第214話 時々でいいから…… 思い出してあげてほしい……

 正午 五分前――


 閻魔の城 


 天界全域に映像中継され、全民衆がそれに注目していた。


 霧島含む他の死神達は城の警護、他の死神達も各所エリアを巡回、警護しつつ、複数設置されたモニターに注目していた。



 地獄エリア とある一角――



 そこに煙草を吸いながら佇むバゼック――


 そんな彼と一緒に近くの大型モニターに目をやる多数の死神と死者の魂達――


 彼の隣にはセミロングの黒髪をおろした痩せ体形の女性が同じく煙草を吸いながらモニターに注目している。


 人の見た目で言ったら二十代後半か三十代前半位である。



「―― そろそろ始まるぜ」


「ああ」


「―― にしても大王様あの方も大変だね。 現場仕切ったり判決業務やったり――」


「さらには合間もぬって消滅しちまった連中の遺族なんかにも一件一件頭下げに行ってんだって?」


「全く…… 大した漢だよ。 本当に――」


「ああ、全くだぜ! けどそれが大王の旦那って漢なんだよ!」


「なるほどね」


「あんたもご苦労だったな。 俺等が大戦で出張ってる時も含めて上手い具合に馬鹿共をシメたり避難空間の中の一般市民を元気づけてくれたり――」


「今もこうして手伝ってくれたりしてくれてよ――」


「別に。 アタシはアタシのやりたい様にやってるだけだよ。 腐った連中見てると虫唾が走るからぶちのめしただけだし、命かけて戦ってくれてる連中に辛気臭いツラしてるなんて失礼だから信じてやんなって発破かけたりしただけだよ」


「今やってる馬鹿共の監督だって刑期が短くなるからやってるだけさ」


「くく、素直じゃねえなあ!」


「うっせーよ!」


「…… あの坊やも参加してたんだってな――」


「! はは! かつての総司令殿を坊や扱いかよ!」


「知らないよ。 そんなの。 アタシにとっちゃ知り合いが拾った時の生意気なガキンチョにしか過ぎないからねえ……」


「ただまあ…… 『拾ってきた奴』同様面白そうな奴ではあったから気になってただけさ」


「なるほどね。 にしてもこの短期間で独自にそこまで調べてたのは恐れ入ったがな」


「生前下界でも情報収集はそれなりに得意だったってだけさ。 それに地獄じゃ結構噂になってたからね」


「けどまさかあの子が元総司令だったなんてねえ…… つか前にも言ったが、そういうのアタシみたいなのに教えちゃまずいだろ! トップシークレットなんだろ?」


「まあ、そこんところは大王の旦那はアンタの事信頼しているみたいだぜ。 俺も人を見る目はある方だしな!」


「それに万が一妙な事口走ったら俺がアンタを始末する事にもなってるんでな! まあその必要はねえだろうけどよ」


「ふっ! おっかないねえ――」



 大物になるとは思ってたが、こんなに早くくたばって、おまけに天界こっちでも解決業務をやっちまうなんてねえ……


 しかも世界を救うなんて大仕事をやってのけちまった……


 大したもんだよ…… 本当に――


 しかし…… 良い漢になったかと思えばまた簡単に消えてくれちゃって――


 ちと残念だが…… 縁がなかったと諦めるか――



「おっ! 出てきたぜ!」


「!」



 閻魔の城 バルコニー


 そこにはマイクを持った大王が現れた。


 天界中が一気に歓声を上げたが少しして大王がそれを鎮める――


 そして天界の全住人が大王の言葉に耳を傾ける――




「諸君! 本日は忙しいところ、この様な場を設けさせてもらった事に感謝する」


「当代閻魔大王 ユリウス・アルゼウムだ」


「大戦が終結して二ヶ月、痛ましい傷跡が残った天界の復興に日々尽力しながらそれと同時に通常の治安維持業務、治療業務や下界からの死者の魂の案内業務等も同時並行で行ってくれている皆には感謝の気持ちで一杯だ」


「今日この様な場を設けさせてもらったのは他でもない、此度の大戦を乗り切るのにその尊い魂を犠牲にしてしまった英雄達の慰霊碑が完成した事を伝える為だ」


 大王がそう言うと彼の近くにあるもう一つのサブモニターから巨大な慰霊碑が写し出される。


「場所は天国エリアの北部…… ポイント三百二十一区画の一角を整地して設置させてもらった」


「比較的騒音には悩まされる事もなく、そして逆に静かすぎる程に辺鄙な所でもないので彼等の魂が安らかにかつ寂しさ等も感じずにいられればとのせめてもの私の判断でこうさせてもらった次第だ」


「ただの自己満足かもしれない…… だが彼等に少しでも報いる為に私なりに考えた答えの一つでもある」


「皆にはドタバタしていてちゃんとした報告は完成後の事後報告になってしまった事…… 深くお詫び申し上げる」


「すまなかった――」


 頭を下げる王の姿に各地からどよめきが起こるもその真摯な姿をしっかりと見届ける天界の者達――


「だがようやく完成した…… ここで皆には私と一緒にここに眠る英傑達のその誇り高き魂の冥福を祈ってもらいたい」


「準備はよろしいか?」



「全員…… 黙祷――」



 大王の声に従い天界中の住人が祈りをささげる――







































「ありがとう―― 諸君」


「人は時が経つと過去の痛みはその記憶と共に風化していく」


「世代が移ると特にそれは他人ごとの様にもなっていきやすくもなる」


「良い意味でも悪い意味でもだ」


「勿論、過去を乗り越え未来を進む為に痛みを忘れるのは時には必要な事だ」


「だがきつい事を言ってるのを承知で! それでもどうか頼みたい!」


「私達の現在は彼等のこうした犠牲のもとで成り立ってしまっている事をどうか忘れないでほしい――」


「そうして各々がそれを胸に刻み込んでおく事で一つでも多く、未来で痛ましい事件が起きない様にする為に。 そして――」


「どうか彼等との思い出、絆、友情、そして愛を……」


「どうかいつまでも諸君らの胸に留めておいてもらいたい……」


「逝ってしまった彼等の事を忘れてしまったら彼等は本当に消えてしまう――」


「逝なくなってしまった者達は生きている者達の心の中でしか生きられないのだから――」


「逆に言うと我等がいつまでも彼等の事を! 思い出を! 覚え続けている事ができれば!」


「彼等は我等の中で生き続ける!」


「もしそれでも! 忘れてしまう事があるというのなら!」


「時々でもいい…… 彼等の事…… 思い出してあげてほしい――」


「その上で! 彼等にしっかりと胸を張れる様! 我等も前を向いて歩いていこうではないか!!!」



 そう、大王の訴えと共に!


 天界中からワアアアア!!!っと大歓声が巻き起こる!!!


 離れた所から見守るアルセルシア、イステリア、そしてリーズレット――



師匠先生達は顔を出さなくていいの?」


「迷ったがここは奴に任せる事にした…… もう奴は一人前だしな」


「ええ。 それに士気を上げる為に大戦前は姉様も加わって皆を鼓舞したりもしましたが本来上級神はあまり積極的に出しゃばったりはしない方がいいでしょう」


「その通りだ。 なるべくなら自分達自身で乗り越え、そして前へと進んでもらいたいからな。 それに――」


「我等の言いたい事は全部―― 奴が言ってくれたしな――」


「ええ。 本当に――」


「確かにね♪」


「ふふ♪ やっぱり僕の兄上は凄い人だなあ♪」



 とある治療区画―― 病室の一角――



 備え付けのモニターで彼の姿を見守るはエレイン――



「やれやれ…… 地位はともかく、子供の頃は人として対等な存在として負けてるつもりもありませんでしたが……」




「どうやら盛大に差をつけられてしまった様ですね――」



「立派な王になられましたね…… ユリウス――」



 こうして以前以上に天界は一つにまとまりそして! 街並みも以前の姿を取りもどすべく皆で奔走していくのであった――

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