終章(エピローグ) そして前へと歩んでいく……
第213話 あれから……
あれから二ヶ月が過ぎた――
二月二十一日 午前十一時過ぎ――
カタカタカタカタ――
自室でパソコンと向かい合い文字を打つ霧島。
今日は午前休でその時間を利用して今回の大戦について、そしてあの後…… 黒崎が消えてから何があったのか彼はその内容を文章とデータに残す作業をしていた。
仕事でもなんでもないが彼的には決して忘れてはいけないものだと考えたのか、それとも何らかの形として残しておきたい気持ちがあったのか、あるいはその両方か、気付けば彼は今までの出来事をまとめていたのである。
そしてその文章にはこう書かれていた――
あの後、僕達は迎えの飛行船に乗せてもらい、まずは全員最寄りの空きのある治療区画へと運ばれた。
全員やせ我慢していたが相当な傷を負っていた為、そのまま入院。
大王様とリーズレット様はあまり休んでいる暇はないとの事で三日間だけ入院、治療を集中的に受けた後、ある程度回復した段階ですぐ様飛び出していってしまった。
アルセルシア様も『災厄』との決戦の前にアルテミス様とも死闘を繰り広げていた為、二人より四日遅れで退院、そのままイステリア様や閻魔一族と連携し、終戦処理へと向かった。
ほんと…… とんでもなくタフな三人である。
いや…… 明らかに無理はしているのだろう……
あれだけの激闘を繰り広げた後にも関わらず、やはり天界の管理者として、あの人達が前に出て引っ張っていかないといけないというのは僕達も重々承知していた――
申し訳ない気持ちで一杯だったが僕等には止める事はできなかった。
それから僕達は個人差があったが、全員三週から六週間程の入院を余儀なくされた。
大王様達も含めて本当は最低でも半年は入院が必要だとそれぞれの担当治療士に言われたのだが、終戦の後片付けに一人でも多くの人手が必要なこの状態――
僕等だけ呑気に寝ているわけにはいかないし、もっと重症の患者もいる。
その為のベッドも空けたかった気持ちも強かった為、僕等は治療士達と交渉。
合間をぬって定期的に通院する事、体調が悪くなったら無理せずすぐに知らせる事を条件に半ば無理矢理にだが、何とか退院させてもらう事に成功した。
重症患者といえば僕等の身内の中にもそれは出ていた。
まずエレインさん。
僕等も入院中に大王様から聞かされた時は驚いた。
まさか彼女がそれ程厄介な相手とやり合い、危険な状態に陥っていたなんて――
さらに他の治療士から彼女のその後の容体に関する情報も入ってきた。
最高神様達とマクエルさんのおかげでなんとか一命はとりとめたものの、未だ意識は戻らず……
それと内臓と両手両腕の損傷がかなりひどいらしく、最悪の場合、内臓はいくつか人工物、両腕も最悪切断して義手を取り付ける手術になるかもしれないとの事……
勿論、なるべくそうはさせない様に全力を尽くすとの事でしたが、一応皆様も覚悟しておいてほしいとの事……
あの時一緒に聞いていた大王様の表情は今でも忘れられない……
本当は今すぐにでも会いに行きたいでしょうに……
でもあの人は……
* * *
「…… 今…… 僕が彼女の傍にいても助けにならないし、彼女自信、この状況で僕が彼女の傍に行く事を望まないだろう」
「それどころか彼女の意識がもどったら『大王としての自分の責務をほっぽり出して私のとこなんかにきて…… ぶっ殺されたいんですか!』って言われて一生口をきいてくれなくなるだろうね」
「大丈夫…… 彼女の強さは僕が一番よく理解している」
「彼女は負けない…… 絶対にだ!」
「だから僕は一刻も早くこの事態を落ち着かせ彼女のとこへと行ける様に最善を尽くすだけさ」
* * *
僕等に気を遣って気丈にかつ優しくそう言ってくれていたけど、本当は大王様が辛いのはひしひしと伝わってきた。
それに先代大王様も僕達には詳細は聞かされていないが今は安静にしているらしい……
勿論、大王様やリーズレット様は詳しい状況は知っているのだろうけど大丈夫だから安心してとだけ僕等には言うばかりであった。
皆大変な中、僕達もいつまでも寝ていられない!
気張っていかなくては!
それから
僕も今はあの二人のしぶとさを信じるしかない!
今は各々が各々できる事をするまで!
そしてそんな僕達以外にも怪我人の搬送や瓦礫の撤去等は生き残って動ける治安部だけではなく、ぐの丸さんとこの犬狼部隊も積極的に協力してくれた。
さらには彼等は今回避難させていた大勢の獣や動物達をも呼び寄せてゴールマン司令を中心に連携をとり、色々動いてくれているとの事。
零番隊のメンバーも人手が足りないところを随時飛び回ってくれていた。
そして怪我人の治療に関しては治療士だけでなくレティさんと諜報部の久藤室長が魔女の里から治療に特化した魔女を十数名派遣。
特に瘴気による傷は通常の治療術より魔術の方が効果が高いのもあって不足している現場へ送り込んでくれていたのだ。
治安部や治療士以外にも皆、できる事を最大限やってくれている。
全く、頭が上がらなくて感謝しかない――
それからイステリア様も魔女達や治療士達が状況に応じて優先する区画へ順次、行き来できる様、幾つもの『
おかげで効率的かつ最速で負傷者の治療や手術が行えていた。
京子さんもその治療士としての圧倒的な腕を存分に振るい、次々と怪我人を治していっている様だ。
彼女も相当、慌ただしく動いている様である。
…… ショックでない筈がない……
ましてや彼女は二度も黒崎さんを失っている……
でも彼女は立ち止まらない事を選択した。
治療士として――
強い人だ……
でもだからこそ心配にもなる……
今は皆忙しくて中々会えずにいるけど今度カエラさんと一緒に会いに行こう……
それから通常の死神業務も少しずつこなさなければならない。
下界から死者の魂の案内――
だが滞っていた死者の分の判決業務も大王様はこなさなければならない為、今回は異例中の異例だが、大王様と同じく『眼』の力を持っているアルセルシア様やイステリア様も大王様と交代で判決業務をこなす事になった。
勿論、終戦処理の各区域への指示出しも含めながらだ。
さらにこれも過去、例をみない事だが大王様権限で地獄行きを言い渡されていた死者の魂達――
その中から、ある一定まで見込みのある者達に厳選して、天界の復興に貢献してくれた者にはその貢献度に応じて地獄の収容期間の短縮や他にも見合った報酬等を約束する旨を伝え、彼等をも人手に回す事にしたのだ。
それ程までに天界の復興には手が足りない程の被害状況であったのだといえるのであるが……
とはいえ大王様もホント思い切った事をするなぁ。
だがまあ、地獄行きの魂の者達でも、おじいちゃんの例もあるし、生前罪を犯した者でもある程度改心した者や、そうでなくても自分達なりの筋をしっかりと通す罪人もいる。
っていうかそれを言うなら黒崎さんもぶっちゃけかなりグレーだったし……
そういった筋を通す事ができる者達に限って持ちかけた取引だろうけど……
それに地獄には普段から零番隊のバゼックさんていう方がよく顔を出してはちょこちょこ説教したりシメたり逆によくやってる人達には真摯に対応したりと割と面倒見たりとしていたみたいだ。
そういうのもあってか地獄の死者達も結構改心している人達は割と多いとの事。
大王様いわく、顔はヤクザそのものみたいだけどかなり漢気があってまめな性格してるから、罪人や悪人からも結構評価されたりもしてて、今回そのバゼックさんも複数名連れて監督しているみたいだからそういう意味では少し安心かもしれない。
それに…… 詳しくは知らないけど今回の大戦に乗じて脱走して下界に逃れようとしたり避難区域で弱者に暴行しようとしたりしていた不届き者もやっぱり一定数はいた様だがそいつらを根こそぎぶちのめしつつ、避難所の不安がってる民衆を元気づけてたりしてくれてた死者達もいたらしい……
しかもそのグループのリーダー格は地獄で罪を償っている女性だとの事らしいのだ。
聞いた話だと、随分豪快極まりない方みたいで、あの大王様も一定の評価をしている程の方みたいだ。
その人も今回の取引に応じつつ、なんとバゼックさん同様に他の死者達の監督にも加わっているみたいだから大王様いわく大丈夫との事だ。
…… それって大丈夫なの?
まあ、黒崎さんやおじいちゃんの例もあるし、大王様の眼に狂いはないだろうから大丈夫だと信じよう……
そんなこんなで各所で色々あった訳ですが……
大戦終結からひと月あまり過ぎた頃――
なんと大王様が倒れられた!!!
この事実は公にすると天界中に動揺が走り! 最悪治安にも影響を及ぼすから僕を含む限られた者達にしか明かされていない情報なのだが……
アルセルシア様曰く、どうやら『印』を最大パワーで解き放った反動との事――
幸い『印』そのものには大王様自身の在り方は認められていた為、単純にただの消耗という形で反動が現れただけとの事だった。
それでも大王様は昏睡状態に陥って熱も冷めない日々が続いたが、なんとか十日間程で目を覚ましてそれから四日後にはまた現場の指揮と大王としての判決業務にもどったのであった。
いやいやいやいや!!!
無理しすぎでしょ!!!
とはいえ、本っ当~~に大事にならなくてよかった!
あの方に、もしもの事があったらそれこそ天界は終わりだ!
もう少し落ち着いたら無理矢理にでも休んでほしいものだ。
今度皆と相談してみよう……
そうして慌ただしく、また二週間程過ぎた今日……
嬉しいニュースが一つ舞い込んできた!
なんとエレインさんの意識が回復したとの事!
マクエルさんによると、正確には二日前には意識がもどっていたみたいだったが、中々大王様や女神様達とも連絡がとれなかったのもあり、容体を安定させる為、治療に専念していたとの事。
今は大分安定していて、彼女の凄まじい回復力もあってか少しなら会話も可能なレベルにまで回復したとの事!
本当によかった!
あの人も頑張っている!
僕等も頑張らないと!
そして今日はもう一つこれから大事な事があるのだが……
「おっと! もうこんな時間か」
そろそろ僕も出るか――
こうしてパソコンを閉じ、出かける準備をする霧島であった。
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