第170話 運命を変えろ! 大魔術 発動! ③

「おっ! おい! 一体全体どうしたってんだ!? 大丈夫か! あんた!?」


 慌ててレティの所へ駆け寄る四人!


「! いけない! 酷い過呼吸を起こしている! しっかり! 大丈夫ですか!? 落ち着いて! ゆっくり! ゆっくり深呼吸を――」


「ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! あぁっ! ああああああああああああ!!!!」


 レティの背中をさすり、落ち着いて呼吸をする様促すケイン!


 だが彼女は全くその症状から抜け出せない!




 そんな時!




 本来なら、もう指先一本動かす気力も残されていないであろう恭弥が――


 友を想う、ただそれだけの気持ちだけで、その右手をレティの右の大腿部にそっと置く!


 同時にサアラも、彼女の左大腿部に手を優しく置く!



「!!っ 恭弥先輩!」

「サアラの姉御!」


「恭…… 弥! サア…… ラ!」


 僅かだが呼吸含め、レティが落ち着きを取りもどし、頭を抱えていた両手もゆっくりと下ろすレティ。


 そしてそんなレティの右手を、今度は恭弥が右手を、サアラも自身の左手を、彼女の左手に優しく重ね合わせる様に置く――



「無理…… すんな」


「ええ…… 私達なら…… 大丈夫…… だから」


「!!!っ」



 お主らっ!!!!



 ~~~~~っ!! 全く!



 阿保か! わらわはっ!



 いつ消えてもおかしくない、こんな状態の連中にまで心配かけて!



 馬鹿か! こいつら!



 もはや僅かでも身体を動かす力等、残ってない筈なのに!



 こんな奴の為に根性見せおってからに!!



 妾は…… 妾は何をやっておる……



 あれだけ大見得おおみえきっておいて助けに来た妾が、こんな醜態晒した挙句、師匠先生やこんな若造達にまで不安にさせてしまっておる……



 妾は…… 妾は……



 妾を誰じゃと思っておる!!!



 震え! 恐怖しておる場合か!



 今一度思い出せ!



 妾は『創まりの魔女』にして、最強の魔女! レティシア・ルーンライトじゃぞ!



 恐怖? 後悔? 絶望? 悲しみ? 



 そんなもんクソくらえじゃ!!!



 そんなもんに屈して現在いまを後悔してやる程、妾はひまではない!!!



 トラウマ如きが妾に牙を向ける等、百億万年早いわ!!

 



「~~~っああああああ~~~~~!!!」



 力強く雄叫びをあげながら立ち上がり! 両拳を握り! 天を仰ぐ様にその顔を空へと向けるレティ!


 そのあまりの光景に、最高神とイステリア、セシリアにケインの四人は呆気にとられる!


 気付けば四人は数歩、その迫力に気圧けおされ下がっていた!


 そしてレティはその身体の向きを、皆のいる方向とは真逆の後ろの方へと変え、両膝をつく!




「舐めるなああああああああああ!!!」



「どうっせーーーーーーーーーい!!!!」



 ズガアアアアアアアアアアアア!!!!!


 ビシビシビシビシィ!!


 ガラガラガラ――



 なんと! その頭を大きく振り被っては、思いっきり地に叩きつけたレティ!


 大地は大きく縦にヒビ割れ! 周辺の瓦礫も少し崩れ、流れていく程の衝撃であった! 



「えええええええええ!!!!!!!」

「えええええええええ!!!!!!!」

「きゃあああああああ!!!!!!!」

「!!!!!!っ」



「レっレっレっ! レティちゃん!? 何やってるの! 貴方!」


「たっ! 大変! レティちゃんの可愛くて綺麗な御顔がっ! 早く治療しないと! それとも消毒が先!? マキロン的なのあったかしら!? ああ! どうしましょう! どうしましょう! 包帯! 包帯も用意しないとっ! …… あ、ちがう! 私が治癒術かければ一発なのか!」


「うむ。 イステリアや、とりあえず落ち着こう」


「でっ! でも父上!」


「イステリア。 大丈夫だよ」


「! はっ! はい! 父上!」


 かつて相当弟子を溺愛していたのが、もはや手に取る様に伝わってくるイステリアの焦り様……


 そしてそれを冷静になだめる最高神――


 そんな二人のやり取りに、少し呆れて言葉を失うセシリアとケイン――



 …… 親馬鹿、いや、師匠馬鹿、ここに極まれり、だな……



 最高神様、なんか慣れてますね……



 だが! 今はそんな事よりレティと恭弥夫妻である!



「…… はっ! そっ! そうだ! おい! あんた! 大丈夫か!?」


「すっ! 凄い音なってましたけど……」


「レティ君……」

「レティちゃん!」



 地面から埋まった顔を抜き出すレティ――



「ふーーーーーーーー……」



 そして――




「―― メチャクチャ痛い!!!!!」


「でしょうね!」

「だろうな!」

「当たり前でしょ!」

「……」


「レティちゃん! 血っ! 御顔に血が!!!」


 当然といえば当然だが、レティの額部分からは夥しい程の血が流れていた――


「ああ、大丈夫です師匠先生。 とりあえず今は――」


 そう言ってレティは、自身の白衣の右袖部分を引きちぎり、それで無造作に血を拭いた後に額を縛り、止血する!


「!!っ そっ! そんな雑に! バイ菌が入っちゃうでしょ! 待ってなさいレティちゃん! 今、治癒術をっ!」


「大丈夫ですよ! 師匠! てか、いつまで子供扱いですか! 別に大した事ないですし必要ならそれは後でお願いしますよ! それに――」












「要らん弱気と一緒に、良い血抜きにもなりましたからな――」




「! あんた……」

「レティさん……」

「レティちゃん……」

「……」


 先程までとは打って変わりスッキリした様相のレティ――


 そして改めて! 今度こそ! 本当に覚悟を決めるレティ!






 …… 自力で『あれ』を乗り越えたか……


「…… 強い子だな…… 君は――」


「父上……」


「―― だといいんですけどね。 本当に……」


「レティちゃん……」


「もう…… 本当にこの子ったら……」


 どこかほっとした…… それでも何か想うところがあるといった表情の最高神とイステリア――


 そして落ち着きを取りもどしつつ、どこかその瞳に覚悟だけでなく、悲しみも宿すレティ……


 その三人の様子を見て、何か只事じゃない事情を抱え込んでいるのは容易に想像はついたが、今は黙ってレティの事を信じると決めるセシリアとケイン――


 そんなレティに、改めて問う恭弥とサアラ――



「レティ…… お前……」


「大丈夫なの…… 貴方?」


「やれやれ…… こんな時まで他人の心配とは。 全く……」


「お主らの助けになればと思い、来た妾がこの様な姿を晒すことになるとは、我ながら何とも情けない…… じゃがもう大丈夫じゃ…… 心配かけてすまなかった……」


 改めて恭弥とサアラに近付き、その前にて両膝をつき、座るレティ。


 そして今度は逆に、彼女が二人に問い返す。



「以前お主らにも軽くじゃが、妾の事情を話した事はあるが…… その話に出てきた『例の術』をこれから発動する。 じゃがその前に――」


「お主ら二人の意志を確認する」


「二人共…… 妾は…… そしてここにいる皆…… いや、しずくも含め、今はここにはいない大勢の連中もお主らには、まだ消えてほしくはないと想っておるじゃろう」


「じゃがそれはある意味では、妾達の我儘わがままでもある」


「今と今後の状況を考えれば、ここでひと思いに戦士として散りたいと、同じ状況に立たされた奴がもしいたなら、そう思う奴もいるかもしれない」


「この術の『リスク…… そして限界』についても、以前お主らには話した通りだ」


「それでも…… お主らには、まだってほしくはない……」


「それを踏まえて問う」


「この術を…… 受けてくれるか?」


 二人を見つめるレティ……


 そしてその問いに、恭弥とサアラはこう答える。



「へっ…… あたぼうよ……」


「そうね…… まだいくつか、やりたい事は残ってるしね……」


シリウス旦那ともまだ会えてねえしな……」


「達っちゃんを…… セシリアとケインその子達にも紹介したいしね♪」


「そうそう…… 他にも色々あるしな……」


「ふふ♪ そうね…… だから……」









「やってくれ…… レティ!」

「よろしくお願いするわ……」


 そう言って笑顔でレティに託す恭弥とサアラ――


 そしてその気持ちをしっかりと受け取るレティ――


「…… うむ…… お主らの覚悟! 想い! しかと受け取った!」


「後は妾に全て任せよ!」


「皆はもう少し下がっておれ! 構築した魔力の陣に余計な力や霊力を持った者が無闇に入ってくると術式が崩れ、失敗する可能性が上がってしまう!」


「! わっ! わかった!」

「! わかりました!」

「ええ!」

「うむ!」


 レティの指示に従い、四人は彼女の後方、そこから約五十メートル程下がっていった。


 そして改めてレティは深呼吸をし、集中力を極限まで高める。


 そして自身の右手を恭弥の胸部に! 左手をサアラの胸部に当てる。




 妾の魔力量と残った魂魄の力からして、この術を発動できるのは、精々二回が限度……


『あの馬鹿』の分も考えると、ここは二人同時に上手く力を分散しつつ、やるしか方法はない!


 全く…… ただでさえ桁外れに成功させるのが難しく、妾の技量を以ってしても、凄まじい程の集中力を擁する魔術な上に、無駄に難易度を上げざるを得なくなってしまうとはな!


 ぶっつけ本番だが…… 失敗は許されない!


 妾なら…… できる! いや! やってやる!


 強き決意と共にレティはその呪文の詠唱を唱え始める――


 その両の瞳は金色に輝き! さらに同様の色と輝きを放つ魔法陣の様な物が、彼女と恭弥夫妻をその中心として出現する!




「我、偉大なる魔の力を宿す絶対なる支配者なり――」


「足踏み入れる事許されぬ禁断のその境地、世のことわりに逆らいしその愚行! されども我は求め訴えたり!」


「その魂、我が魔と血の契約により、今一度の地へと縛り付けん!」




「! こっ! これは…… 霊…… いや、どこかちがう…… まさか…… これは…… 魔力!?」


「! 魔力!? それって確か室長の使う魔術を使う際の力の源とかっていう!」


「ええ! 室長の力と同じ気配を感じます! という事は…… これは魔術!」


「って事はあの人…… 室長と同じ魔女って事か!」


「恐らく…… 室長以外の方は初めて見ましたが――」



 それにしても、なんというすさまじいまでの魔力!! 下手したら室長以上!?


 まさかこれ程までの使い手が、まだ天界にいらっしゃったとは!


「……」

「……」


 驚きを隠せないセシリアとケイン。


 祈る様にレティ達を見つめる最高神とイステリア。



 四人が見守る中、レティの身体から二つの小さな白き光が抜け出ては、それが宙に浮かぶ!


「!!!っ がっ! ぐふっ! ごふぅっっっ!!!」


 途端に吐血し、みるみるうちに顔色が悪くなるレティ!


 それでも彼女は術をやめない!


「レティ君!!」

「レティちゃん!!」


 見守る事しかできない事にいきどおりを感じつつ、それでも三人の無事を、ただただ願う最高神とイステリア。


「なんだ!? 一体何が起こってるんだ!?」


「わかりません! それにあの白い光は一体!?」




「万物の神よ! 我が魂! それは代価! その一部! 捧げし事にて禁忌を犯すこの愚行許されたし! その覚悟を以って我が願い! 叶えたまえ!」


 レティの身体から外へと抜け出て現れた、二つの白き光がそれぞれ恭弥とサアラの胸部を通って身体の中へと入っていく!


 そしてそこからレティはさらに魔力を込めて最後の術式を完成させる為、その名を唱える!



「はああああああああああああ!!!!!」




偽りの奇跡ヴンダー・ファルシュ!!!」




 次の瞬間!




 魔法陣の光が、これ以上ない程に輝きを増し、辺り一帯をその光で包み込んだ!




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