第171話 運命を変えろ! 大魔術 発動! 完

『創まりの魔女』 レティシア・ルーンライト最大の秘術によって辺り一帯が大きく光に包み込まれ、そして収束していく――




「…… ひっ 光が…… 収まった?」


「みたいですね…… 一体何が……」




「…… ふう……」



「もう大丈夫じゃ。 二人の『魂魄の消失部分は補った』――」


「傷はそのままじゃし、二人とも気を失っておるが、これなら治療術をかけて効果も出るはずじゃ…… 後は師匠先生達にお任せします」


 ただでさえ超難易度の術を、ぶっつけ本番で、しかも二人分同時で成功させるという離れわざをやってのけたレティ。


 とはいえ、その顔からはまるで全身の血の気が全て引いてしまったかの様な、真っ白なその顔色は、自身の身体にかかったその桁外れな負担を如実に物語っていた……



「! ほっ! 本当か! あんた!」


「たっ! 助かったんですね!」


「よかった! 本当によかった!」


「ええ! ええ! 本当に!」


 泣きながら喜ぶセシリアとケイン。


 そんな二人は最高神とイステリアと共にレティ達のもとへと駆け寄る!


「レティちゃん!」

「急いで手当てを!」


「なに、 大丈夫ですよ。 一応、回復手段は用意してきましたから」


「! つかメチャメチャ顔色悪いじゃねえかよ! あんた!」


「大丈夫ですか!? レティさん!」


「! これは?」


 レティの身体が薄緑色の光に優しく包まれていく……


 それを見て驚くセシリアとケイン。



「障壁? いや、なにか違うような……」



「これは魔力を補充、回復用に術式が組み込まれたくさびでの…… こいつを地に刺せば、範囲内の魔女の魔力を多少なりともじゃが回復できるという代物なのじゃよ」


「簡易的でかつ携帯用のやつじゃから、回復量はたかが知れているが、わらわの身体はちと訳アリでの……」


「魔力を限界まで消費しすぎると、治癒術の類が一切効かなくなるから、まず先に魔力を補充するか、もしくは治癒術も同時進行でかけるかしないといかんのじゃよ」


「訳ありって!」


「一体どんな! ――」


「ああ、すまんが話すと長くなる上に、ちょっと今は…… 余裕がない…… 後にしてくれ……」


 正直今は言葉を交わすのにも一苦労といった感じのレティ。


 もっとも、それを抜きにしても、その話をするという事は『この術がどういったもの』なのかも説明せざるを得ない状況にもなってしまう。


 これしかもう方法がなかったとはいえ、今はまだ戦の最中……


 特に恭弥達を強く慕っているセシリアとケインには、その現実をすぐに受け止めるにはこくというもの――


 そうレティは判断して、せめてこの戦が終わるまでは詳細は伝えないでおこうという判断であった。


 なんとなくケインあたりはレティが敢えて術の詳細に触れない様にしている事、そしてそれを聞いたら自分達の心や戦意にまで影響を及ぼしてしまう事にうっすらと気付いていた。


 確かに気になるが恭弥達はとにかく助かった!


 そして今はレティを休ませないといけない!


 ケインもここは何も聞かずにいる事を選択する。



「あ、ああ! すまねえ!」


「わかりました。 今はとにかく! ご自身の回復に専念して下さい!」


「うむ…… って師匠!? 最高神様!?」


 四人が話しているのを気にも止めずに、とにかくレティの回復をと動き出していた最高神とイステリア!


 イステリアは自身の両膝にレティの頭を乗せ、仰向けで寝かせる。


 最高神はそんな二人の前に膝をついて座り、両手をレティに向けて突き出す。


 そして最高神と女神の二人がかりで体力だけでもと治療術を行使する。



「これ位はさせて! レティちゃん!」


「ったく! 本当に無茶ばかりするんだから!」


「我等が同時に治癒術をかければ、君の回復も早まろう!」


「はは、 すいません……」


「ですが程々で結構です…… 御自身達の分の霊力は温存しておいて下さい…… どうやら遂にあの『災厄』が表に顕現した様子……」


「という事は、この戦も恐らくもう決着が近いという事でしょう」


「! なんだって!!」


「そういえば…… ドタバタしていて気付きませんでしたが、確かに…… 今まで感じた事のない程のおびただしいまでの瘴気が塔の頂上から……」


「これが『災厄』……」


「やべえなんてレベルじゃねえな…… 桁違いの霊圧だ!!」


「ええ、それでもまだ全然押さえてそうな気配すらしますよ」


「本気で力を解放したらそれこそ世界が吹っ飛ぶかもしれませんね……」



 …… アタシらはこんな化け物を相手に喧嘩してたってのかよ……



 …… アルセルシア様はアルテミス様と恐らく戦い、大きく消耗している! 僕等も回復次第、急ぎ向かわなくては!


 セシリアとケインの二人が『災厄』の気配を確認して、そして覚悟を決める中、レティは話をもどす。


「うむ、そして奴との戦いで師匠達にも『役割』がある…… 恭弥達の事も勿論あったのでしょうが、だからこそ師匠は最高神様と共にリスクを犯してまで、この決戦の地に来た…… そうですよね?」


「! なんだって!?」


「イステリア様と最高神様の役割!?」


 レティの発言に驚きを隠せないセシリアとケイン。


「! あなた気付いていたの!?」


「これは恐れ入った」


「そりゃ気付きますよ…… 本来女神三姉妹の中でも結界や治癒術、神術にかけては三姉妹一の力を誇る師匠です」


「だからこそ、前大戦同様、最高神様の守護という最も重大な任を師匠が受けている」


「その師匠が、最高神様をお連れしてまで! このタイミングでこの様な死地に赴いているのですから、それは何かあるとは思いますよ」


「アルセルシア様達は『災厄』との相手で手一杯…… という事は、大体師匠が何をしようとしているのかは想像がつきますが……」


「しかしよくアルセルシア様がお許しになりましたね…… 師匠は何があっても最高神様の傍を離れず危険度の高い外には連れ出さない様に! とか言いそうですけど……」


「そっ! それは……」

「まあ、の…… はは!」


 苦笑いをしながら言葉を詰まらせる最高神とイステリア。


「? …… !! まさか…… 黙って出てきたのですか!?」


「!! はあああああああ!?  マジですか!? お二人共!!」


「それは流石にちょっと……」


「わっ! 私は止めましたよ! ええ! それはもう全力でっ! でも父上が全然私の言う事聞いてくれなくて! それに――」


「うむ。 今回ばかりは必要に応じてだが、私も力を使わなければならなくなるやもしれんからな」


「もしそういった事態になった時、近くにいないとすぐには行動に移せん!」



「…… まあ、それもそうですね…… アルセルシア様も、そう言われれば納得せざるを得ないでしょうが……」


「まあそれでもこの戦が終わった後、お二人共、特に師匠はどやされるでしょうけどね」


「いっ! 今からそんな脅かさないでよ! レティちゃん!」


「はは、冗談ですよ、冗談!」


 いや、冗談ではないが……


 多分、後でガチギレされるだろうな、師匠…… 可哀想に……



「ですが師匠、恭弥達の搬送の為、その分の転移術の霊力消費はお願いしたいのですが、お任せしてよろしいでしょうか?」


「ええ! それは勿論!」


「ただ私達も二人につきっ切りというわけにもいかないし、これ程の傷…… なるべく高度な腕の治療士のもとへ急ぎ、運びたいのだが――」


「マクエル君は手一杯…… となると……」


「京子ちゃんにお願いしたいところだけど、向こうも怪我人が多くて一杯一杯みたいだし……」


「ああ、その事ならここに来る前に妾が『奴』に話を通しておきましたから――」


「六十一番ポイントの区画に運んでもらえれば大丈夫です」


「奴? 誰の事?」


「六十一番ポイントというと……」



「…… あっ! そうか!」


 ここでケインが、その人物が誰なのかいち早く察知する。


「そう言えば副長が言ってましたよ! 『あの人』も怖がりながらも、前線で治療士としてこの大戦に参加するって!」


「? あの人って誰の事だよ。 ケイン」


「って、あなたも一緒に聞いてたでしょ! 昨日! 副長から! 何で忘れてるんですか!」


「そ、そうだっけか? ワリ―ワリ―! で、誰の事だよ!?」


「ったく! 斬ったはったの事以外はあなたも結構抜けやすいんですから――」


「あの人ですよ! あの人!」


「いるじゃないですか! 副長並みの超! 凄腕治療士が!」


「! マジか! そんな人がいるんか!?」


「ええ! っていうかまだ思い出さないんですか!」


「その副長に! 治療術のいろはを教えたのは誰ですか!!」


「…… あっ!!」


「! そういう事か! 流石レティ君!」


「確かに! 『彼』なら恭弥達この二人をお任せできますね!」


 ここでようやくレティが差している人物が誰なのか、この場にいる全員が理解したのであった!




    *     *     *




 六十一番ポイント 治療区画――




 慌ただしく動き回っている治療士の面々――


 だがそれでも、的確かつ無駄のない指示出し、重症かそうでないか、見事なまでの優先順位のつける速さと正確さ、そして素早い処置能力と優れた治療技術で他の区域に比べると比較的余裕がある状態を常に保たせている人物がいた――



 人の見た目で言えば三〇代中頃、長髪の黒髪の前部分を中分けして後ろは結んでいる白衣を着ているその漢はまた一人、傷ついた戦士の命を救う。



「―― よし! これでとりあえず大丈夫です! じきに意識も取りもどすでしょう!」


「後はこの方を奥の方のベッドへ移しておいてください!」


「はっ! はい!」


 患者の処置を終え、そのまま他の治療士に引継ぎをするその人物――


「すっ! 凄い!」


「流石『ハニエル』さん!」


「いえ、これ位――」


「ですが先程、古い知人から連絡を受け頼まれまして――」


「これから超! 重症患者が二名運ばれてくるみたいです! 話を聞く限り、恐らくは私も暫くは手が離せなくなるでしょう!」


「ですのでどうか皆さん! フォローお願いします!」


「! わかりました!」


「皆でここは乗り切りましょう!」


「ええ! よろしくお願いします! 皆さん!」


「アリスさん! 皆の指揮をお願いします!」


 年齢としはハニエルと同年代、長い金髪を後ろに束ねて同じく白衣を着たその女性に、ハニエルと呼ばれたその漢は、自分が離れている間の総指揮を彼女に委ねる。


「ええ! 了解よ! あなた!」


 そう! レティが頼んでおいた治療士とは天界最高の治療士 零番隊 副長 マクエル・サンダースの父にして、かつて幼少期の頃の閻魔大王とエレインが出会い、その二人の運命の転機を見届けたシリウスを補佐していた人物――


 天界屈指の治療士の一人 ハニエル・サンダースである!


 そしてその妻であり、彼に勝るとも劣らない技量の持ち主 アリス・サンダースもまた、夫が恭弥とサアラの処置に専念できる様にと現場の総指揮権を預かるのであった――



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