第172話 やれるべき事をしっかりと!
「―― それでは私達は行きますね」
「恭弥君達の事は我等が責任をもってハニエル君のもとへ託してこよう」
あれから十分あまり――
彼女を心配するイステリアは渋っていたが、レティの言う通り彼女の危機を一時的にとはいえ脱出する位まで回復させたら、後は自分に構わず恭弥達を優先する様にと促したレティ――
そしてその回復が終わり、最高神とイステリアは恭弥達を抱えて移動の準備をする。
「お願いします。
「お願いします!」
「お願いします!」
「ええ。 それでセシリアさん、ケイン君…… 貴方達も本当に塔へと入るつもりなの?」
先程も聞いたみたいだが念の為、二人にもう一度確認するイステリア。
「あれだけの死闘を演じた後だ…… 一応傷は回復させたが霊力まではそうはいかない……」
「あの場所は一番の死地…… 正真正銘の地獄が待ち受けているだろう……」
「君達はもう十分すぎる程に天界の力になってくれた…… 後は後退するなり休むなりして皆に託すのも止めはしないぞ」
そう、セシリアとケインもまた、常に最前線で戦い続け、挙句先程までたった二人で一万もの敵兵を相手に孤軍奮闘していたのだ。
傷は癒したとはいえ体力面まではそうはいかない……
彼等もまた大きく消耗しているのだ。
二人を心配する最高神とイステリア。
だが、二人の意志は変わらなかった。
「いえ! ここまで来たんすから自分達も最期まで戦いますよ!」
「ええ! それにいくらアルセルシア様や総長達でも、これまで無傷であそこに辿り着けてるとは思えないんで…… 恐らく相応に消耗している筈……」
「その状態で相手が化け物ならこちらは数と戦略でカバーするしかありません」
「どのみち『災厄』が我等の空間に顕現している以上、アルセルシア様達が負ければ僕等は勿論、世界は終わります」
「だったら腹を決めて僕等も一緒に戦いますよ。 最悪、弾除け位にはなれるでしょうし」
「まあ弾除けで終わるつもりも毛頭ないんですけどね――」
「そういう事っす! なのでこちらは気にせず最高神様達は自分達の事に専念して下さい!」
そう、自分達の想いと覚悟を伝えるセシリアとケイン――
「貴方達…… そう…… そこまで覚悟を決めているならもう何も言わないわ」
「レティ君も…… まだもどらないみたいだが……」
「申し訳ありません。 もう一つだけ……
「ま、それがすんだらとっとと安全圏へとトンズラさせていただきますよ!」
「レティちゃん……」
「…… わかった。 皆! 武運を! 必ず! また後で再会しよう!」
「レティちゃん…… お願いだから無事にもどってきてね! セシリアさん達も!」
「ええ、勿論ですよ。 師匠…… 今は各々、やれるべき事をしっかりとやりましょう!」
「お任せ下さい!」
「精々気張らせてもらいますよ!」
「うむ!」
「それじゃあ…… またね! 皆!」
こうして最高神とイステリアは、恭弥とサアラを連れ、ハニエルのもとへと転移していくのであった――
「さて…… アタシらは塔へと行くがその前に――」
「レティさん! 本当にアンタ一人で大丈夫か!?」
「先程も言いましたが、何か手伝える事があれば僕かセシリアさん、どちらか一人がお付き合いしますが……」
「結局どこで何をしに行くか全然教えてくんねーけど、あぶねー真似だけはしねーって約束してくれ!」
「それができねーならあんたを一人置いてくわけにはいかねー!」
最初の出会いこそ噛みついていたセシリアとケインであったが、結果的にレティは恭弥達を救ってくれた大恩人!
二人共、ここにレティ一人残していくのは気が気でない様子であった。
この後何をするつもりなのか詳細を話してくれていないのだから、その心配は尚更高まる一方なのである。
そんな二人の様子を見て、溜息交じりに言葉を返すレティ。
「やれやれ…… お主ら、何を勘違いしとるか知らんが、妾はただもう一件だけ他に重症患者を診る約束を別口でしているから、そこの治療区画で仕事をしにいくだけじゃよ」
「そいつの治療が済んだらとっとと避難してそこで寝ておるわい。 流石にもう疲れたしの」
嘘と真実を織り交ぜ、二人を躱そうとするレティ……
彼女を本気で心配しているセシリアが厳しい視線をレティにぶつけながら彼女に問う。
「…… さっきの術…… もしくはなんかやべー治療術を使うのか?」
「!」
「答えてくれ!」
「使わん…… というか使える体力等残っておらんわい! あくまで超! 優秀な臨時治療士として普通にぱぱっと治してくるだけじゃよ。 別に特別な事はせん」
「本当だな……」
「しつこい! いい加減これ以上妾に喋らさすな! まだしんどいんじゃ! もう少し
「だったらせめて回復するまで傍にいましょうか? 流石にもうここに敵兵が現れるとは思えませんが、もし現れたら今の貴方では……」
「それもいらん心配じゃ! 戦略的に考えても今更こんな場所に雑兵が来る事等、まずありえんしな!」
「仮に来ても転移術位ならすぐに使える位の余力はまだあるしの……」
「それ以前に雑魚がいくら集まろうが妾の敵ではない! こんな身体でも妾にとってはハンデにもならんわい!」
「わかったならとっとと行け! それからもし戦いの中で『さっき妾が言った事態になってしまったら』一応大王には念話を通して話しておるが、お主らも冷静に対処せよ!」
「ええ、それは勿論!」
「ああ、わかってるよ!」
レティもまた非常に戦略的頭脳に優れる傑物――
『災厄』を追い詰める事ができたとして、その後奴がどの様な暴挙に出てくるかある程度は予測はついていた……
そうなった時の『保険』も用意しておき、先程セシリアとケインにも伝えて備える様にと伝えていたのだ。
二人にその事を再度確認し、冷静に対処する様に促すレティ。
しっかり対処する旨を伝えるセシリアとケイン。
そして二人がいざ塔へと出立する前に――
セシリアは座り込んでいるレティを大きくそして優しく抱きしめる!
「! なにを――」
「―― ありがとう!! 本当に…… 本当に! ありがとう!!!」
「先輩達を救ってくれて……」
「! ふん…… 大袈裟な…… たまたま妾がその手段を持っていたというだけの事じゃ」
「そして妾は自身の友を助けたいから助けただけ…… 礼を言われる筋合いはないわい」
「それでもっ!!! ありがとう……」
「あんたのその様子…… さっきのも含めて、詳しくは知らねえけど、きっと尋常ならざぬ事情を抱えてて、とんでもなくしんどい思いをしてまで、さっきの術を使ってくれたって事だけはわかる……」
「あんなに震えて…… 呼吸が荒くなって涙まで流して……」
「だけどあんたは…… そこまでしてでもあんたは…… 先輩を…… 姉御を救ってくれた!」
「本当に…… 本当にありがとう!!」
「この恩は一生忘れねえ!! アタシが一生かけてでも!! 必ずアンタに返す!!」
「約束する…… いや! させてくれ!!」
「セシリアさん……」
「ええ! そうですね! 勿論僕も彼女と同じ気持ちです! レティさん! このご恩! 必ず! お返しさせていただきます! 本当に! 本当にありがとうございました!」
「お主ら……」
若造のくせに…… 仁義にあついというか…… なんと一本芯の通った連中よ――
恭弥とサアラが可愛がるのもわかる気がするの……
勿論、妾の雫の方が何十倍も可愛いがの!
しかし、やれやれ……
ここに来てこんな連中に出会ってしまったら、ますます逝きづらくなってしまうのう……
「…… ふん…… 重いわ全く……」
「妾はやりたい事をやっただけ」
「そんなもん明日にでも忘れてしまえ……」
セシリアの背に手をまわし、そしてその手を優しく置くレティ――
「お主らはまだ若い…… 覚悟を持つのは良いが、決して死に急ぐなよ……」
「―― 気をつけてな」
「! おう!」
「! はい!」
優しく微笑み、二人を見送るレティ。
こうしてレティに見送られ、セシリアとケインもまた、黒き塔へと向かっていくのであった――
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