第204話 出会いに感謝を……

「ひどいです! アルテミス姉様!」


「自業自得ですよ。 イステリア」


 先程のアルテミスとレオンのあられもない姿を激写したイステリアの通信機を破壊しつつ、そこら辺に落ちていたが大きめの瓦礫でお仕置きをしたアルテミス。 


 結果……


 イステリアの頭に思いっきり瓦礫がぶっ刺さっているのであった……


「というかお前も大概タフだな。 イステリア―― 頭に瓦礫が刺さってるぞ」


「うぅ…… ちょっとした出来心で写真を撮っただけなのに…… 相変わらず冗談が通じないんですから!」


「ふふ、まあ元気そうでなによりですよ。 イステリア」


「というか絵面が軽くホラーだから頭のそれ抜くぞ」


 確かに頭に瓦礫が突き刺さって血が滴り落ちているのはもはやギャグかホラーでしかない様相であった。



 ブシュウウウウウ!!!!!


 瓦礫を抜かれ、頭から血が噴射するイステリア!


「!!!!っ 痛い!!!」


「やれやれ…… 全くお前達ときたら……」


 呆れた様にすぐ様、最高神はイステリアの頭に治療術をかけ、その傷はみるみるうちに塞がっていく。


 流石父親といったところか、娘達の喧嘩の処理には慣れている様子であった。



「はっはっは! いや~仲良き事は美しきかな! 素敵な三姉妹じゃないか! 千年振り以上の邂逅なんだ! これ位のじゃれ合いはアリだろう!」


「じゃれ合いと言うか軽く殺人未遂になってますけど……」


「女神様ともなると色々な意味で規格外ですね」


 こちらも呆れた…… というかドン引きしているセシリアとケイン。


「そう? 僕等兄妹だってたまに剣で死合ったりして楽しんでるし、これ位、世の兄妹、姉妹のスキンシップとしては普通でしょう♪ ね♪ 兄上♪」


「いや、全然普通じゃねえよ!」


「総長達だけですから!」


「はっはっは…… うん、妹よ! やっぱり今後はもっと穏やか~な方向性のスキンシップを兄は望みたいな! うん! 絶対その方がいいな! 絶対に!」


「え~! なんで!? 楽しいじゃん!!」


「いやいやいやいや!!!」


 定期的に妹に生死問わずデッドオアアライブの稽古に付き合わされるのにウンザリしているといった様子の大王――


 まあ、リーズレット級の使い手が満足する相手等そうはいないし、彼女は少しブラコンを拗らせているのもあるので、兄であるユリウスの苦難はまだまだ続きそうなのではあるのだが……



「オッホン! まあそれはそうと…… リーズレット――」


「! うん♪ そうだね。 行こうか――」


 ここで無理矢理話題を変えつつ、そろそろ一度しっかりと挨拶をと大王はリーズレットにそれを促す――


 そして彼女と共にアルテミスの前まで行き、その場で跪き、挨拶を交わす――



「遅ればせながらお初にお目にかかります。 アルテミス様。 私、閻魔一族にして先代閻魔大王 ヴァラン・アルゼウムが嫡男! 当代大王の任を授かりましたユリウス・アルゼウムと申します」


「同じく閻魔一族 ユリウスが妹 天界治安部 零番隊 当代総長を務めておりますリーズレット・アルゼウムと申します」


「かつてその身を犠牲にし、天界をお救い下さり、今日こんにちまで『災厄』をその御身に封じていて下さった伝説にして至高の女神殿にお会いでき光栄至極に存じます」


「それと同時に我等の力不足故、その誇り高き魂と御身の解放が遅れてしまった事、どうかお許し頂きたい」


「!」

「!」

「!」

「!」

「!」


「おいおいマジか!!! 大王様はともかくあの総長が頭下げてまともな言葉遣いをしているぞ!」


「あんな喋り方できるんだな!」


「まあ、普段はアレですが総長も時と場を弁え、ちゃんと筋は通す方ですからね。 普段はアレですが――」


 小声でひそひそ話を交わすセシリアとケイン。


 一方、カエラと霧島も――


「どっ! どうしましょう! 霧島君! よくよく考えたら私、先程伝説の女神様にツッコミを入れてしまいましたけど!!!」


「ま、まあ寛大な御方だと思うので多分大丈夫だとは思うんですが……」


「でっ! でも!!!! なんか前に黒崎さんがキレやすいとか言ってませんでしたっけ?」


「だっ! 大丈夫ですよ…… 多分」


「多分!? 多分じゃ困りますよ!!!」


 こちらも小声でひそひそ話をしている――


 今更ながら焦るカエラと、何とか落ち着きをとりもどさせようとする霧島。



 そしてアルテミスや閻魔達はというと――



「おもてを上げなさい。 二人共――」


 顔を上げる閻魔兄妹――


「女神が長女 アルテミスです。 二人共、大儀でありました。 よくぞ此度の苦難を乗り越え、この世界に未来と可能性を示してくれました」


「礼を言うのは寧ろこちらの方…… 本当に…… ありがとうございました」


「勿体なき御言葉――」

「痛み入ります――」


 言葉と共に優しき笑みも交わすアルテミスとそれに応える閻魔兄妹。


 そしてここでもう一人…… アルテミスの前に歩み寄る影が一つ――


「では我も…… お初にお目にかかる。 アルテミス殿。 貴殿が妹君、アルセルシアとイステリアの神力より生まれし、天界の番人が一人 神獣グライプスと申す」


「今、この兄妹が言った通り、今日こんにちまで天界が…… そして世界が存続してこれたのは、ひとえに貴殿が『災厄』を抑えつけてくれていたおかげ…… 心より礼を言わせて頂きたい」


 バキィィィ!!!


 慌ててグライプスの所に駆け寄り頭を殴り飛ばすはリリィ!


「痛ったっ!!! いきなり何をするか! リリィ!」


「何をするか! じゃありません! なんで微妙に偉そうなんですか! グーちゃん! 女神様に向かって!」


「何を言うか! キチンと頭を下げたであろう!」


「その喋り方ですよ! 喋り方! 申し訳ありません! アルテミス様! うちの子がとんだご無礼を! 悪い子じゃないんですけどなにぶん口のききかたが悪くて!」


 もの凄い勢いで頭をペコペコ下げるリリィ!


「って、お前は我のオカンか! 全く!」


「いいか! 勘違いのない様、言っておくが! 女神の力で生まれた身とはいえ、断じて我は女神の下についたわけではないわ! 我は我だ! 我自身の正義の為に戦ったのみ! 立場と経緯はともかくとして、我にしてみればその志の根幹たる部分は共にし! そして共に巨悪を討ち滅ぼしたにすぎん! いわば等輩とうはいだ! 筋は通すが必要以上にへりくだる事などせんわ!!!」


「それに話に聞く限り、アルテミス殿も極力我等には楽に接してほしいと考えているであろう程の器の持ち主だと思うが?」


「過剰過ぎる敬意は時と場と相手によっては寧ろ失礼、もしくはそこまでいかなくても不本意に思われてしまう事もあるものだぞ!」


「だからって!」


「いえ、その通りです」


「!? アルテミス様!?」


「流石は我が妹達より生まれし誇り高き神獣殿―― よくわかっていらっしゃる」


「ああ! 全くだぜ! 中々気が合いそうじゃねえかよ! 神獣!」


「ふっ そうか? 鬼神の――」


「かつては立場上の問題もあり、そうも言ってられない事も多かったですが、元々私もあまり堅苦しいのは苦手なもので」


「それに私は『元』女神―― 敬称も必要ありません」


「ですが!」


「いいのですよ。 お気遣いありがとうございます。 ふふ、可愛い位に真面目な方なのですね。 貴方の様な方がいれば今後も治安部に安心して天界を任せられそうです。 ですが今はどうか…… 楽になさってもらって結構ですよ」


「!っ 勿体なき御言葉! しかしっ!」



「―― いえ…… そういう事でしたら…… そうさせていただきます」


 恐れ多い事この上ないが確かに! 本人がこうまで言ってくれている上で、それでも尚畏まってしまうのは逆に失礼とリリィは判断し、アルテミスの意を汲む事にする。


「ふふ、ありがとうございます」


「ほれみろ!」


 カチン――


 とはいえ、寿命が縮む思いをさせられたグライプスに対して苛立ちを隠せないリリィは彼にとって最も有効打となるあの言葉を投げつける。



「――お小遣い四ヶ月カット!」


「!!!っ 理不尽だぞ! リリィ!」


「知りません!」


 ギャアギャアと騒ぎ立てるリリィとグライプス!


 そんな二人を見て、くすりと笑うアルテミスは今度は彼女の方にも声をかける――



「―― ですので、そこのお嬢さんも先程私にツッコミを入れたのは気にしないでくれて結構ですよ」


!!!!!!!っ 

きっ! 聞こえてたーーー!!!!!


「すっ! すいませんでしたーーーーーー!!!!!」


 慌てて大声を上げ、頭を下げるカエラ!


 そして、ちょっと楽しくなってきてしまったのか、笑いを堪えているアルテミス――


「あまり若者をイジメるな。 姉者」


「ふふ、すいません。 ついイジリたくなってしまって」


「中々愉快で可愛い子達が今の世代に揃っていますね」


「だろ!」


「そういうわけですので挨拶もすんだ事ですし、アルゼウムの兄妹もここからは楽にして下さい」


「―― そういう事でしたら」


「いや~♪ 多分そうなるだろうとは思ってたけど、一応初対面だし、最初だけはしっかりしとこうかな~って♪ 想像通りの素敵な方で良かったよ♪」


「ふふ、そうですか」


 アルテミスの声で素にもどる閻魔兄妹――



「アルセルシア、イステリア―― 立派に育て上げたみたいですね。 勿論、先代夫妻もそうですが閻魔の名に相応しい剣と心の強さをしっかりと受け継いだ素晴らしい兄妹じゃないですか」


「ふっ だろ? 相当に鍛えたからな―― 私の自慢の弟子達だ」


「ですが最終的には二人の努力の賜物…… 私達は女神としての責務を果たしただけですわ」


「いや~♪ そう言ってもらえるとなんだか照れちゃうな~♪」


「はは! 全くだ!」


「でも、できれば貴方とはもっと早くお会いして色々お話したかったかな…… それに一武人として…… 剣士として…… 一度位は手合わせしてもらいたかったし――」


 少し残念そうな、そして悲しそうな顔をするリーズレット――


「そうですね。 私もまさか貴方がレオンを降すとは思いませんでしたよ。 剣神の名に相応しい実力を示しましたね」


「貴方と剣を交えれば―― それはさぞ、心地良いひと時となったでしょうね」


「ほんとソレね♪」


「でも―― 今はこうして話せている――」


「本当に…… お会いできて嬉しいよ♪ アルテミス殿――」


 そう言って今度は笑顔で握手を求めるリーズレット――


「! ふふ、 私もですよ。 リーズレット嬢――」


 その右手をしっかりと握り返すアルテミス――


「レオンもよかったね! ちゃんと彼女に漢として…… それから男としても責任を果たし! 魂を解放できて♪」


「ああ! マジで感謝してる! そして今度こそ! ちゃんと礼を言わせてもらうぜ!」


「ありがとな! リーズレット!」


「ふふ♪ どういたしまして!♪」


 こちらもしっかりと握手を交わすリーズレットとレオン――


「それにしても若きミリア嬢に瓜二つですね。 正直そこも驚きましたよ。 ユリウス殿も母親似みたいですし」


「はは! よく言われます! 二人揃って顔は父上に似なかったもので!」


「うん♪ よかったよかった♪ あんな強面な顔になんか生まれたくないしね~♪」


「はは! ひでー言われ様だな。 ヴァランも!」


「ゼクスとも戦いたかったなあ~♪」


「全くもって同感だぜ! 本当に!」


 戦闘狂同士で妙に意気投合しているリーズレットとゼクス。


 そしてアルテミスは大王…… ユリウスにも声をかける――



「ユリウス殿も…… 大王としての在り方…… そして歴代の誰もが通る『いん』への向き合い方…… 最後の一撃も含め、実にお見事でした――」


「特に『印』があれ程までに貴方に力を引き渡したのは、それだけ貴方の心の在り方が認められたからこそ―― そしてそれは決して一人では辿り着けない境地――」


「師…… 家族…… 友人…… 仲間…… それからかけがえのない存在もですかね…… 個人的な感覚ですが、先程の貴方の力には愛といった感情も感じましたから――」


「どうやら良き縁に恵まれたみたいですね」


「ええ。 本当に…… 自分には勿体ない位の素敵な…… 素晴らしい良縁に恵まれました――」


「かつては大王としての重責や『印』との向き合い方も含めて閻魔として生まれてきた事に対して憤りを感じていた事もありましたが…… 今は閻魔一族として生まれてきた事に誇りを持っています」


「そのおかげで皆に出会えた―― その結果、僕が僕としての道を見失わずにここまでこれた……」


「多分―― いや! 間違いなく! この縁の尊さは世界一! 素敵な絆だと自負していますよ! 僕は世界一の幸せ者だって!」


「アルテミス殿…… こうして貴方と出会えた事も含めてね――」


 自身の想いに揺るぎない自信と優しさを秘め…… 笑顔を以って握手を求める大王――


「ユリウス殿……」


「なるほど…… これ程までの器の持ち主でしたか」


「貴方ならいずれ、歴代最高の王にすらなれるやもしれませんね――」


「貴方という人に出会えた事に感謝を――」


「僕もですよ。 アルテミス殿――」


 大王の右手をしっかりと握り返すアルテミスであった――





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