『もうあまり時間がない』でしょ……」


「! それは……」



 大戦時に禁術を使って恭弥とサアラを永らえさせたってのは聞いたが……


 あのノーテンキでなんにでも全力で楽しむ姿を見てたらうっかり忘れがちになっちまうが……


 やっぱりもう…… そんなに時間が残されてねえんだな……


「―― 残された時間をただただ自分らしく悔いなく全力で楽しむ…… 恭弥やサアラもそうだけど本当に凄いよね……」


「とにかく! そういのもあって父上と母上は二人で相談した上で、僕と兄上に『真実』を教えてくれたんだよ」


「まあ細かい詳細まではまだ聞いてないからそれはいつか本人から話してもらえって言われたんだけど…… 流石の僕も中々聞きづらいんだよねぇ……」


「…… それ程までの『真実』だったって事か。 お前等が聞いた話の一端ってやつは――」


「まあね。 でも近いうちにちゃんと話を聞きたいとは思ってるし、それに――」


「多分向こうから話してくれるかもとも思ってるんだよね…… その時は修二――」


「君にも同席してもらう事になるんじゃない? もしかしたらモッフンあたりも――」


「! 俺とぐの丸が!?」


「と言っても、これは僕の勘に過ぎないけどね。 きっと彼女は君には相談するんじゃないかな? それも多分解決屋としての君への依頼として……」


「! 解決屋としての俺への依頼?」


「うん。 君達は伯母様とも付き合いが長いし、確かな信頼関係もあるみたいだしね」


「…… そうか……」


「まあ僕としては今後も変わらず、彼女とは仲良くしてあげてもらえると嬉しいかな♪」


「何を今更、元々あいつとは気の合うダチだし、そんなのお前に言われるまでもねえよ」


「それを聞いて安心した♪」


「っと! 話がまた反れちゃったけど彼女は身体が身体だから流石に無理はさせられないんだよねえ。 第一そんな事雫さんが反対するだろうし」


「確かに」


「というわけで! 君に白羽の矢が立ったわけだ♪」


「いやいや! だからって勘弁してくれよ! お前等二人に挟まれたら絶対無事じゃ済まないよな!?」


「だからさっき君の力の断片的に確認したんだよ♪ 大丈夫! 少なくとも死にはしないから♪ 大怪我はするかもだけど♪」


「ふざけんな!」


「前金として百万、更にちゃんと見届けてくれたらプラス百万! 命を懸けるには安すぎる金額かもだけど、逆に考えれば僕等の決闘を特別席で見れると思えば悪くないんじゃない?」


「はっきり言うけどこれ程の一戦、もう一生お目にかかれないと思うよ♪」


「ぐっ! それはまあ確かに……」


 別に俺は武術家ってわけではねえが…… 


 そんな俺でも! この一戦は興奮するってのも確かだ!


 まさに世界最強決定戦に数えたっていい位だからな!


 暫し考える黒崎。


 そして――



「―― だー! もう! わーったよ! その依頼引き受けてやるよ!」


「ホントに!? 良かった~♪ こんな話もし京子とかに聞かれてたら絶対反対されるもんね♪ わざわざここまで連れてきた甲斐もあったよ♪」


「ったく、そういう事だったのかよ」


「ま、実際修二とデートしたかったのも確かだけどね♪ 闘う前の集中力の高め方は人それぞれ――」


「今やれるべき修行は全てやった…… ようやく師匠に挑戦できるだけの資格を得たと思ってるよ」


「後は適度にリラックスして自身の力を全てぶつけるのみ――」


「リーズ……」


「聞いたかも知れないけど大戦後、柄にもなく少々荒れてしまってね。 師匠にこっぴどくシメられて、あの時は不甲斐ない姿を見せてしまって、弟子としても反省してたんだ」


「だからこそ! すぐには再戦せずに心・技・体! 特に心を改めて鍛え直す為に山籠もりもして修行してきた――」


「まあ仕事の都合上ちょこちょこ合間を縫って戻ってきたりもしてたけど――」


「後、修行の過程でいくつか山を消し飛ばしちゃって天界の地図を書き変える羽目になったりとかで各方面にめっちゃ怒られたのはアレだったけど――」


「って、おい!!!」


「とにかく! 弟子としてもう師匠に恥はかかせられない…… それに師匠もこれからぼちぼち本格的にアルに最高神としての修行をつけ始めていくだろうし、僕も僕でそれなりには忙しくなる」


「たまにの模擬試合や遊び程度の剣になら付き合ってくれるかもだけど――」


「本気の…… 純粋な真剣勝負ができるのは恐らくこれが最初で最後になるだろう」


「いち武人として…… その頂きに挑戦させてもらう! そして勝つ! 必ずね!」


「それこそが僕をここまで鍛え上げてくれた師匠への恩返しでもあるしね♪」


「リーズ……」


「ふう、わかったよ! こうなりゃとことん付き合ってやるから思いっ切り派手に暴れてきな!」


「ふふ、勿論そのつもりさ♪」


「よろしく頼むね♪ 修二♪」


「おう!」


 こうして二人は事前にイステリアによって近くに用意しておいてもらっていた『ゲート』を通ってアルセルシアの待つ決戦の場へと赴くのであった!

 

 


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