第203話 帰還
「…… やった…… のか?」
「…… 前大戦同様、仕留めそこなったり他空間に逃げ込んだ可能性は?」
本当に脅威が去ったのか確信が欲しいといった感じのセシリアとアルセルシア。
それに最高神とイステリアが答える。
「いや…… 追い詰められた『災厄』が逃亡する可能性も考慮して注意深く見ていたがそんな余裕も動きも奴にはなかった――」
「肉体もろとも奴の瘴気……
「ええ! 私もしっかりと確認しました! 奴が完全に消えたのを!」
「! って事はつまり!」
「ああ…… とうとうやりやがったぜ! あの野郎――」
疑心暗鬼の表情から一転! 歓喜の表情へと変わっていくセシリアとその隣でホッとするゼクス!
そして他の戦士達にも知らせる様にゆっくりと! だが力強く立ち上がって高らかに宣言するアルセルシア!
「我等の完全勝利だーーーーーー!!!!」
「! 聞きましたか!? 霧島君!」
「! ええ! 確かに!」
「ふう…… やれやれ…… やっと終わりましたか」
「シリウスさん!」
「ふっ! だから我は言っただろう。 アレはやる時はやる漢だと――」
「兄上!」
「ああ! 遂にやったな…… 最後の一撃…… 見事だった! 黒崎君!」
声が届いたグライプス達もその喜びを分かち合う!
「~~~~~~~っ!!!」
「いいいいよっしゃああああああああ!!!!!!!」
「―― 終わったな…… これで全て――」
緊張の糸が切れてはしゃぐ様に大喜びするセシリア!
感慨深いといった様子のアルセルシア――
そして黒崎『達』も――
「ふう…… ようやく片付いたか――」
「最初で最後にまともに使う場面でこんな無茶させて悪かったな。 マジで――」
そう黒崎が語りかける先は刀身が消滅し、柄部分もヒビだらけで機能停止寸前の宝剣であった。
「フフ…… モジドオリ…… セカイトアナタヲマモレタノナラコレホドホンモウナコトハアリマセン…… ソノタメのワタクシデスカラ――」
「デスガ…… ワタクシハトモカク…… 『アナタモ』……」
「……へっ それこそ覚悟の上だ……」
「ずっとお留守にしちまってた不甲斐ない持ち主に、最期にとびきりの最高の力を貸してくれた事にマジで感謝してる――」
「ありがとうな――」
「イエ…… ワタクシノホウコソ…… ワガ管理者二フサワシイアリカタ…… ソシテカクゴ……」
「アナタトノ…… デア…… イ…… 二、カン…… シャ……」
そう言い残して、ブウゥゥンと最後に音をたて、完全に機能を停止した宝剣――
相手はプログラム―― 直接言葉を交わしたのも数える程度――
それでも彼はシリウスをずっと見てきて黒崎として再会した時も見守っていた――
それを黒崎も理解している――
直接言葉を交わす事がほとんどなかったとはいえ、宝剣は自身がその力を貸すに値しない漢にはその力を貸し与えないし、仮に与えたとしてもその力を完璧には使いこなす事はできない――
シリウス・アダマスト、そして黒崎修二という漢の在り方とその力……
そのどちらも認めていたからこその最初で最後の奇跡の一撃であったのだ――
つまり彼もまた黒崎、そしてシリウスの相棒の一人なのであった――
「…… 俺もだ―― ありがとよ…… 相棒――」
黒崎がそう言った直後、その僅かに残された柄部分も完全に砂の様に崩れていった――
戦いは終わった――
これで一件落着――
かと思いきや! まだ終わってはいなかった!
ゴゴゴゴと大きく音をたて! 地響きをあげていく大地!
その揺れはどんどん大きくなっていく!
「! これは!?」
突然の大きな揺れに驚くもすぐに事態を察するアルセルシア!
そして最高神とイステリアもすぐに動く!
「くっ! これ程頑丈に作った異世界と星でもやはり今の一撃には耐えられなかったというのか!」
「イステリア!」
「はい! 父上!」
急いで天界への『
「三人共! なんとか立ち上がって急いでこの門を通って下さい! 私達は他の皆さんを!」
「! わかりました!」
「すまん! イステリア! 父上! 後を頼む!」
「ええ! 姉様!」
アルセルシアも力は使い果たしている!
ここは二人に任せ、身体を引きずりながらも『門』を通っていく!
セシリアもゼクスに肩を貸しながら他の戦士達より一足先に撤収していく!
「父上! 私は大王達のフォローへ行きます! 父上はシリウスを!」
「わかった!」
こうして二手に分かれる二人!
イステリアはグライプス達のもとへと転移術の詠唱を始める!
だがここで問題が一つ!
黒崎の霊圧が全く感じられない程に消耗している!
転移術は大きな霊圧や気配、もしくは正確な座標を認識していてそこに狙いを定めて飛ぶ秘術!
黒崎の気配は感じる事はもうできず、急ごしらえで作ったこの世界の正確な座標も知り得てない為、最高神は高速で足を使って黒崎のもとへと急いでいく!
そしてグライプス達の方はというと――
「これは…… また派手にやったようだな」
「まあ、あれだけの一撃を放ったからにはね♪ だからこそ、わざわざ戦場の場所を変えたのだろうから――」
「ああ。 我等兄妹、そして雷帝…… その力を束ね増幅させ、そこから更に霊石を使って
「天界で放ってたら、空間を通り越して下界ごと木端微塵だっただろうからね――」
「どどどどうするんですか!?」
「おおおおお落ち着いて! 霧島君!」
「カカカカカエラさんこそ!」
「二人共落ち着け。 どのみち帰還までの道筋はあの二人にしか開ける力は残ってないのだ。 後は指示に従うのみ――」
「そうですね。 皆さん! 身体は重いでしょうが頑張って立ち上がって下さい!」
「ええ! セシリアさん達はもう撤退したみたいです! 僕等も、もうひと頑張りですよ!」
「はい!」
「はい!」
すぐに撤収できる様に、重い身体をなんとか起こし、立ち上がる戦士達!
次の瞬間!
大きな光と共にイステリアが転移してきた!
「皆さん! お待たせしました! 門の所まで運びます! 全員! 私の近くに!」
「待ってました♪」
「お願いします!」
ここで新たにもう一つ『門』を作るよりも転移術で飛んでまとめて自分達で脱出させた方が、霊力の消費が少ない。
更に最高神と黒崎のフォローも視野に入れていたイステリアはもう一度、先程自分達がいた場所へと転移を図る!
彼女の指示通り、イステリアの近くに集まりだす戦士達!
そのまま再度大きな光に包まれ全員が先程の場所へと転移! そのまま『門』を通らせていく!
「皆さん! 急いで! もうこの空間はもちません!」
後は父上とシリウスを…… !!!!っ シリウスの気配が辿れない!? これでは転移術がっ! この距離っ! どうする!?
最速の道を考えるイステリア!
だがそこに彼女の頭に直接語りかける様に声が届く!
「! これは!」
一方、最高神は思ってた以上に地崩れが酷く! そのスピードを以ってしても彼には近付き切れないでいた!
「くっ! 急がねば!」
焦る最高神!
ここで更に地表は崩れ! 足元が崩れていく最高神!
咄嗟に飛び越え、崩れ落ちる地に飲み込まれるのを躱すも黒崎との距離が近付かない!
「!!!!っ ちい!」
このままでは間に合わん! どうすればっ!!!!
ここでイステリア同様、ある声が最高神の頭にも直接語りかけてくる!
「! この声は!」
「―― すまぬ! 頼んだ!」
「へっ…… どうやらここまでか……」
「わりいな…… 京子…… 皆……」
動く事もままならない黒崎は、既に覚悟を決めていた。
だがその表情は穏やかなものであった。
全てをやり遂げた彼には後悔等なかったからである。
だがそこに!
「―― 全くこの子は…… 最後まで手を焼かせて――」
「諦めるのが早すぎでしょう…… シリウス!」
『災厄』から解放され! 飛び散った霊粒子が集まりだし! 半実体化し! その空間に身体を再構成して現れる一人の女性!
金色の髪をなびかせながらその女性は黒崎の腕を掴み! その超人的な腕力で思いっきり『門』の方へと投げ飛ばす!
「!!!!!!っ」
「―― アルテミスーーーーー!!!!!」
アルテミスの指示で『門』で待機していたイステリアとその霊圧を目印に転移術でもどってきていた最高神!
飛んでくる黒崎をガシィっと受け止めるイステリア!
「シリウス!」
「ぐっ! アルテミス!!!!」
先程まで黒崎のいた場所で優しく微笑むアルテミス――
「姉様!!! …… くっ!」
姉を助け出したいという感情を必死に堪えながらもアルテミスの意を汲み! 二人と共に脱出するイステリア!
満足気といった感じの優しく穏やかな表情を浮かべるアルテミス――
そして次の瞬間!
その最後の戦場となったその空間は大爆発を起こす!!!!
『門』ごと破壊される程の大爆発だったが間一髪! 脱出に成功するイステリア! 最高神! そして黒崎!
それと同時に強烈な落雷が落ちる音が大きく鳴り響く!
「黒崎さん! 最高神様も!」
「よかった! 無事もどってこれたんですね!」
そう声をかけ、寄ってくるのは霧島とカエラであった。
帰還先は黒き塔…… いや、正確にはその跡地であった――
先に『門』を通った戦士達も全員ちゃんと無事に帰還していた様であった。
黒崎達の周りにに集まっていく戦士達。
「父上! イステリア達も! よくぞ無事で帰ってきてくれた!」
「ああ。 あの子の…… アルテミスのおかげだ」
「姉者の!? …… そうだったのか……」
「……」
なんとなく何が起きたのかを理解したアルセルシア――
そして無言の黒崎……
そんな中! 一足早く『ある気配』を感じとったゼクスとリーズレットが口を開く。
「おい…… 何しんみりしてやがる…… そいつは『まだちょっと早い』んじゃねえか?」
「! なんだと!?」
「その通り。 流石…… 『雷帝』の通り名に相応しい決め方だね~♪ 格好良いじゃん♪」
「! まさか!?」
先程の落雷にも似た様な爆音の方へと視線を移す黒崎と他の戦士達!
そこで大きく割れた空間の下に降り立っていたのは二人の人物であった!
「いよう! どうやら全員! 無事に帰ってこれたみてーだな!」
「ふふ、私も…… 僅かな間ですが永らえる事ができた様ですね」
そう! レオンとアルテミスであった!
レオンもまたアルテミスの窮地に半物質化して彼女を抱え!
間一髪! 残された全ての力を振り絞って空間を破壊し! もどる事に成功したのであった!
「ったく! 本っ当〜にオメエは無茶しやがるな! おちおち消える事もできねえよ!」
「貴方には言われたくないですが――」
「しかし貴方も大概しぶといですね…… まあ、それでこそ私の騎士といったところですがね……」
そう言って優しく、愛おしい表情で語りかけるアルテミス。
「!!!!!っ へっ! そっ! そりゃどうも!!!」
そして不意打ちをくらって赤面するレオンであった。
あったのだが……
「ん? なんだ? この空気?」
「皆の様子がおかしいですね……」
何故か何も気付いてない二人……
そんな二人を呆れた様に…… そしてちょっとしたイラ立ちや羨ましさ、安堵といった様々な感情を抱えながら見据える面々――
「いや…… おかしいって……ねえ、霧島君……」
「ええ、まあ…… はい…… そうですね」
「はは! なんだいコレは? もしや僕等が知らないだけで天界で流行ってるのかな? 最近やたらと『こういう場面』を見かけるんだが! なあ! 妹よ!」
「そうだね♪ 兄上♪ よし! 修二! 今から僕等もやろうか♪」
「ヤダよ」
「なんでよ!!! いいじゃん!!!」
「つか、なんすかコレ? 相手がいないアタシらへの当てつけっすか!?」
「セシリアさん。 相手がいないのは今に始まった事ではないですよ」
「殴るぞ! ケイン! オメーも人の事言えねえだろ!」
「いや! 半分は貴方のせいですからね! 僕に彼女がいないのは!」
「だから人のせいにすんな!」
「皆さん落ち着いて下さい! 茶化すのはよくないですよ!」
そう言いながら大人の対応をしている様に見せかけているイステリア。
言葉とは裏腹に全く行動が合ってなく、通信機の撮影モードでレオンとアルテミスの『その姿』を凄まじい勢いでパシャパシャと写メをとり始めている。
「いや、説得力がないぞ。 イステリア。 それはそうと後で私にもその画像を送れ!」
「はい! 姉様!」
「…… いいなあ…… 私も……」
「リリィ?」
「! なっ! なんでもありませんよ! グーちゃん!」
「ん? なに? もう一回やる? リリィ♪?」
「いや、近寄らないで下さい。 姉さん!」
「ひどい! 親戚同士なのにその態度!!」
「いや、お主は完全に自業自得だろ……」
「オッホン! まあ、何はともあれこれだけは言わせてもらいますが……」
まだっ!!!
まだっ!!!
気付かない!!!
そんな二人に対して、ここでカエラがそのツッコミを入れる――
「だからなんでイチイチお姫様抱っこなんですか!!!?」
「!っ ハッ!!!!!」
「!!!!!!!!!っ」
ようやく事態を把握した二人!!
慌てて降りるアルテミス。
レオン同様、顔が真っ赤である。
「レオン! 公衆の面前でなんて事を! これだから貴方って人は!!!」
「いや知らねえよ! 文句言うな! こっちだって必死だったんだから! なんか知らんが、いつの間にかこういう体勢になってたんだよ!」
痴話喧嘩みたいなのを始めたアルテミスとレオン。
呆れ、そして笑いながら二人を見守る面々――
そしてアルセルシアと黒崎も……
「ふう、やれやれ……」
「ああ、何はともあれ、とにかく……」
「全員無事帰還! ってとこだな!」
「ああ!」
無事に帰還を果たした戦士達!
共に笑い合い、喜びを分かち合う面々。
そして――
別れの時である……
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