第181話 姉弟
衝撃の正体が発覚したレティ!!
そのまま彼女は先程まで激闘を繰り広げていた二人に歩み寄る。
「確かにお主とも久し振りじゃのう。 ゼクスよ」
「もう、
「ああ、残念ながら時間切れだ」
「そうか……」
「それにしても…… あのまま人知れず滅したとも思えんかったが、まさかこんな形でお主と再会する事になるとはのう」
「俺もまさかこんな激レアなキャラにまた会えるとは思わなかったぜ! 女王様?」
「だからやめいっちゅうに! その呼び方は!」
「そんなキモい呼び方よりも、なんならレティお姉さん♡ とでも呼んでくれてもよいんじゃぞ!」
「こんな超絶美女!! 滅多にお目にかかれんじゃろうからな!」
「あー、ワリ―が俺は巨乳派でな…… チンチクリンに興味はねーんだわ」
「誰がチンチクリンじゃ! 誰が!」
「――というか、突然現れた気配の正体はやはりお主だったか」
「まあな…… こっちも色々あってな――」
「ふん…… お主という漢は
「大方、その異名に恥じない最後のひと花を咲かすのと…… 友の…… アルテミス様、そして
「ま、そんなとこだ…… 友ってのはこそばゆい言い方だがな」
「アルテミスの方には大分世話にもなったし、レオンともガキの頃からのくされ縁だ」
「ダチが何を犠牲にしてでも貫き通そうとしている道……」
「成り行き上ってのもあるが、だったら俺も最期まで付き合い、見届ける…… ただそれだけの事だよ」
「それで揃って滅びの道を歩む事を選ぶか…… 全く良い意味でも悪い意味でも『漢』よな。 お主は」
「別に。 好き勝手やってるだけだよ、俺は。 昔も今もな」
「そうか……」
「つか、ま~だ喧嘩してんのか? あんたら!」
「いい加減、和解しろや。 そりゃ一族的にはまずかったんだろうが、こいつだって色々あんだからお前さんも少しは折れてやったらどうなんだ、ヴァラン。 いい加減許してやれや!」
「! そうだそうだ! もっと言ってやれゼクスよ♪ …… って、誰がこいつじゃ! 妾の方が千歳は年上じゃぞ!」
「細かい事気にすんじゃねえよ」
「なにおーーーーー!!!!!」
「
「今更一族と絶縁した元身内なんぞと和解してやるつもりはない!」
「! ふん! わかっておるわ! こっちこそ! わざわざそんな面倒な一族にもどってやるつもりはないわ!」
互いに睨み合うヴァランとレティ。
それを見て、溜息をもらすゼクス。
「やれやれ…… ま、あんたら
「それに…… なんだかんだ言っても、弟のピンチは放っておけねえみてーだし?」
「! ふん! 勘違いするな! こやつに何かあると、ミリアやその子供達が不憫じゃと思っただけじゃ!」
「! 姉者……」
「へいへい。 わーったよ」
素直じゃないね…… どっちも。
またも呆れて溜息をつくゼクス。
そんな中、ヴァランは姉に一つの質問を投げかける。
「姉者よ。 先程妙な波動を感じたが…… まさか『あの術』を使ったのか?」
「! ああ、本人達の許可を得た上でな」
「お主はどうする? ヴァランよ」
「お断りだ」
姉の問いに迷わず即答を
「! お主……」
「禁忌を犯した身…… 今のままではミリアや子供達に別れの挨拶も出来ぬまま、ただ消え行くのみじゃぞ」
「その術のリスクは理解しているつもりだ…… 受け手は勿論、その『術のかけ手』の方もな!」
「!」
「どうしようもない姉だが、それでも――」
「姉の命…… いや、『存在を犠牲にして』でも永らえようとは思わん!」
「その禁術は自身の魂魄の一部を切り取り、他者の魂魄の欠損部分に無理矢理に埋め、魔力を以って強制的に馴染ませる事で魂の消失まで、多少の猶予を与えるというもの――」
「元々魂魄とは一人一人、替えが利かない代物…… 言ってみれば、型の違う血液型の様なものだ。 ただし! 一人一人が全員異なる型のな!」
「全く同一タイプの魂魄等、この世界に一つたりとて存在しない!」
「そして切り取った自身の魂魄の本質を、魔力で無理矢理に相手の魂魄に限界まで似せて作り変え! 融合させる事で対象者を永らえさせる――」
「それでも完全には適合させる事は不可能だ。 つまりはごまかしにすぎん」
「与えられた側も当然、拒絶反応に苦しむ事になる上に、定期的に魔力を共有させないとすぐに消滅してしまう。 おまけにその
そう…… レティが先程、恭弥達に覚悟を確認したのはその為であった。
恭弥達もそれを理解した上で、レティの禁術を受けたのである!
やり残した事を全てやりきる為に……
「そもそもそんな真似をして術者の方も無事で済むはずがあるまい!」
「先程使ったのと合わせて『既に二回目』…… もうほとんど寿命…… いや、自身の魂魄が残っていないはずだ…… 今こうしていられるのが奇跡的なほどに……」
「その状態で術を発動しても無意味に失敗するだけ…… 姉者が逝なくなるだけだ」
「『昔あんな事』を仕出かしても、まだ懲りてないと見えるな」
「全く…… どこまで自身を蔑ろにすれば気が済むのだか……」
「どれだけ愚かで、どうしようもない姉でも、大切に想ってくれている者達がいる事を少しは理解しておく事だな」
「お主……」
何らかの事情で仲違いをしているし、言い回しも互いに辛辣……
それでも…… やはり姉弟なのか。
彼なりに姉の身を案じている様であった。
そしてそんな姉もまた、悪態を
「ふん…… 何を言いだすかと思えば――」
「どのみち放っておいても、妾の寿命は後百年かそこらが関の山じゃろう」
百年…… それは長寿な天界人にとっては決して長い時ではない。
寧ろ僅かなひと時に近い位の感覚なのである。
特にレティはこの世界に生を受けて五千年以上は経っている。
彼女にとって残り百年前後の寿命等、あってない様な物…… 大切な者を守れるなら、この場ですぐに切り捨てても全く構わないとさえ思っているのだ!
「妾をみくびるなよ!」
「昔に比べ、少ない魂魄なりに妾も進化しておる!」
「少なくとも『初めて使った時』から魔力をよりコントロールする技術を磨き、術者の負担は限りなく減らす事には成功しておる」
「現に妾はこんな術を二回も使って、まだ生きておるしな!」
「後一回…… 確実に! 成功させる力位は残っておるわい」
「ふん! 下手な事極まりない程のやせ我慢をしている様だが、仮にそうだとしても必要ない」
「嘘だと思うのなら私の気配…… 魂魄の流れをちゃんと探ってみるのだな」
「! なに?」
「? ……」
ヴァランに促され、彼の魂魄の流れを探るレティ。
彼の言葉が気になったゼクスも同様に探っていく。
すると――
「…… これは!?」
「オイオイ…… マジかよ……」
これは…… 魂魄が……
確かに消失部分が多い…… 体力も大きく消耗している…… だが! それでも!
『思っていた程、魂魄が消失していない』!?
「禁忌を犯しながらも『それをコントロールする』とはこういう事を言うのだよ。 姉者!」
「テメエ…… まさか!」
「俺に勝つか最悪、一秒でも長く俺を足止めさせる為に『要所要所の動きでのみ瞬間的に魂魄を燃焼させていた』のはわかっていたが……」
「『この展開も想定していた』って事か! 姉貴に無茶させねえ為に!」
「ふん、姉者から通信が来た時に、つまらん気を使わせてしまうのは可能性の一つとしては考慮していたからな!」
なんて野郎だ……
まさかこれ程までに自身の限界やそれを取り巻く状況を計算に入れながら、この俺相手に最後まで闘い切ったっていうのかよ!?
常軌を逸した戦闘センス…… なんてレベルじゃ収まらねえ!
少なくとも前大戦の時のこいつじゃまず不可能… というか俺ですら! こんな芸当はできねえ!
* * *
「常に
* * *
その言葉の意味をわかってたつもりだったが、まさかこれ程までの事をやってのけるとは……
まさに文字通り! その言葉を体現していたっていうのか!
勿論、戦場において『それ』は叶わない事だったのかもしれねえ…… それでも!
自分の帰りを待っていてくれている連中や、自分の為に無茶しようとする奴の事まで考えて!
『死ぬ覚悟』ではなく! 最期まで『生きて帰る覚悟』を以って、この俺相手に闘い抜いたっていうのか……
確かに…… 大王だった頃より、ずっと強えな…… 本当の意味で……
「やれやれ…… 俺も舐められたもんだぜ」
「誓って言うが、お前相手に一切手を抜いた覚えもないぞ! それにどのみち勝負は長引くと思っていたからな!」
「へっ そりゃどうも」
「…… 完敗、だな――」
正直、互いに傷付いているとはいえ、それでも体力的にはゼクスの方にまだ余力は残っていた。
純粋な戦闘能力でいっても、ゼクスの方が一歩上をいっていただろう。
だが! タイムリミットを除いていたとしても、彼は自身の敗北を心の底から、潔く認めていた。
自身の強さには絶対の自信もプライドも持つそんな彼も、
そしてレティも、まさかヴァランがこれ程までの事をやってのけた事に、その驚きを隠せないでいた。
「お主……」
「見ての通り、
「大幅に寿命を持ってかれたが、恐らくすぐには魂魄体が消滅する程ではないだろう」
「今なら通常の回復術も、それなりには効果が出るやもしれんし、そうでなかったとしても、この戦が終われば死者の魂として、のんびり過ごす事位はできるかもしれん」
「それも叶わなかったとしても、シリウスの例もある…… 禁術を使わずとも、女神様の力を借りるなりして魂魄を転生させるまでの域にまで回復させる事もできるかもしれん」
「正直言って、それも決して高い確率ではないが――」
「それでも…… 何らかの形で永らえる可能性はこちらの方が遥かに高いと思うが?」
「第一、姉者を犠牲にする方法なんてとったら、どのみちミリアか雫あたりに私が殺されるわ!」
「ヴァラン……」
「ふう…… 全く…… まさかここまで手強くなっておるとはの……」
やれやれ…… どうやら妾が逝くのはもう少しだけ先になりそうじゃな――
あの未熟者が、まさかここまで立派に育っておるとは……
大した漢に成長しおってからに――
「全く! 本当に可愛くない弟だわ!」
「ふん! それはこちらの台詞だ!」
わだかまりもある。
一族としての縁も切っている状態でもある。
それでも……
たった二人の姉弟であるのも、また事実――
口とは裏腹に、互いにその笑みを浮かべる二人なのであった。
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