第169話 運命を変えろ! 大魔術 発動! ②

「おお…… おお! レティ君! 来てくれたのか!」


「全く貴方と言う人は…… 何千年も姿も見せずに……」


「すみません、師匠先生…… 本来ならこの様な不出来な愚弟子等、もはや師匠達に顔を合わす資格等なかったものですから……」


「なにを言うか! レティ君!」


「ええ! いくら貴方でも流石に怒りますよ!」


「はは、申し訳ありません……」


「とにかく今は…… 恭弥とサアラの事はわらわに任せて頂きたい!」


 感慨深そうにレティと話す最高神と女神イステリア。


 まるで長い間行方をくらまし、心配していた愛娘が帰ってきてくれたかの様な、そんな表情を浮かべている。


 どこかバツが悪そうではあるが、レティもまんざらではなさそうである。


 だが今は久しぶりの再会を喜んでいる暇はない!


 レティはそのまま恭弥とサアラの方へと足を進めようとするのだが、あまりの急展開に流石にセシリアとケインも、彼女に説明を求める!



「おっ! おい! あんた一体何者だ!? それにさっきの…… 転移術か!?」


「天界広しといえど、『最高神様と女神様のみ』が使える神術を使えるなんて…… 一体貴方は!?」


「ふむ、二人が以前話してた自慢の弟子達とやらか――」


「妾はこの二人の友人じゃ」


「転移術は確かに常軌を逸する程の技術と繊細な霊力コントロールを必要とする上に、集中力を欠いて転移先の座標設定をしくじれば大事故にも繋がりかねん程の(というか下手くそがやると最悪死ぬが)最高レベルの神術じゃが――」


「妾は天才じゃからの。 不可能を可能にする事位、修練でどうとでもなるわ」


「そんな事より、さっきも言ったがここは妾に任せよ…… 『とりあえず』じゃが、なんとか二人の命は繋いでみせよう」


「! 『とりあえず』ってなんだよ!」


「…… どういう事なのか説明を求めます!」


 いきなり現れた正体不明のどこの馬の骨ともわからない女が現れては不穏なワードを発していれば、いくらこの緊急時といえど納得のいく説明もなしに恭弥達に触らせるのは危険すぎると警戒するセシリアとケイン!


 だが最高神とイステリアはレティの口振りから、彼女が何をやろうとしているのか察しがついてしまうのであった。



「レティ君……」


「貴方まさか…… 『あの術』を!?」


「いかん! レティ君! それでは君の方がっ――」

「最高神様!」

「!っ レティ君! しかし!」


「そうよ! レティちゃん! 絶対ダメよ! 何か他の――」

「師匠も! もう他に方法がない事はわかってらっしゃいますよね!」

「!!っ でも!」


 明らかに、これからレティがやろうとしている事がわかっていて、それでも納得がいかないといった様子の最高神とイステリア。


 そんな中、何が何だかわからない状況に苛立ちと焦りを感じたセシリアはレティに再度突っかかってしまう!



「あの術!?」


「おい! なんだ! あの術って!? 何をするつもりなのか、ちゃんと説明しろ!」


「やかましい! 『すぐには死なん』という事じゃ! じゃがもうこれしか方法はない! 例えお二方の神の力をってしてもな」


「どけ! このまま何もせずに二人を死なせたいか!?」


「今の二人を見て一分一秒を争う状況だというのがわからんのか! ただでさえ妾にはまだやる事が一つ残っておるというのに!」


「これ以上駄々をこねて妾の邪魔をしようものなら、まずお主ら二人を秒でぶちのめしてからそこを通してもらうぞ!」


「そちらの方が早いのであればな――」


 恐ろしい程の威圧感と氷の様に冷たい眼差しで二人を威圧するレティ!


「! くっ!」

「!!!っ」


 激しく殺気を放つとその余波で恭弥達の身体が危うい為、静かにセシリアとケインのみに殺気を抑え、絞って向けるレティであったが、表面上は抑えているとはいえ、その殺気の本質を肌で感じ、それが『ただの脅しではない』事を理解するセシリアとケイン!




 なっ! なんだこの女の迫力はっ!!


 このアタシがっ! 気圧されて動けねえだと!!!


 この女っ! マジで何者なんだよ!




 何という気当たりっ!!


 この女性…… 明らかに只者ではない……


 それにあの眼…… あれは脅しでも何でもなく、間違いなく本気の眼だ……


 本気で自身の邪魔をする様なら、僕等二人を叩き潰してでも恭弥さんとサアラさんの所に行くつもりだ!


 いくら傷ついているとはいえ、僕等二人を相手にその方が手っ取り早いと本気で思っているのか……


 先程の最高神様とイステリア様との会話から、三人は師弟関係で、それも親しい間柄でもあるかの様なやりとりだったが……


 たまに例外的な方もいるとはいえ、正真正銘! 本物の神である女神様や最高神様の教えを受けられる資格があるのは基本『あの一族』しかいないはず……


 けど他にいるなんて聞いた事ないし……


 一体、彼女は……


 

 レティのあまりの迫力に、二人程の実力者でも一歩も動けないでいるセシリアとケイン!


 大人げないかもしれないが、レティにとっても恭弥とサアラは良き友人であり、愛弟子であり孫同然の久藤雫の親友でもあるのだ。


 これから行う事に関しても、その詳細を話していると長くなってしまう恐れがあるので、正直説明している余裕は全くない!


 レティからしてみれば、この状況下で無駄に時間を浪費するわけにはいかないのである!


 そんな彼女のあまりに鬼気迫る迫力と、最高神とイステリアの顔見知りで、一定以上の信頼関係はありそうな事――


 そして確かに、今、恭弥達を助ける為には時間をかけてはいられない事から、不安はあるものの、ここは一旦レティに任せる方が良いと判断するケイン!



「…… セシリアさん…… 確かに今は時間がありません……」


「どうやら最高神様達のお知り合いの方でもあるみたいですし、今はこの人にかけるしか!」


「! …… わかった…… もう…… それしかねえみてえだな……」


 ケインに言われ、セシリアも納得こそしていないが、理解は示し、道を開ける事を選択する。


 それを確認し、二人に対しての殺気を解くレティ――


 

「…… どうか頼む! いや! お願いします!」


「僕の方からも! どうかお願いします!」


 レティに深々と頭を下げ、恭弥達の事を懇願するセシリアとケイン!


「うむ。 後は妾に任せておけ!」


 二人の間を通り、恭弥とサアラの前まで歩いていくレティ。


 そして彼等の前で自身の両膝をつき、正座に近い形で座り込む。


 そこから一旦両目を閉じ、神経を集中する為、深く深呼吸するレティ。




 大丈夫じゃ…… 妾はやれる……



 今度こそ…… 救ってみせる!



 もう…… 誰も妾の目の前で!



 これ以上、大事な者は失わさせん!



 両目を開き……

 


 そして!



 覚悟を決めるレティ!



 だが無情にも、そんな彼女を『かつて襲った事件』――



 当時のその『トラウマ』が!


 

 この極限の状況下で彼女に襲い掛かり! 



 その記憶をフラッシュバックさせる!




 *    *    *




「ウゥ! グウゥゥゥゥッ!!!!」



「どうして…… どうしてこんな事に……」



「一体っ! どうすればっ!」



「コロ…… シテ……」



「!!っ なっ!?」



「ハヤ……ク! イマノ…… ウチニ!」



「何を…… 何を言っておる!?」



「ハヤク…… レティ……」



「いや…… 嫌じゃ…… 嫌じゃっ!!」



「レティ……」




 *    *    *




「!!!!っ ひっ!」


「~~~~~~~~っ!!!」


「あぁっ!! あああぁっ!! ああああああああああああ!!!!!!」


「ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! はあ! はあ! はあ! うぶぅっ!!」


 突如、自身の頭を両手で抱え込み、恐怖、後悔、絶望、悲しみといった負の感情で押し潰されそうになるレティ!


 その両の瞳からは涙が流れ、大量の汗、そして過呼吸にも陥って吐き気も催してしまう程であった!



「!!!!?」

「!!!!?」

「レティ君!」

「レティちゃん!」


 過去の記憶にさいなまれ、その心が折れてしまったレティ!


 一同は最大のピンチを迎えてしまう!




 

 

 

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