第205話 ゼクスとミリア……

 自分の上着の内ポケット、外ポケットをガサガサと探るゼクス。


 それに気付き、声をかけるレオン。


「ん? どうした? ゼクス?」


「いや…… ちっ! やっぱ煙草が消えてやがる! 流石に『災厄』の中から出てきた時に一緒には再生されなかったか!」


「煙草? まあ、霊的物質でもなんでもねえしな。 当然だろ」


「ああ…… まあ、しゃーねーか……」


 最期に一服を……


 だがそれが叶わず、少し残念がるゼクスであったがそこに黒崎も声をかける。


「―― ちっと待ってろ」


「?」


 すると黒崎はPSリングから自身の煙草とジッポライターを取り出した。


「俺もこの依頼を達成できた時の自分へのご褒美用の為に何本か残しててな―― 好みの味かは知らんが、俺ので良ければ一本やるよ」


「マジか! サンキュー! いただくぜ!」


 未だ立ち上がる力がもどっっていない為、座って休んでいる黒崎の方へゼクスの方から歩み寄る。



 煙草をくわえ、火をつける二人――


「というか黒崎さん。 そんな身体で煙草なんか吸って大丈夫なんですか? 相当体力を消耗しているみたいですし、それにその髪の色……」


「真っ白…… もう元にもどらないんですかね?」


 黒崎の体調を心配する霧島とカエラ。


「ま、こん位の我儘は許してくれよ。 一本だけにしとくからよ。 それと髪の色はもうもどらねーだろうな…… 別に今更どうでもいいけど……」


「どうでもって……」


「もう! 一本だけですからね! 一息したら帰還して即! 治療室行きですから! まあ、私達もそうなりそうですが……」


「…… そうだな……」


「それはそれとして、後三本…… 俺等だけで『全部吸ってる時間もねー』し、他に吸いてー奴がいたら構わねーぜ」


「僕は煙草は嗜む方ではないから遠慮しておくよ」


「僕もいいや♪ 未だに煙草の何がいいのかよくわからないし♪」


「なら私がもらおうか」


「俺もいただくぜ! いいか? アルテミス?」


「構いませんよ。 レオン。 好きになさい」


「せっかくだ…… 私も頂こう」


「父上!?」


「って、最高神様もお吸いになるんですか!?」


「意外すぎる! っていうかいいんですか!?」


「はは! まあイメージ的にはまずいだろうからこれは見なかった事にしておいてくれ」


「は、はあ…… わかりました……」


 苦笑いする霧島とカエラ。



 結果、黒崎とゼクスの他、アルセルシア、レオン、最高神も加わり、黒崎の周りで煙草を吸う事になったのであった。




「―― なんというか…… こうして改めて見るととんでもない面子で煙草吸ってますね……」


「確かにな。 かつての総司令殿に雷帝…… 鬼神に更には女神様と最高神様まで吸ってるからな――」


「敵同士だったのも混ざっていますしね。 いいんですけど――」


 そう言ってじとーっとゼクスの方を見るセシリアとケイン。

 


「ハッ! 細けー事気にすんな! 最期の一服くれー大目に見ろや!」


「そういうこった!」













「…… 悪くねー味だな――」



「そいつはなにより――」



 一服して束の間の休息をとっている五人と他の面々――



 その時!



 大王の通信機が鳴り響く!


 表示されている通信先を確認する大王。



「母上からだ」


 そのまま通信に出る大王。


「はい! こちらユリウスです」


「ユリウス! よかった! 無事だったのね! 黒き塔付近の全ての霊圧反応が消えたと思ったら、今度はその辺り一帯の磁場が乱れているのをレーダーが感知したから…… 一体何があったの!? 『災厄』は!?」


「ええ。 連絡が遅くなって申し訳ありません。 詳細は後程、詳しく報告しますがとりあえず全ての決着を着ける事ができました…… ええ…… ええ…… ! 父上が…… なるほど……」


「それでは母上、まず各地に終戦の知らせと、我々がもどるまで、全体の指揮をお願いしたいのですが…… ありがとうございます。 それから我等は自力で帰れる力も残っておりません故、一隻、迎えの艦もお願いできますか? ええ、そうです。 黒き塔のあった場所です。 はい…… はい…… ありがとうございます。 お待ちしています」



「それと母上…… その前にもう一件、母上にご報告したい事が――」


「ええ。 『彼』がそこにいるんでしょう…… 代わってちょうだい…… ああ、でもまずは女神殿達や最高神様達にお願いするわ」


「わかりました。 今代わり…… いや、それでしたら映像通信に切り替えた方がよろしいでしょうか?」


「ええ、そうね。 それでお願いするわ。 あっ! ビデオ通話ではなく霊写モードでお願いするわ」


「かしこまりました」


 霊写モード――


 現行の世代機から搭載されている機能の一つで、自身の霊圧反応を相手方の通信機へ送り合い、それぞれ半径二メートル内の映像を送り合う事ができる通信機能の事である。


 早い話が、自分の全身を移した一種のホログラム映像を送り合うビデオ通話の様なものである。


 通常のビデオ通話より、しっかりと相手に姿を見せ、挨拶したい時等に使う機能でもある。


 互いに通信機を操作する二人。


 そしてお互いの通信機が光り輝き! それぞれ目の前へと通信機をかざす。


 モニターがある面から、これも前方二メートルの場所へと交信した映像が現れる。



 最高神達の前に姿を現したミリアのホログラム映像――



「最高神様。 そして女神の方々…… よくぞ…… よくぞ永らく天界を蝕んでいたその元凶を討ち滅ぼして下さいました。 我等治安部の力不足故、神々たる貴方方の手を煩わせてしまった事に深くお詫び申し上げます。 それと同時に世界を救う為にご助力頂いた事に感謝を――」


 そう言って深々と頭を下げるミリア。


「頭を上げなさい。 ミリア君…… 世界の存亡がかかった大事件だったのだ。 そこに神も治安部も関係ない。 各々が各々のできる事を精一杯やった末で勝ち取った勝利だ」


「その通り―― それにこの戦いの発端は元を辿れば我等も含めた天界の管理者達全員の目が行き届かなかった事が原因でもある。 我等も無関係ではない。 姉者とレオンの件もあったしな――」


「ええ。 そちらこそ、我々の留守の間をよくぞ凌いで下さいました…… 心より感謝を……」


「お三方共…… 勿体なき御言葉…… 感謝致します…… それと――」



「お久しぶりです…… アルテミス様…… レオン殿も……」


「おう! 久しぶりだな! ミリア!」


「お久しぶりです。 ミリア嬢―― ふふ、また一段とお綺麗になられて…… 成長した貴方の姿が見れて嬉しい限りです」


「そんな! 勿体なき御言葉! アルテミス様の方こそ、昔と変わらぬ美しさ…… またこうして貴方方にも再びお目にかかれて光栄の限りです……」


「私もですよ。 そして貴方もまた、よくぞ此度の戦いを乗り越えて下さいました…… 礼を言います。 ありがとう。 ミリア嬢――」


「アルテミス様…… ありがとうございます……」


 この三人もまた、親しい間柄での久々の邂逅――


 感慨深いところもあるのだろう……


 互いに顔が見れてホッとした様な様子であった。



「ふふ、 正直貴方とも話したい事は沢山ありますが、残念ですが、もう時間がありません――」


「それに貴方は私なんかよりも最期に話した方がいい相手がここにいますしね。 ねえ、レオン?」


「ああ、 そういうこった! これで最期なんだ…… 顔…… 見してやれよ……」


「ええ。 ありがとうございます」


「ちっ…… 余計なお節介まわしやがって……」


「ちょっと! 聞こえてるわよ! 全く!」


 そういってミリアの前に姿を現すは……


 ゼクス。




「久しぶりね…… ゼクス……」


「ああ…… そうだな…… ミリア……」



 何かしらの因縁があるらしい二人――



 その二人が今、互いに向き合う……



 久々にして最期の邂逅…… そして……



 ちゃんとした別れの時を迎える為に――




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