第174話 女神の危機!?

「小僧…… 言わせておけば…… もう少し遊んでやろうかと思ったが…… もう許さんぞ…… 手加減抜きだ!」


『災厄』にとってはかすり傷程度のダメージに過ぎない上に、その傷も既に再生済みだがこの様な微小な存在に一滴でも自身の血を流された事にと怒り心頭といった様子。


 だが、はらわたが煮えくり返っているのは黒崎も同じであった。


 先程自身が吹き飛ばされた場所に置き去りになっている宝剣を、PSリングの収納機能を一部利用して自身の右手に引き寄せ、しっかりとその柄を握りしめる黒崎――



「最初っからそうしろよ。 こっちはいい加減テメーみてーなカスがアルテミスそいつの身体を我が物顔で使ってるのに我慢ならなくなってきてんでな!!!!」


「ボコボコにぶちのめしてやんよ!」


「面白い…… やれるものなら――」




「やってみよ!」


 次の瞬間!


 黒崎に向かって飛び込み! その右の魔手を彼の身体に突き刺そうとする『災厄』!


 だが!


「!っ なに!?」


「はあああああああああああああ!!!」


 黒崎は身体を右回転で反転しながらその一撃を躱し、同時にそのまま回転しながら『災厄』の背中に強烈な宝剣の一撃を叩き込む!


 バキィィィィィィィィィィ!!!!!


「ぐっ!!」


 自身の勢いも手伝って凄まじいスピードで吹き飛ばされ! その方向状の地に叩きつけられる『災厄』!



 そのまま間髪入れずに黒崎が猛追を仕掛ける!!!



「おうらああああああああああ!!!!」


 凄まじいスピードで、しかも一撃一撃が必殺級の重い斬撃を放ち続ける黒崎!!


 すぐ様起き上がり! それを両手で捌く『災厄』!!


 だが自身の攻撃を見切って反撃を繰り出してきた黒崎に対して『災厄』は驚きを隠せないでいた!!




 どういう事だ! 我の攻撃を躱すしつつ、カウンターを入れ! さらにはこれ程の攻撃を繰り出し続けてくるだと!!


 やはり先程よりも霊圧が…… そしてパワーとスピードが上がっている!!?


 一体何故!?


 ここにきて、黒崎がさらに力を増してきているのに困惑する『災厄』!!


 だがその理由については女神アルセルシアは気付いていたのであった。




 全く…… ここにきて大した漢だな。



 あの短時間でもう奴のスピードに慣れ始め、自身とのスピード差、それによる動き出しのタイミングを改めて修正してきたか……



 しかもそれだけではない様だ……



 天界とは、常に霊力や霊子が満ち溢れている…… そして魂魄…… 魂の強さとは本人の霊力…… そして意志の強さ…… 即ち精神力の強さにも影響される……


 よく心の強さがどうとかって話があるが、実際にもある程度はそうだし、特に天界においては、ただの精神論で収まったりはしないもの――


 天界での戦闘は意志の強さによっても左右される…… まあ本来なら多少の範囲だが……


『絶対に負けられない!』というシリウスの鋼の如き強固な意志が、魂の力を一時的に底上げして、さらに天界に漂う霊子も己の力の一部としてこれ程までに上乗せさせている!


 加えて今の奴は死んだ黒崎修二の魂魄体…… 生きた肉体を持たない言ってみれば野晒し状態だ。


 その分、直接的に力を吸収出来ている……


 これは嬉しい誤算だな……


 とはいえ、ちょっとやそっとの意志の強さ程度では微塵も変化は起きないのだが……



 つまりはそれほどまでに、お前は姉者をあの化け物から解放し! 救いたいと強く! 思ってくれているという事……



 全く…… いじらしいじゃないか…… シリウス……



 だが気をつけろ……



 平たく言えば力の吸収率が良い分、攻撃力とスピードは上がっている……


 だが逆に言えば! 野ざらしの魂魄体な分! 耐久力は劣るという事だ!


 今はその信じがたい程のド根性で耐えているが…… 無茶しすぎると無事ではすまんぞ! シリウス!



 複雑かつ様々な想いをのせ、黒崎を見守るアルセルシア!


 そんな中! 黒崎は必死に『災厄』を攻め続ける!



「〜〜〜!!! ええい! 鬱陶しい!!」



「おらああああああああああ!!!!!」

「はあああああああああああ!!!!!」



 黒崎の宝剣と『災厄』の右の魔手!


 互いの渾身の一撃がぶつかり合う!


 だがそこから『災厄』は左の魔拳で黒崎のリバーを狙う!


「ぬうううううううん!!」


「ぐっ!」


 咄嗟に身体を捻り、僅かながら衝撃点をずらし、威力を躱す黒崎!!


 それでも血反吐を吐き! 深刻なダメージを受ける黒崎!!


「〜〜!!! こんな…… もの!!!」


 だが彼はそんなものお構いなしに、自身の宝剣を『災厄』の脳天に叩きつける!!!


「らあああああああああああ!!!」


 ズガアアアアアアアアアン!!!!


 渾身の斬撃!!!


「!!!!っ ちいいいい!!!」


「効かんわ!! こんなもの!!」


「!!っ くっ!!!」


「はあああああああああああ!!!」


 ドゴオオオオオオオオオッ!!!!!


 黒崎の胴体に右のストレートを叩き込む『災厄』!


「!!!!っ ぐはああああああっ!!!」




 ガアアアアアアアンアアア!!!




 はるか後方に吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれる黒崎――



「はあ、はあ、はあ、はあ、―― 無駄だ!」


「ぐふっ! はあ、はあ…… まあ、そう上手くはいかねえよなあ……」


 ボロボロになりながらそれでも!! 再度立ち上がる黒崎!!



 !!! こいつ!!! まだ息絶えんのか!!!



「…… 女神でも閻魔一族でもなく、まさかここまでやれる奴がいようとはな……」


「本当に驚かせてくれる……」


「まあもっとも、この辺りが限界の様だが――」


「へっ…… そう見えるかい……」


「強がりはよすんだな。 我の動きに付き合う事は尋常ならざぬ集中力と緊張感なしでは不可能だ」


「それともその身体中から出でる大量の汗と全身の傷も、我を油断させる為のハッタリかな?」


「……」


「我の攻撃をここまで耐えるそのタフさ…… そして全く折れぬその心! それが灯す忌々しいその眼光!!」


 そう、どれだけボロボロになろうとも黒崎の眼はまだ死んではいない……



「悪かったな…… どうやら我は貴様を見くびり過ぎていた様だ」


「貴様の様な奴を生き永らえさせておくのは非常に厄介――」








「だが!!!」









「どうやら優先順位を間違っていた様だ!」



 その視線を黒崎から別の対象に移す『災厄』!


「!」

 ちっ! やべえ!!


「さっきから合間合間に不愉快な殺気を飛ばしては我の注意を引き、動きを止めさせおってからに……」


「おかげで何発もいいものをもらってしまったわ!」


 そう! 先程と同様に要所要所でアルセルシアが『災厄』に向けて殺気を飛ばして注意を引く事で、黒崎も今まで何とか粘る事ができていたのだ!



「やはり! アルテミス亡き後! もっとも危険で! もっとも優先的に始末しなければならないのは――」












「貴様だ!! アルセルシア!!」



 いつアルセルシアが動き出すかわからない状況下で、黒崎との戦いにも意識を集中できないのは相応に厄介で埒が明かないと判断した『災厄』!!


 そこでターゲットをアルセルシアへと切り替え!! 超スピードで彼女に仕掛ける『災厄』!!



「!!っ アルセルシア!! ぐっ!!」

 しまった!


 フォローに向かおうとした黒崎だったが、ダメージが深刻過ぎて反応が遅れる!!!


 アルセルシアが危ない!!!


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