第190話 覚悟 ①

 事前に用意してした策を説明する黒崎――


「―― てな感じだ」


「へ~♪ まさか『それ』にそんな使い方があるなんてね――」


「ああ、僕も知らなかったよ」


「俺もだぜ」


「しかしシリウス、それを使い際には膨大な霊力を使用するぞ。 そもそもお前それを使った事すらないだろう――」


「あれは総司令 シリウス・アダマストなら、使い方次第では危険過ぎるその力の使い所を見極め、そしていざその時が来ても使いこなせる様になるだろうとふんで念の為に我等女神と父上が授けた、いわば裏技用の備えみたいなものだ」


「忘れるな! 今のお前は人間の魂魄体だ! 使いこなすのはおろか下手したらお前自身がその負担に耐えきれず消滅するぞ!」


「!」

「!」

「!」


「別に忘れてねえよ。 実戦では使った事はねえが一応シリウスだった頃、無理のない範囲で恭弥達とかに訓練には付き合ってもらっててな――」


「その時の力の消耗具合とかを思い返した結果、俺の計算だと今の状態でも、これ以上消耗していない状態でかつ、一回だけなら何とか使える筈だ」


「アラン戦の後も数日間、実際に力を解放してはねえが、動作確認とイメトレはやってたからな」


「自分を過信しているわけではねえが、マジでなんとか使いこなせると思うぜ」


「ただそれでも奴を倒せるかは本来なら微妙なとこだが、大王様とリーズが力を貸してくれるなら、なんとかなると俺は思う!」


「アルセルシアも回復してたら、そこに加わってくれたら尚、確実性は増す!」


「後は奴に躱されたり悟られたりしねえ様にギリギリまで上手く注意を引く必要があるから、それはリーズや他の面子に任せるしかねえが……」


「ああ、勿論ギリギリまで『災厄』の注意を引く役を僕が引き受けた方がいいならそうさせてもらうけど……」


「修二…… 本当に大丈夫なの?」


 いつも以上に真剣な表情を黒崎に向けるリーズレット。


「なんだ? リーズ。 俺がヘマするとでも?」


「いや全然…… そっちじゃなくてさ…… 君の魂魄がもつのかって事の方だよ」


「…… ちゃんと計算した上で、一回限りなら大丈夫だって今言ったろ」


「そうだね。 けど君は昔からしょっちゅう無茶するからねえ…… 状況こそ全然ちがうがそういう意味では昔のアランの事件の時みたいに君には前科があるしね――」


「申し訳ないが君のそういう点に関してだけは信用できないかな」


「僕もここに来る前に君の事は京子と約束して来ているし、僕自身も君が『そういう類』の事をしようとしているのなら、その作戦に乗るつもりはないよ」


「その点なら大丈夫だよ。 流石にこれ以上京子に辛い想いはさせたくねえしな。 これでも反省しているし――」


「勿論お前や大王様、アルセルシアや他の皆にもな!」


「『こいつを使ったからって俺の魂魄が消えるなんて事はねえよ』 嘘じゃねぇ」


「…… 本当に?」


「ああ……」


 黒崎の眼を真っ直ぐに見つめるリーズレット。


 黒崎も答えを返すかのように眼を反らさない。



「…… 兄上」


「ああ……」


 ここで大王が『大王の眼』を使ってでも、黒崎の真意を探ろうとする。


「おっと! ここで『眼』を使うのは勘弁してくれ! 大王様にもそれ以上消耗されると作戦の成功率が下がるんでな!」


「見くびらないでもらいたいな。 作戦には支障をきたさないと約束する。 気分が悪いだろうが念の為、だ! すまないが使わせてもらうよ」


「やれやれ…… 付き合いの長い俺には『そんな眼なんて使わずとも信用してるさ!』位言ってほしいんですがね」


「勿論、君という人となりは信用も信頼もしているさ。 友人としても仲間としても」


「だからこそ! 逆に君がいざとなったら際限なく無茶をする…… 特に大切なものを守る時は……」


「君のそういう部分も理解しているつもりだ」


「友人としての僕の勘だが、そういう意味では正直、嫌な予感が拭えない…… 絶対に! 確認しろと! 僕の中の心が訴えている!」


「僕もだよ」


「やれやれ…… わかりましたよ。 その代わり必要最小限の力で留めておいて下さいよ。 セシリア達は知らねえが俺達は全員回復薬を使い果たしてるし――」


「ああ、わかっているさ」


 渋々ながらもなんとか黒崎の了承を得て『大王の眼』を発動する大王!


 大王の眼が金色に輝きだす!


 その両の瞳でじっと黒崎の心を見据える大王!



 そしてそれが五秒程、経過したところでストップをかける黒崎!



「はい! そこまでです!」


 先程黒崎が言った通り、大王にもこれ以上消耗させてしまうわけにはいかない。


 どの程度相手の心理、思考を深い所まで読むかでもまた変わってくるが、相手が嘘をついているか否か…… その感情を色で認識する程度の最低限の力を発動するだけでも『大王の眼』は使用する際に相応の霊力を消耗する。


 普段の彼の仕事…… 死者の魂の判決の際にも使用する必要があると判断した時も、無論例外ではないが、それでも桁外れの総霊力量を誇る大王だからこそ、業務に支障はきたしていなかった。


 だが今は『災厄』と世界の命運をかけた勝負の最中!


 さらにキース戦で多大な霊力を消費してしまった今の大王にとっては、もうこれ以上大きく霊力を消費させるわけにはいかないのであった!


 黒崎の懸念も理解している大王は最低限の『眼』の力を一瞬使うだけに留めておいた。


『大王の眼』を解除する大王――


 果たして彼のたものとは……





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