第182話 皆を信じて!!

「って、何やっておるんじゃ?」


 自身の通信機を使い、どこかへと連絡をとろうとするヴァラン。


「いやなに…… ちょっと連絡事項があってな…… もしもし――」


「ああ、私だ。 今大丈夫か? ああ、実はな…… 恐らく今お主が探しておる人物が『ここにいる』から、本人と代わるがいい」


「!!!!っ まさか!?」


 戦慄が走るレティ!


 …… いかん! もう会えないと思ってたし、出ていくと言ったら止められると思ったから何も言わずに出てきてしまったというのに!!!!



 これは……




 メチャクチャ怒られる!!!!!



 うう…… あやつ、怒るとマジ怖いんじゃよなあ……


 おのれ! ヴァランめ! 余計な真似をしおってからにっ!!!


 慌てふためき、顔中から大量の汗が噴き出してきている姉に対してニヤけながら通信機を渡そうとするヴァラン。


 普段の彼からはあまり想像できない表情である。


 ゼクスも笑いを堪えている。


 ムキ~~~~~っ!!!! 本っっっ当~~に可愛くない弟じゃの!!!


 性格の悪さに磨きがかかっておるわ!!!


 ハッ! それどころではない! なんとかしなければ!!!


 恐る恐る通信機を受け取るレティ。




「…… おっ……」

「! もしもし! おばあちゃん!?」


 余程心配していたのか、レティの事を完全なプライベート時以外では、きちんとけじめをつけて師匠先生と呼ぶ『彼女』であったが、つい普段の呼び方をしてしまっている。


 そして、その通信先の彼女に対してレティはというと……






「…… おっ! ……」

「お?」

「お?」

「お?」
























「―― おかけになった番号は現在使われておりません――」

 ブツっ!


 ビビり過ぎて、この始末であった!


 当然、こんな事をすれば更に事態が悪化するだけなのだが……


「ふう! これでよし!」

「姉者……」

「マジか、こいつ……」


 呆れた顔でレティを見るヴァランとゼクス。


 そして当たり前だが、すぐ様通信機が鳴り響く!


「うわっ!」


 再度、恐る恐る通信に出るレティ。


「…… もしも――」

「ブッコロスわよ! クソ師匠ししょう……」

「!!! ひいいいいいいっ!!!!」

「切ったらコロス!!!」

「!!!!!っ」


 行動を読まれるレティ!


「今っ! どこにいるの!!!!? 迎えに行くから逃げんじゃないわよ!!!!!!」


 とんでもない程の大声を発する雫!!!


「!!!っ 耳がっ!! 耳があああああああああっ!!!」


 鼓膜に大ダメージを受け、のたうち回るレティ!


「もしもし! 聞いてるの!? 聞いてたらちゃんと返事なさい!」


「~~! うるさいのう! 全く! 鼓膜破れるかと思ったわ! 人の気もしらんで! そんなに怒鳴らんでもいいじゃろ! そもそもこれはお主の為でもあってだな――」

「は? 何逆ギレしてんの? 説教たれてんのはこっちの方なんだけど!!!!」


「やかましい! 大体わらわはお主の師匠じゃし年上じゃぞ! それをなんじゃい! その口の利き方は! 妾にだって色々あるんじゃい! それを―― え? 何? こうしている間にも、どんどんお仕置きレベルが上がっている? ふっ! ふん! なんじゃい! そんなの全然怖く…… え? マジで…… 嘘じゃろ? そんな事まで…… 冗談ですよね雫…… 雫さん?」


「…… !!!!っ あ、ハイ…… ハイ…… その通りです。 心配かけてゴメンナサイ。 全面的に妾が悪かったです、ハイ…… だから雫さん、あの、そろそろ御怒りを鎮めていただけないかと…… いえ! 滅相もございません!」



「弱っ! 思い出した! そういやあいつ、口喧嘩は滅法弱かったな」


「ああ、それでいてすぐ調子に乗っては返り討ちにあって、挙句は泣き出したりもするという事もしばしば――」

「ガキか!」

「全くだ! 我儘わがままな引きこもりキッズがそのまま大人になった様なものだ!」


「やれやれ…… 身体だけでかくなっ…… いや、幼児体形だからちっこいままだが――」


「俺に負けず劣らず好き勝手やってんな~」


「誰が幼児体形じゃ! …… あっ スイマセン。 ちゃんと聞いています、ハイ――」


「メチャメチャ弟子に尻しかれてんじゃねえかよ!」


 呆れる通り越して、もはや呆れ返っているゼクス。


「ふっ やはり姉者には彼女が一番の薬になるな」



 五分後――



 散々説教されては完膚なきまでに叩きのめされたレティ。


 そのままよろめきながらも、雫に言われ、レティはヴァランに通信機を返す。



「もしもし私だ」


「姉者へのお仕置きと説教は一切の慈悲も手加減もいらんからな! 私が許すから遠慮なくやってくれ!」

「わかりました!」

「オイっ!!!!」



「――だがまあ、とりあえずは休ませてからだな」


「馬鹿姉なりに気概を見せた様だしな…… 全てはそれからだ」

「! ふふ、 そうですね!」


 表情を少し緩ませながら話すヴァランと雫。


「! ふん! 二人して好き勝手言いおってからに!」


「ヴァランよ! そのまま雫に伝えてくれ! ヴァランお主に術を使わなかった分、あと転移術一回分位はまだ使えるから迎えは不要! お主は全力でこの事態の収集に当たれと!」


「大丈夫か? 姉者。 無理しないで迎えを来させた方が――」


「いや、どちらかというと体力よりも魔力の補充を急ぎたいのでな」


「それに距離的に迎えに来さすとしたら飛行艇の類とかじゃろ」


「寧ろ下手にこのタイミングでそれらを出すのもリスクがあるやもしれんしな」


「! どういう意味だ!? 姉者!」


「あくまで妾の推測にすぎん…… が、説明は後でする。 今は急ぎ、ここを離れよう」


「それから恭弥とサアラについても、もう大丈夫じゃと伝えてくれ」


「雫が作った魔力供給結界は要塞にあるから、まずはそちらへ飛ぶ。 お主は要塞内にある要塞と城とを繋ぐ『ゲート』から一度城へ帰還するがいい」


「わかった。 もしもし――」




 グランゼウス要塞――




「―― ええ、わかりました! お待ちしております!」


 通信を切る雫。


「…… ごめんなさい。 皆! 二分程、席を外すわ。 少しの間だけここをお願い!」


「! 了解しました! 室長!」


 そう言って管制室の外へと出ていく雫。


 そのまま誰もいない所で、我慢していたものが涙と共に決壊し、溢れてくる!



「…… よかった…… 本当に…… 無事で!」


 気丈に振舞っていても、彼女にとっては家族と親友達…… ずっと気が気でなかったのである!


 だが戦いはまだ終わってはいない!


 事態の収集と把握! 消耗したレティの受け入れ準備等、やる事はまだ山程ある!


 部下に言った通り、きっかり二分でもどり! 彼女は各方面へとまた指示をとばすのであった!



 そして再び天国エリア――



「さて―― お主はどうするのじゃ? ゼクスよ」


「ああ、俺ももう行かせてもらうぜ」


「そうか…… もう妾達には戦う力は残っておらんからな。 悪いが何の手助けも出来んが……」


「せめて…… 祈っておる……」


「最期にお主のその可愛げのない憎たらしい顔が見れてよかったわい!」


「はは! そりゃどうも!」


「精々長生き…… は、もう無理か……」


「それでも…… 後悔のねえ様! あんたらしくな!」


「そうじゃな…… 逝きそびれてしまった様じゃし…… 恭弥達のケアの事もあるしの」



「じゃあの――」


「ああ、 じゃあな――」



 レティに続いて今度はヴァランがゼクスに声をかける。



「ゼクスよ…… ミリアに何か伝える事はあるか?」


「!」


「いや…… あいつらしく元気にやってんなら、それでいいさ……」


「いい年こいて変態丸出しのじゃじゃ馬女だが、まあこれからも仲良くしてやってくれや」


「…… わかった」


「…… こんな形でだが、我が人生最大にして! 最高の決闘を興じれた事――」


「そしてかつては零番隊の長として、その命をかけて! 天界に尽くしてくれた事――」


「何より、『悪友』として共に切磋琢磨してくれていった事に――」







「深く…… 礼を言う!」



「はっ! イチイチかてーんだよ! お前さんはよ!」


「さっきも言ったが、俺は俺のやりたい様にやっただけだ! 礼なんていらねえよ!」



「ただ、まあ――」




























「最っ高に熱いタイマンだったのは認めるがよ!」


「楽しかったぜ!」


「達者でな!」


「ああ、そっちこそ! 『健闘を祈る』!」


 互いに認め合い、改めて互いに歩を進める決意をするゼクスとヴァラン。


 こうしてゼクスは最後に二人に軽く手を振って、そのまま瘴気の流れに身を任せる様に塔のある方角へと吸収されていったのであった。




「行ったか……」


「ああ、後はもう事の成り行きを見守る事位しか、今の我等にはできん」


「信じよう…… 皆を!」


「そうじゃな…… よし! 我等も帰るぞ! ヴァラン!」


「ああ、姉者!」


 転移術を発動し、その光に身を包む姉弟。


 こうして二人もまた、要塞へと帰還するのであった。





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