第215話 様々な変化……
「ふう―― 今日も特に異常はなく平和ですねえ――」
本日は天界の担当エリアの巡回が仕事の霧島。
天気も良くここ暫くは何か大きな事件が起こるわけでもなく、こう言ってはなんだがまったりと巡回している霧島。
街から笑顔が溢れている。
本当に平和だ――
くどいかもしれないけれど天界を守れて本当に良かったと思ってる――
彼は巡回しながら大王の演説と慰霊碑への黙祷……
それ以降の出来事を振り返る形で思い出していた――
あの黙祷から暫くして少し天界が落ち着いた頃……
タイミングを見計らって、アルセルシア様が最高神様が天聖樹へと還った事を天界中へと知らせた。
ただ僕等はあれから一切最高神様が姿をお見せにならなかった為、薄々そうなのではないかと察していた……
だが怖くて聞けなかった……
神が…… 天界の父たる絶対の存在が逝なくなったと聞くのが……
だから実際、言葉としてハッキリとその事実を伝えられたのは自分達の想像を遥かに上回る程に辛かった……
だが、当然だが全く予期していなかった民衆はもっとであった!
そこら中から絶望とも悲しみともとれる騒ぎがあり、天界の至る所で涙が流れたがアルセルシア様はこう告げた。
* * *
「皆の者! 安心しろ!」
「父上はあくまでも天聖樹へと還っただけだ!」
「父は言った! いつか神がまた必要となった時! 姿をまた現すだろうと!」
「だから私達は私達だけで! いつか父上がもどられた時! ガッカリされない様! 胸を張って出迎え様ではないか!」
「これが父上が繋ぎ! 我等が作った未来なんだと!」
「!!!!!!!!っ」
「オオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
* * *
アルセルシア様のひと言で僕等は目が覚めた。
気休めかもしれない……
もどってくるなんて事ありえないかもしれない……
けど! それでも!
そう! 立ち止まってしまったらそれこそ最高神様含め! 逝なくなってしまった人達に失礼だ。
皆は悲しみを乗り越え、再び天界の復興に向けて汗を流し始める事にしたのだ……
そしてそんな大戦終結から百五十年余り――
天界はかつて負った傷跡も順調に回復し、多少のトラブルは時折発生しつつも、天界の住人達は多くの犠牲のもと掴み取った、この尊い平和を大切に噛みしめ、過ごしていた。
最高神様ができる限り浄化してくれたとはいえ、それでも瘴気がそれなりに強く残っている箇所が多数あり、それらのケアや損壊した建物の再建等、大王様の演説、慰霊碑への黙祷から数十年以上かけて浄化、修復していった――
それらを最優先しつつ、大戦で失ってしまった多くの治安部の戦士達。
その戦力や各隊のバランスを考慮して大規模な治安部再編成も成されていった。
その中でも特に大きな動きがあった。
なんと零番隊の解散である!
基本的に彼等は諜報部の一部署ではあるがその存在自体が公にはされていない存在だ。
今回や前回の大戦の様な極めて大規模な事件に限ってその存在を必要に応じて表に出し、それ以外は基本、その存在を隠し、表沙汰にできない超極秘任務等を中心に影になって対応していくのが彼等の主な仕事――
そうする事によって敵対する勢力や脅威等に対して、初手やそれに近い手で死角から動く事ができるいわば天界における切り札的存在であり鬼札的存在でもあるからだ。
だけど今回の大戦で一度その存在がハッキリと露呈されてしまった為、そしてまた何か大事件が起きた時の為、一度その存在を消す必要があるとの大王様、そして女神様達の判断であった。
…… まあ、そうと見せかけ、それが
ただ今回は本当に解散しているのかもしれない。
その根拠の一つが
先の戦いで負った傷と禁忌とされる魂魄の燃焼による身体の影響は計り知れないとの事。
強靭な生命力をもつ二人だからこそ、周りにそうは感じさせないが、今後は治療に専念しつつ余生を過ごしてほしいとのレティからの申し出であった。
二人もそれをのみ、今後はゆっくり過ごす事にするみたいだ。
まあ、たまに若手の訓練要請とかきたら状況によっては引き受けてもいいって言ってたけど……
全く…… 玄孫としてはいい加減に落ち着いてほしいものなんだが……
そしてこれは僕も知らなかったんだけど、基本的に零番隊は一騎当千の猛者達による十名から構成される部隊だと昔からの仕来たりで決められているとの事。
なるべく小回りがきく様、少人数で――
それでいて、そのあまりに強大すぎる力を持つ者達が一部隊にそれ以上集中すると上の方々がコントロールする事が難儀なものがあるのと、色々な意味を含めて暴走してしまった時、極めて危険な状態になると判断されているからだ。
勿論、彼等の事は天界の誰もが信頼している。
だが状況が変われば個人の正義も形が変わる事がある。
その本質自体は何も変わってはいなかったとはいえ、今回は壁として立ちはだかったゼクスさんやレオンさん、そしてアルテミス様の様に……
というわけで、二人も抜け番が出てしまった以上、そして大きな戦いが終わった今、隊は本当に解散しているのだろう――
メンバー達はそれぞれ適材適所で異動となった者、久々にゆっくりしたいと思い切って退役した者と様々であった。
それから変化と言えばもう一つ!
諜報部 室長である久藤雫さんの退役である!
久藤室長の事はおじいちゃん達と上司部下の間柄であると同時に親友でもある為、僕も昔紹介された事があって、四、五回程面識がある程度だが、とんでもなく優秀でかつ高い戦闘能力の持ち主である!
以前稽古をつけてもらった時、まるで相手にならなかったのを覚えているし、それ以外にも確かな知力、統率力、状況判断、処理能力にカリスマ性等、全てのパラメーターが極めて高い水準で備わっていて、まさに諜報部の総大将といった感じの人であった。
だからこそ、まだお若いのに退役希望を出された時は治安部の誰もが驚いた事だろう。
僕も詳しくは知らないが、レティさんとは浅からぬ因縁があるみたいで、天界の復興がある程度目途がついた状態までもってこれたら彼女の残りの時間を共に歩みつつ、魔女としても鍛え直したいとの申し出があったみたいだ。
そしてその目途もつき、でも退役後も全面的に天界の復興含めて何かあったら可能な限りバックアップはしてくれるみたいです。
彼女も彼女なりに色々思う所があったみたいですね……
総合的な能力を考慮して最終的には諜報部の全会一致でマクエルさんが後任を務める事になったみたいです。
他にも第七支部司令兼解析班責任者のキールさんや副室長のジークさんといった普段久藤室長の副官を務める事も多いこの二人も候補にあがったのですけれど、両者共に自分達は器ではないと揃ってマクエルさんを推薦。
それとは別にリーズレット様あたりも一応後任候補にあがってはいたのですが……
勿論! その優秀さと常識外れの戦闘力は誰もが認めるところなんですけど……
彼女を室長にすると色々な意味でなんというか……
滅茶苦茶好き勝手にやらかしそうで周りが生きた心地がしなさそうというか……
マクエルさんが傍で補佐役兼女房役で抑えてくれてたからこそ、零番隊の総長も任されていたみたいなので、そういう意味でもマクエルさんに今回の話がいったみたいです。
それに詳細はわかりませんが、リーズレット様はリーズレット様で実は大王様から『別の要請』が入っているとの事で、できればそちらをお任せしたいとの話でもあったのだが……
なんだろう…… 別の要請って?
それはそうとこれもリーズレット様の話なんですが……
これはあくまで噂レベルで真偽の程は確かではないのですが、大戦が終わってから何やら色々ととんでもない事を巻き起こしてたとの噂が……
時折彼女を見かけた人達の話でも、たまに殺気立ってたとか、怖い目をしてたとか……
アルセルシア様やセシリアさん、それにマクエルさんとも色々あったとか?
前にセシリアさんが言っていたけど……
* * *
「総長も色々思う所があるみてーでな…… まあ、暫くの間は多めにみてやってくれや」
* * *
なんて事を言っていましたが……
その時、セシリアさんが滅茶苦茶ボロボロで傷だらけな姿をしてましたけど……
何があったの!? ホントにっ!?
詳しく聞きたいけど……
怖くてとてもじゃないけどそれ以上は聞けない!
やっぱりリーズレット様が絡んでくるとなんか怖いなあ……
マクエルさんはマクエルさんで室長後任の件は『これ以上忙しくなるのはごめんだ!』とか『そろそろ隠居してゆっくりしたい!』とかボヤいていましたが……
『普段から滅茶苦茶する総長から解放されるのなら!』 という事と最終的には久藤室長からの強い希望でマクエルさんが承諾したといったところで話が落ち着いた。
まあ、久藤室長曰く、最も理想とした後任者との事なので一安心との事でした。
それから引き継ぎ等、諸々含めて完了した後、正式に彼女は室長の座を引いたみたいです。
マクエルさん…… まだまだ楽はできなさそうですが…… 頑張って下さいね!
それから他にもまあ~~~~!!!!っ
色々ありましたが!!!
まあそれは今回はいいでしょうかね!
そんなこんなで目まぐるしく天界を覆う状況も変わってきてますが……
僕等はちゃんと…… 皆元気でやってますよ。 黒崎さん――
「―― やっぱり
「っと、いけないいけない! 『来月には僕も別の仕事が入る』んだ! 呆けてないで気を引き締めないと!」
「―― って、ん?」
「!!!っ なんだ? この気配は?」
突如として現れた謎の気配!
それを察知する霧島!
「どこか捉えどころのない気配…… だが明らかに只者ではない様な……」
「それに…… どこか覚えがある……」
「とりあえず悪意はなさそうですが……」
遠いな、場所は…… 閻魔の城の方角?
いや…… その更に奥地の方角?
「なんだろう…… 凄い気になる……」
「一応、確かめておくか――」
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